PIVOT TALK SCIENCE
【天文学の最前線】「第2の地球」は発見できるか
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2025年11月8日

地球の自転速度の影響で、7月10日は「今年で最も短い1日」だった。なぜ地球の自転速度は急上昇したのか?最新の天文学が明かす地球の未来とは?天体が織りなす宇宙の神秘について、天文学者の小久保英一郎氏に聞いた。 ▼プロフィール 小久保英一郎|天文学者 専門は惑星形成論。国立天文台 科学研究部教授、天文...
AIが天文学に描く未来:ビッグデータから「第2の地球」探査まで
最先端技術の進化は、遥か彼方の宇宙の解明にも劇的な変化をもたらしている。特にAIは、これまで膨大な時間と労力を要した観測データ解析や複雑なシミュレーションの常識を覆し、天文学研究に新たな地平を切り拓いているのだ。
私たちは一体何者なのか、そしてこの宇宙の神秘はどこまで解き明かされるのか。AIが加速させる天文学の世界と、人類の根源的な問いへのアプローチに迫る。

Q. 天文学におけるAIの役割は、単なる計算能力の向上に留まらないのか?
シミュレーションにおいてスーパーコンピューターの計算能力の向上は確かに重要だ。しかし、AIの活用はそれ以上の価値を天文学にもたらしている。
まず、夜空全体をスキャンするような大規模な観測によって生成される「ビッグデータ」の解析において、AIは既に不可欠な存在である。天文学は、まさにAIが活躍できる分野であり、機械学習技術がその解析を劇的に効率化している。
さらにAIは、宇宙の現象を再現するシミュレーションの高速化にも貢献する。例えば、わずかな条件の違いが結果にどう影響するかを知りたい場合、従来のシミュレーションでは条件を変えるたびに莫大な計算時間が必要だった。しかし、過去のシミュレーション結果をAIに学習させることで、新たな条件における結果を予測したり、異なる計算結果の間を補完したりすることが可能になるのだ。
これにより、スーパーコンピューターで全てのケースを計算し直す手間が省け、はるかに短時間で多種多様なシナリオを検証できるようになる。AIは、天文学研究の効率性と網羅性を飛躍的に高める、強力なツールへと進化しているのである。
Q. AIは、シミュレーションの中でも特に計算負荷の高い部分をどのように最適化しているのか?
シミュレーションは非常に時間と労力を要するプロセスであり、特に特定の複雑な現象を正確にモデル化する際には、さらに大きな困難が伴う。
例えば、銀河の形成と進化のシミュレーションにおいて、ガスから星が誕生し、やがて星が死を迎えるプロセス全体を扱うことがある。この時、質量が大きな星が一生の最後に迎える「超新星爆発」は、宇宙スケールで見れば一瞬の出来事である一方、物理現象としては極めて複雑であり、詳細に計算しようとすると膨大な時間がかかるといった問題があったのだ。

この超新星爆発のように、シミュレーション全体の計算時間のかなりの部分を占める複雑な現象に対し、AIが解決策を提供する。具体的には、あらかじめ多くの超新星爆発のシミュレーションを行い、その結果をAIモデルに学習させる。これにより、本番の銀河シミュレーションでは、爆発が発生する部分だけを学習済みの「代理モデル(サロゲートモデル)」に置き換える。
つまり、銀河全体のような比較的ゆっくりと進行するスケールのシミュレーションは通常通り行い、爆発のような短時間で発生する詳細なプロセスはAIモデルが代替することで、全体の計算時間を大幅に短縮しつつ、複雑な現象も高い精度で再現できるようになる。この技術革新は、宇宙の進化の理解を深める上で極めて重要な意味を持つ。
Q. 「第2の地球」は既に多数発見されているのか?また、その探査方法とはどのようなものか?
「第2の地球」、すなわち生命を宿す可能性のある惑星の探索は、天文学における最も注目されるトピックの一つだ。
現在のところ、地球のように大量の液体の水が存在する可能性がある惑星、つまり恒星からの距離が適度で、暑すぎず寒すぎない「ハビタブルゾーン」に位置する惑星は、既に何十個も発見されている。これは、水が凍りつくことも、蒸発しきることもなく、液体として表面に存在できる範囲のことである。

しかし、単にハビタブルゾーンにあるだけでは、実際に海があるかどうか、生命が存在し得る環境かどうかは分からない。そこで次に重要になるのが、それら惑星の「大気組成」を詳しく調べることだ。
水蒸気はもちろんのこと、宇宙では通常、炭素と結合していることの多い「酸素(O2)」が単体で豊富に存在している場合や、さらに大量の酸素がないと生成されない「オゾン」などが検出されれば、植物のような生命活動が存在する「バイオマーカー」となる可能性が指摘されている。
現在、より精密な宇宙望遠鏡などを用いた観測が進められており、これらのバイオマーカーを手がかりに、生命を宿せるような環境を持つ惑星を探すことが、大きな目標となっている。遠くない将来、本当に海を持つ惑星、さらには生命の兆候を示す惑星が発見されるかもしれないという期待が高まっている。
Q. 遥か遠い系外惑星の「大気」を分析するには、どのような観測技術が必要となるのか?
系外惑星の大気組成を調べることは、極めて困難な観測である。なぜなら、惑星は主星(恒星)に比べて非常に小さく、自ら光を放たないため、その明るさは「灯台の光の横を飛ぶホタル」に例えられるほど微弱だからだ。灯台の強い光のそばでは、ホタルの小さな光を見ることは難しい。
この困難を克服するため、天文学者は画期的な技術を開発している。それは、望遠鏡の光学系内で主星の強力な光を人工的に「消し去る」方法である。これは、ちょうど月が太陽を隠す「日食」のように、意図的に主星の光を遮蔽することで、その周囲に隠れている微弱な惑星の光だけを浮かび上がらせる技術である。この技術が確立されつつあることで、微細な惑星の光を捉え、その光から大気の物質に関する情報を分析することが可能になるのだ。
現在、こうした観測を専門とする新しい宇宙望遠鏡の打ち上げ計画も進んでいる。このような精密な技術によって、ハビタブルゾーンにある何十もの惑星の中から、本当に海が存在する惑星、さらには生命の兆候を示す惑星が見つけ出される日もそう遠くないだろうと楽観的な見方も示されている。
人類の観測能力は飛躍的に向上し、宇宙における生命の可能性に迫る段階へと移行しているのである。
Q. 天文学の研究が、人類にとってどのような根源的な問いに対する答えをもたらすのか?
天文学の研究は、大きく二つの根源的な目的を持つ。一つ目は、この広大な宇宙がどのような仕組みで動いているのか、その普遍的な「法則」を明らかにすることだ。重力や物質の性質、時空間の構造など、宇宙全体を支配する物理法則を解明することは、私たちの住む世界、そして宇宙の全容を理解するための基礎となる。
二つ目の目的は、宇宙の誕生から現在に至るまで、物質がどのように変化し、より複雑な形へと進化してきたのか、その壮大な「歴史」を描き出すことである。ビッグバンに始まり、素粒子の生成、星や銀河の誕生、そして生命の進化へと繋がる物質の変遷を辿ることで、「私たちはどこから来たのか、そして何者なのか」という人類の古来からの問いに対する科学的な答えを探し求めている。

天文学は、直接的に私たちの明日の食卓を豊かにするわけではないかもしれない。しかし、人間が持つ「知りたい」という根源的な好奇心、宇宙の謎を解き明かしたいという探求心こそが、歴史を通じて人類の文明を発展させてきた原動力である。天文学は、そうした根源的な問いに対して科学的な手法でアプローチし、私たちの存在のルーツと意味を問い続ける、最も奥深く普遍的な学問分野の一つなのだ。
それは、単なる科学的知識の蓄積にとどまらず、人間が自己を認識し、世界観を形成する上での重要な役割を担っていると言えるだろう。