PIVOT TALK SCIENCE
【宇宙の神秘】地球の自転速度はなぜ急上昇したか
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2025年11月8日

地球の自転速度の影響で、7月10日は「今年で最も短い1日」だった。なぜ地球の自転速度は急上昇したのか?これから我々の生活に影響はあるのか?天体が織りなす宇宙の神秘について、天文学者の小久保英一郎氏に聞いた。 ▼プロフィール 小久保英一郎|天文学者 専門は惑星形成論。国立天文台 科学研究部教授、天文...
地球自転速度「急上昇」の真相と、土星の環の「山脈」の謎
2025年7月10日は「今年最も短い1日」だったというニュースが、SNSで話題になった。このニュースの背後には、天文学における壮大な時間スケールと、未解明の宇宙の謎が潜んでいる。国立天文台の小久保英一郎教授の専門分野である惑星形成論では、地球を含む太陽系惑星がいかにして誕生したのかを解明すべく、最新の観測技術とスーパーコンピューターを用いたシミュレーション研究などが日々行われている。一見、人間に無関係に見える地球の自転速度の「ゆらぎ」から、子供の頃に心を奪われた土星の輪に隠された「巨大山脈」の発見、さらには「第2の地球」探しの最前線まで、天文学研究が織りなす知的な冒険を紹介する。
惑星形成論は、われわれの住む地球や太陽系の惑星がどのように生まれてきたかを研究する分野である。標準的なシナリオは構築されつつあるが、新しい望遠鏡による観測や探査機の情報が次々と既存の知見を塗り替え、この分野はまさにホットな状態が続いている。広大な宇宙を相手にするため、実際の実験は不可能だが、物理法則をコンピューター上に再現し、シミュレーションを通して「実験」を行う手法がこの分野を牽引している。

Q. 地球の自転速度が急上昇し、2025年最短の1日となったというニュースは本当か?
2025年7月10日が1日の長さとして今年最短を記録し、地球の自転速度が急上昇しているという報道が一時メディアを賑わせた。しかし、この「最短」とは、標準的な24時間に対してわずか1.38ミリ秒短いという微小な変化を指すものであった。国立天文台の小久保英一郎教授は、この変化について「専門家から見れば大騒ぎするような事象ではない」との見解を示す。人類の日常生活に全く影響を与えるものではないからだ。報道はセンセーショナルであったが、実際には地球の自転速度は常にわずかな変動を繰り返しており、その振幅がごくたまに大きく捉えられることがあるに過ぎない。
Q. なぜ地球の自転速度は長期的に見て減速しているのか?また、短期的な速度変化の原因は何か?
地球の自転は、長い時間スケールで見れば基本的にゆっくりになっている。その起源は地球形成初期に火星サイズの原始惑星が衝突した際の回転の勢い(角運動量)にある。当時は1日がわずか4時間ほどしかなかった可能性もあるほど地球は高速で回転していた。しかし、地球形成後に衝突の破片が集まってできた月と地球の間で潮汐力が作用し、地球は自身の回転エネルギーを月に渡し続けている。その結果、月は地球から毎年少しずつ遠ざかり、地球の自転速度は徐々に減速し、1日が長くなっていった。この「地球の自転の勢いを月に渡す」というプロセスは現在も継続しており、地球の自転は遅くなり、1日が長くなるという大きなトレンドが揺るぎなく存在している。

一方で、短期的な自転速度の変動は、地球内部の現象に起因する。具体的には、地球のコア(核)の流動や、海水の移動・配置の変化といった、地球を構成する物質の運動が、その時点での地球全体の回転に影響を与えることで起こる。ただし、こうした微小な変動の原因を正確に特定することは、現状では非常に困難である。
Q. ミリ秒単位の地球自転速度の変化をどのようにして測定できるようになったのか?
現代ではミリ秒単位という極めて微小な自転速度の変化も正確に捉えられている。これは天文学的な観測技術の飛躍的な向上と、原子時計という精密な時間基準が確立されたことによる。かつて、時間は天体の運行(地球の自転や公転)によって定義されていたが、原子時計の登場により、天体の動きとは独立した、絶対的な時間の尺度を持つことが可能となった。これにより、遠方にある恒星など宇宙の基準点に対して地球が1周するのにかかる時間を精密に計測し、わずかな時間のずれをも検出できるようになったのだ。過去の観測技術では捉えきれなかった、この「1000分の1秒」の世界の変化が可視化されたことで、われわれは地球のダイナミクスをより深く理解する手がかりを得ている。
Q. 国立天文台の小久保教授はどのような研究環境で、具体的に何を研究しているのか?
日本の国立天文台は、世界的に見ても非常にユニークで恵まれた研究環境にある。多くの天文台が望遠鏡を主要な観測設備とする中、国立天文台は天文観測用の大型望遠鏡だけでなく、天文学専用のスーパーコンピューターも保有・運用しているのだ。これは、天文学においてシミュレーションが極めて重要であると、日本の研究者たちが早期に認識し、設備導入を進めてきた成果だという。国立天文台ではこのスーパーコンピューターの利用機会を、日本全国の研究者に提供している。
小久保教授もこの恵まれた環境下で研究を行っている。教授の研究の中心は惑星誕生に関するコンピューターシミュレーションである。特に幼少期に心を奪われた「土星の環」の模様がどのように形成されたか、なぜそのような複雑な構造を持つのか、といった長年の疑問をシミュレーションを通して解明しようと試みる。こうしたシミュレーション研究は、惑星形成の初期条件を探り、現在観測される複雑な天体の現象を理解するために不可欠な手段である。
Q. 土星の環に「山脈」が発見されたというが、これは何を意味するのか?その謎はどのように解明されようとしているのか?
土星の環に関する大きな謎の一つに、「山脈」の発見がある。NASAの探査機カッシーニが土星の輪を長期にわたり詳細に観測した結果、驚くべきことに、わずか厚さ10メートル程度の土星の輪の内部に、高さが数キロメートルにも及ぶ「山脈」のような構造が発見された。これは既存の理論では全く説明がつかない現象であり、研究者たちに大きな衝撃を与えた。

従来の惑星の輪に関する理論では、氷の微粒子同士の衝突によって輪は平坦な構造に収束すると考えられていたため、「山脈」の存在はまさに常識を覆すものであった。この謎の解明に向けて、いくつかの仮説が提示されている。例えば、土星の衛星ミマスによる重力の影響や、輪の中に生じる密度の波「密度波」が原因である可能性が指摘されているが、いずれも決定打とはなっていない。研究者たちはこの奇妙な現象をシミュレーションで再現しようと試みているが、現状では有効な仮説を立てること自体が難しく、手探りの状態が続いている。
Q. 惑星形成論における最新の発見は、これまでの常識をどのように覆したのか?また、観測とシミュレーションが天文学にどのように貢献しているのか?
惑星形成論では、アルマ望遠鏡のような最新の観測装置がこれまでの常識を覆す発見をもたらしている。若い星の周囲には、惑星の材料となる塵が円盤状に広がっていると考えられていたが、アルマ望遠鏡の観測結果から、実際にはこの塵が均一な円盤ではなく、最初から何重もの「輪」の構造を形成していることが明らかになった。これは従来の惑星形成モデルを根本から見直す必要が生じるほどの大発見であり、惑星形成の初期条件に関する考え方を大きく変えることになった。

こうした新たな発見に対し、コンピュータでのシミュレーションが重要な役割を果たす。シミュレーションは、観測された現象が何を意味するのかを「解釈」し、次に何を観測すれば良いかを「予言」する機能を持つ。例えば、ある現象が起きれば、このような光を発するはずだという予測を立て、それが観測可能かを示す。観測とシミュレーションは互いに情報を交換し、フィードバックし合うことで、宇宙の謎の解明を加速させるのだ。現代の天文学では、観測と理論(シミュレーション)が協働し、互いを高め合うことで、より現実に近い宇宙像を構築しようとしている。
Q. 現代天文学が目指す究極の目標は何なのか?
観測技術とシミュレーション技術の飛躍的な進歩により、天文学の究極の目標も変化している。現代天文学の大きな目標の一つは、「第2の地球」を探し出すことだ。これは、太陽系外惑星の中で、生命が誕生し、維持されるのに適した環境(液体の水が存在しうる領域など)を持つ惑星を発見することを意味する。これまでにも、この「第2の地球」の有力な候補となる系外惑星がすでに何十個も見つかっており、天文学者たちはこれらの惑星が実際に生命を宿せる環境を持っているのかどうか、あるいは過去に宿していた可能性がないかを詳しく調べている。これは人類が長年抱いてきた「私たちはどこから来てどこへいくのか」という問いに答えるための壮大な挑戦と言えるだろう。