政策超分析
【トランプと参政党が支持される理由】ディープステート陰謀論の真実
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2025年10月29日

「政策超分析」では、専門家が政策や国際情勢を徹底解説。今回のテーマは「アメリカ政治思想」。前編では、トランプ信者が絶えない理由を解説。 <ゲスト> 会田弘継|ジャーナリスト・思想史家 共同通信社ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。その後、青山学院大学教授、関西大学客員教授を務...
「ディープステート陰謀論」の真実:エリート支配と絶望的な格差に苦しむ現代アメリカ
トランプ現象は、一部の人間が主張するように、単なる「変な人」の言動で片付けられるような表層的な事柄ではない。その根底には、現代アメリカが抱える構造的な問題が深く横たわる。エリート層による政治支配、歴史的な経緯を辿って拡大した極端な貧富の差、経済的困窮が生んだ人々の絶望、そして、それらの矛盾がもたらしたポリティカルコレクトネスへの強い反発。
本稿では、こうした問題をジャーナリストの会田弘継氏の分析に基づき深掘りする。彼の視点から見えてくるのは、アメリカの現実と、それが日本の現状にどう繋がるかという示唆である。陰謀論の類いとして軽視されがちな「ディープステート」の実態や、労働者の味方であったはずの民主党の変質、そして日本社会にも忍び寄る「トランプ現象」の影を、Q&A形式で解き明かす。

Q. アメリカで「ディープステート解体論」が語られる背景とは何か?
「ディープステート」という言葉は、しばしば陰謀論として捉えられがちだが、本質はアメリカ政治に存在する根深い現実である。それは、一部の富裕層、大企業、ロビイストといったエリートたちが、政治を意のままに操り、一般市民の声がほとんど届かないという事態を指す。
これは空論ではない。2014年の学術研究では、アメリカで提出された約2000もの法案の成立過程を分析した結果、大企業や富裕層の意見はほぼ確実に反映される一方、一般的な人々の意見は全く政治に影響を与えないという結論が導き出された。一部のテクノクラート、官僚、知識人が一つの階層を形成し、一般市民をないがしろにする政治が行われていることは、学術的にも分析され続けている課題である。

トランプが大統領選で支持を集めたのは、こうした政治的疎外感や閉塞感を強く感じていた国民の、一種の「反乱」であったと言えよう。
Q. なぜ現代アメリカ社会ではこれほどまでに貧富の差が拡大しているのか?
貧富の差の拡大は、特に2008年のリーマンショック以降に顕著になった。オバマ政権は金融機関の救済を優先し、一般市民の住宅ローン問題や破産に対する大規模な救済措置はほとんど講じなかったのである。
結果として、中間層の人々はリーマンショックで資産の7割を失ったまま放置された。一方で、一部の金融エリート層は危機に乗じて資産を増やし、「焼け太り」する事態となった。金融機関の幹部たちが刑事訴追されることもなく、政府からの資金が彼らの退職金となるなど、一般国民には到底理解できない不公平が蔓延した。

現在のデータを見ても、その不均衡は極端である。上位1%の富裕層がアメリカの全個人資産の約36%を保有する一方、中間層40%の保有率は低下の一途を辿る。さらに衝撃的なのは、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットのたった3人の資産合計が、アメリカ国民の下位50%の全資産合計に匹敵するという事実だ。このような極端な格差社会は、「まともな国家」と呼べるだろうか。
Q. 所得格差の拡大はアメリカ社会にどのような影響をもたらしたのか?
所得格差は、社会の深刻な歪みとして現れた。特に顕著なのが「絶望死」と呼ばれる現象である。2000年代以降、先進国では稀なことだが、アメリカでは低学歴の白人を中心に死亡率が上昇したのである。主な原因は自殺、薬物中毒(特にオピオイド危機)、そしてアルコール中毒に起因する肝臓病であり、彼らが未来への希望を見失っている現状を示す。
産業構造の変化も、この状況を加速させた。1970年代まで、学歴による所得差はあれど、誰もが所得を伸ばしてきた。しかし、70年代以降は知識集約型サービス産業が成長する一方で製造業が衰退し、高卒以下の層は低賃金のサービス産業へと追いやられ、所得は伸び悩んだ。教育投資による恩恵も得られず、職と誇りを失った彼らが経済的に追い詰められ、「絶望死」に追い込まれた。
日本の多くの専門家やメディアがワシントンの民主党支持者による「バブル」の中でしか分析を行わないため、こうした地方の深刻な社会状況を見過ごし、トランプ現象の本質を理解し損ねたと言えよう。
Q. 現代アメリカの深刻な格差は「ネオリベラリズム」が原因なのか?
現代アメリカの格差社会を理解するためには、1980年代以降の「ネオリベラリズム」の潮流を無視できない。元々アメリカは1930年代の大恐慌を受け、政府が経済に積極的に介入する「大きな政府」路線(ニューディール・リベラリズム)へと転換し、その後の繁栄と自由な国際秩序形成の基盤を築いた。この路線は1970年代まで順調に機能していた。
しかし、1970年代にはベトナム戦争の失敗、石油ショック、スタグフレーション(インフレと不況の同時進行)がアメリカ経済を直撃し、「大きな政府」は機能不全に陥った。これに対し、民間の力に経済を委ねる「小さな政府」へと方向転換を図るのがネオリベラリズムである。政府による規制緩和や市場原理主義の導入を掲げた政策は、当初は経済回復に寄与したが、40年近く経った現在、その負の側面が深刻な格差社会を生み出した。
かつては成功したかに見えたこの路線が、今や「失敗」と捉えられ、社会を大きく分断する要因となっているのである。
Q. 労働者の味方だったはずの民主党は、どのように変質したのか?
ネオリベラリズムの台頭は、アメリカの政治勢力にも大きな影響を与えた。特に注目すべきは民主党の変質である。かつて労働者の保護を掲げ、強力な労働組合を支持基盤としていた民主党だが、製造業の衰退とともに労働組合の組織率は激減。民間企業の組織率は現在ではわずか6%にまで落ち込んでいる。
この支持基盤の弱体化に対し、ビル・クリントンら南部の若手議員たちが「ニューデモクラッツ」を結成。労働組合に依存した旧態依然の党運営を改め、ITや環境産業といった新興産業との連携を模索した。彼らはこれらを新たな巨大な資金源として見据え、積極的に取り込んだ。結果として、民主党は「労働者の党」から「企業の党」、さらには「金持ちの党」へと変貌を遂げていった。
かつて守られるべき存在であった労働者層は、民主党からも見放され、その不満と怒りの受け皿がトランプの共和党に移っていったのである。
Q. 「ポリティカルコレクトネス(ポリコレ)」はなぜこれほどの反発を招くのか?
ポリティカルコレクトネス(ポリコレ)もまた、現代社会の分断を象徴するキーワードだ。グローバリゼーションの進展とともに、資本は国境を越え、安い労働力を求めて海外へ、あるいは海外から安い商品を導入する動きが加速した。グローバル企業は、世界中から多様な人材を集める必要があった。そこで求められたのが、宗教、ジェンダー、文化、歴史観といった多様な価値観への「寛容さ」であった。
多文化主義や多様性は、グローバル企業が事業を円滑に進めるための「ビジネスツール」として機能したと言えよう。しかし問題は、このポリコレという価値観が、エリート層によって、経済的に取り残され、自分たちの伝統的な生き方を望む労働者層に対し「上から目線」で押し付けられたことにある。
職を失い、生活を脅かされているにもかかわらず、「あんたたちは多様性を理解しないのか」といった押し付けは、反感を買い、エリート層と一般国民との間に文化的、感情的な深い溝を生み出すこととなった。
Q. 「トランプ現象」はアメリカ固有の問題か、それとも日本でも起きているのか?
アメリカで起きている「トランプ現象」は、決して対岸の火事ではない。日本社会にも、同様の兆候がすでに現れている。例えば、参政党の躍進は、反グローバリズムや、現代の経済状況への不満を背景とするものだ。彼らの支持層には、これまで政治に関心が薄かった主婦層や若者、未投票層が多く含まれる。物価高、所得の停滞、社会保険料を含む重い税負担、いわゆる「五公五民」とも称される現代日本の現状に対し、国民の不満は募っている。

これは、江戸時代であれば「一揆」と呼ばれる民衆の反乱にも似た状況である。そして、日本の若年層の意識調査からも同様の傾向が見て取れる。2016年の世論調査では、15歳から29歳の若者層において、トランプの支持率がクリントンの支持率と拮抗していたという驚くべき結果が出た。これは、就職氷河期世代や、社会保障や税制への強い不満と不安を抱える若者たちが、既存の政治や社会システムに対し潜在的な怒りを抱いていることを示唆している。
アメリカで起きている構造的格差と、そこから生まれる絶望は、形を変えながら先進国全体で進行する現象である。アメリカの「今日」は、日本の「明日」を映し出す鏡なのかもしれない。