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トランプ来日:高市外交の試練
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2025年10月24日

高市政権の外交課題を徹底分析。最大の外交上の山場、韓国など同志国との付き合い方、米印関係悪化に伴うQUADの行方を解説。高市新総理の人物像・国家観、そして日欧関係や憲法改正の議論の展望を、慶應義塾大学教授の細谷雄一氏が考察する。 ▼プロフィール 細谷雄一|慶應義塾大学法学部教授 専門は国際政治学な...
高市新政権、予測不能な国際情勢をどう乗り切るか
26年続いた自公連立政権の終焉とともに、高市新総理が誕生した。この出来事は、日本の政治が新たな過渡期に入ったことを明確に示唆している。かつて自民党の右傾化を中道に引き戻す役割を担っていた公明党の存在がなくなった今、日本外交の羅針盤はこれまで以上に大きな試練に直面するだろう。
日本を取り巻く国際情勢はまさに激動の時代を迎えている。とりわけ、日米同盟を基軸とする日本にとって、米国が最大の外交課題として浮上する。不確実性が高まる中で、高市新政権がどのような戦略を描き、日本の国益をいかに確保していくか。その課題と展望を多角的に分析する。

Q. 高市新政権が直面する最大の外交課題は何か?
高市新政権の外交において最も重大な課題は、予測不可能な行動が顕著なトランプ政権下での米国だ。日米同盟が日本外交の揺るぎない基軸であるにもかかわらず、その同盟自体が機能不全に陥るリスクを抱える。
特に、トランプ大統領の復帰は、その前例のない政治スタイルから、過去の常識が通用しない可能性が高い。日本は従来の「プランA」(日米同盟を絶対の基軸とすること)だけでは対応しきれない状況にあると認識すべきだ。例えば、軍事分野での対米依存は継続せざるを得ないが、経済分野では自立性を模索する戦略的な使い分けが求められるだろう。

重要なのは、日本側が日米関係のあり方を決定できる立場にないという現実を直視することだ。圧倒的な国力を背景に、米国の動向が日本の選択肢を大きく規定する。この現状において、日本外交は米国がどの方向へ進もうとしているのかを見極め、与えられた選択肢の中で最適なものを選び取るという、極めて受動的でありながらも巧みな対応が求められる。
Q. 日本は予測不能な大国との関係にどのように対処すべきか?
日本がロシア、中国、北朝鮮という核保有国に囲まれている以上、米国による「拡大抑止(核の傘)」への依存は避けられない現実だ。独自の核抑止力を保持する選択肢は、現実的ではないため、日米同盟を放棄するような「プランB」は、実質的に不可能に近い。この拡大抑止のコミットメントが揺るがぬ限り、日本は現在の対米依存戦略を継続する猶予があると考えられる。
したがって、日本は「戦略的自律性」を政策領域ごとに使い分ける必要がある。例えば、核抑止に関しては米国への依存を深めざるを得ない一方、経済政策、特に貿易交渉などでは独自の外交を展開する余地が残る。これは、EU諸国が軍事面で米国に依存しつつも、経済分野で強い自立性を示す姿にも共通する。分野ごとの依存度を見極め、バランスの取れた外交を展開することが肝要だ。
昨年12月と今年6月に日米間で拡大抑止協議(EDD)が開催され、トランプ政権下でも核の傘維持へのコミットメントが示されたことは、短期的な安心材料ではあるが、その恒久性は不透明であり、常に警戒が必要だ。
Q. 「米中ディール」は日本にどのような波乱をもたらす可能性があるか?
トランプ大統領が習近平国家主席との対話を繰り返し示唆し、「ディール(合意)」形成に意欲を見せる中、米国と中国が急接近する可能性は最大の波乱要因である。これは、米中対立を前提としてきたこれまでの国際政治の構造を一変させかねず、日本にとって予測不能な「ちゃぶ台返し」となるかもしれない。
特に懸念されるのは、1971年の「ニクソン・ショック」の再来だ。米国の突然の方針転換により、日本が国際政治の枠組みから蚊帳の外に置かれる事態である。すでにトランプ大統領は、中国とのディールのために台湾へのコミットメントを曖昧にするなど、既存の慣例を無視する姿勢を見せている。
一方で、中国側は米欧との関係修復には大きな期待をしておらず、グローバルサウス諸国や途上国との関係強化に軸足を置いている。彼らの真の狙いは、米国とのディールを通じて台湾への軍事的な関与を低下させ、台湾住民に米国への不信感を煽り、結果として中国との協調路線へ誘導することだと分析されている。トランプ大統領が自国の地域関与削減を望む思惑と、中国がそれを望む思惑が不幸にも一致する「危険な利害一致」こそが、日本が最も警戒すべきリスクだろう。
Q. 日米関係の不透明性が増す中、日本外交の新たな柱は何か?
日米関係の先行きが不透明な今、日本の国益を確保するためには「同志国連携」の強化が不可欠である。高市総理は対中強硬派というイメージを持たれがちだが、実際の対中戦略は安倍政権の「戦略的互恵関係」を継承するプラグマティックな側面が強いと指摘されている。これは、公明党が連立を離脱したことによる中国とのパイプ役不在という懸念に対し、林芳正総務大臣や茂木敏充外相の起用を通じて、安定的な関係構築を図る布陣と見ることができるだろう。
日韓関係も重要な側面を持つ。歴史認識やイデオロギーの問題で対立する余地は全くないほど、戦略的連携は喫緊の課題となっている。高市総理と韓国の李在明大統領は思想的に対極に位置するが、両者ともに現実主義的なアプローチを取り、不安定な安全保障環境の中でイデオロギーを超えた協力を模索する必要性を認識している。
さらに、欧州との関係深化も日本の新たな外交の柱となり得る。日欧EPAに代表されるように、米国単独の圧力に対抗し、日本とEUが連携して世界最大の経済圏を形成し、グローバルなルール形成を主導することは、日本の交渉力を飛躍的に高める戦略的な意義を持つ。
Q. クアッドのような枠組みの変容に対し、日本はどのような役割を果たすべきか?
トランプ政権が多国間主義を嫌悪し、少数の国による連携(ミニラテラリズム)を好む傾向は明らかだ。日米豪印の枠組みである「クアッド」は、当初トランプ政権が推進するミニラテラリズムの象徴だった。しかし、トランプ大統領がインドに対し高関税を課すなど圧力をかけた結果、親米だったインドが反発し、かえって中国に急接近するという皮肉な状況を生み出している。これはクアッドの機能を弱体化させ、米国が自らの政策でアジア太平洋地域の安定を損ねる事態を招きかねない。
米印関係が不調に陥る中、日本にはインドを引き留める重要な役割が期待される。非同盟の伝統を持つインドは、いずれかの国に傾倒することはなく、バランスを取るために日本との関係を強化する可能性が高い。日本は「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」の中核を担うインドとの連携を深めることで、地域秩序の安定に貢献すべきだ。

同時に、欧州外交が日本にとって中長期的な戦略の鍵を握る。日欧が経済・技術分野で「競争力アライアンス」を構築することは、AI開発などの先端技術で米国と中国に後れを取る現状を打破し、対米交渉において影響力を持つ上で極めて有効だ。日欧の連携は日米同盟を脅かすものではないため、米国からの反発も少なく、トランプ政権との良好な関係を維持しつつ国益を最大化する道を開くだろう。
Q. 高市総理は「日本のサッチャー」と評されるが、いかに難局を乗り越え長期政権を築けるか?
高市総理は、保守主義の思想を持ち、政策に深く精通している点、そして世襲ではない自力でのし上がった経歴から「日本のサッチャー」と評される。その強みは勉強熱心な政策立案能力にある一方で、何でも自分で解決しようとして孤立しがちな点が弱みとされた。しかし、今回の組閣では総裁選で競ったライバルや実力者を登用しており、これは他者に頼るプラグマティックな姿勢の表れと評価できる。

高市総理の国家観は、現在の日本の安全保障環境が直面する危機を直視する「リアリズム」に基づいている。台湾有事などの差し迫った脅威を喫緊の課題と捉える点は、連立政権を組んだ日本維新の会とも国家観を共有する。維新との「閣外協力」という新たな形態は、維新が閣僚を出さないことで内閣の決定に縛られず、是々非々の立場で是正を求めることができるという柔軟な関係を可能にする。この連携は、憲法改正論議を進展させ、安全保障政策において自民党の求める方向性を強化する上で大きな意味を持つだろう。
高市総理が長期政権を築く上での最大の課題は、自身の右派的なイデオロギーと現実政治とのバランスをいかに取るかだ。靖国参拝などの歴史認識問題が絡む韓国訪問時など、感情的な失言を避ける自制心が問われる場面が予想される。少数与党である高市政権は、安倍元総理の第二次政権がそうであったように、理念を掲げつつも多数派形成のために柔軟な対応が求められるだろう。
外交の布陣は、茂木敏充外相や林芳正総務大臣、さらにはFOIP立案者である市川健一NSS局長(報道)など、安倍外交戦略を熟知したプロフェッショナルで固められている。トランプ政権との信頼関係を築き、米中接近を日本の国益に繋げる戦略的な外交手腕への期待は大きい。高市総理が広い視野を持ち、感情に流されずに戦略的な発信を継続できるかが、政権の命運を左右する。