
長寿を実現する「ロンジェビティ・スキル」。労働寿命を伸ばす7大スキル
「ロンジェビティスキル」が拓くキャリアの未来:健康とリスキリングで築くビジネス価値
少子高齢化、そしてAIの進化による労働環境の激変。現代のビジネスパーソンは、単なる知識の再学習(リスキリング)だけでは不十分な時代に直面している。キャリアを長く持続させ、新たな挑戦を可能にする土台、「心身の健康」が必須要件となった。
近年注目を集める「ロンジェビティ」の概念は、健康で長く働き続けられる力を意味する「キャリアロンジェビティ」へと進化する。世界有数の長寿国である日本は、このロンジェビティ分野で圧倒的な優位性を持ち、個人・企業・社会全体の「勝ち筋」となる可能性を秘めている。
本稿では、「ジャパンリスキリングイニシアティブ」代表理事の後藤宗明氏の知見を基に、ロンジェビティスキルの本質、世界的なビジネス潮流、そしてこれからの時代を生き抜くための具体的戦略を探求する。

Q. 「ロンジェビティスキル」とは何か、ビジネスパーソンにとってその獲得がなぜ重要なのか?
ロンジェビティとは長寿を意味する言葉だが、現代では健康寿命の延伸やキャリアロンジェビティ(個人が現役でいられる期間)を指す。特にロンジェビティスキルは、健康で長く働き続けるために必要な行動、知識、習慣を維持するスキルセットだ。
リスキリングはAIなどの専門スキル習得を指すことが多いが、その前提に心身の健康が不可欠だ。多くのビジネスパーソンは健康を犠牲に働き疲弊している。この状態で「AIスキルを学べ」と言っても、新しい挑戦への意欲や余裕は生まれにくいだろう。

後藤氏自身も体調絶不調時に食事・運動・睡眠を見直し、14kg減量して体調とメンタルが劇的に改善した。自身の健康管理能力は、プログラミングスキルと同様に重要な「ライフスキル」であり、リスキリングの第一歩だ。健全な心身という土台があってこそ、人は外部環境の変化に対応し、積極的にスキル獲得へ向かうことができる。
Q. なぜ「ロンジェビティ」は世界的なビジネス潮流となり、巨大な投資を集めているのか?
ロンジェビティは今、欧米で巨大なビジネスムーブメントとなっている。米国では富裕層となったベビーブーム世代が高齢期を迎え、抗老化や予防医療、若返りに巨額を投じることで一大市場を形成している。一方、欧州では少子高齢化による労働力不足への対策として関心が高まっているのだ。
AIやテクノロジーの進化もロンジェビティテック分野を加速させる。健康データの分析や個別の管理が可能になり、これまで不可能だった若返り研究が進展。シリコンバレーのテック長者らが巨額の投資を行い、この分野のスタートアップが急増している。

世界経済フォーラムも2023年のレポートで、企業が従業員の健康維持を支援し、長く働ける環境を整えることを提言した。仏ロレアル社は、年齢を「労働力と市場の資産」と再定義し、50歳以上の雇用促進キャンペーンを実施。ウェルネスホテルや健康推進型の保険会社など、ロンジェビティを核とした革新的なビジネスモデルが次々と登場している。
Q. 世界から熱い視線を浴びる日本の「長寿」は、グローバルビジネスにおける新たな「勝ち筋」となるのか?
日本では長寿は当たり前だが、世界からは熱い注目を浴びる。国際会議では「日本人はなぜ生きがいを持って元気に長く働くのか」とその秘訣に関心が寄せられる。日本の「生きがい」は海外でベストセラーとなり、沖縄や京都・京丹後市のような「ブルーゾーン」が世界の研究対象だ。
例えば京都府京丹後市では、人口10万人あたり200人以上が100歳超えとされ、長寿の秘訣が研究されてきた。男性世界最高齢記録を持つ木村次郎右衛門氏も同市出身、108歳現役美容師の箱石ひいさんのような事例は英語で世界に発信される。
このような「日本の長寿の秘訣」を活かせば、メディカルツーリズムの振興や、ロンジェビティ関連製品・サービスの輸出といった巨大なビジネスチャンスを創出できる。実際に海外のロンジェビティテック企業や投資家は日本への進出を強く希望し、日本がロンジェビティ分野のグローバルロールモデルとなる可能性は高い。
Q. キャリアを長く維持するために欠かせない「ロンジェビティスキル」には、どのような具体的な要素が含まれるのか?
後藤氏が提唱するロンジェビティスキルは、単発の知識ではなく、以下の7つの要素を統合したスキルセットだ。
食事管理
睡眠
運動
人と人とのつながり(孤独の回避)
医療リテラシー(病気の知識と予防)
美容(健康の表現としての美意識)
生きがい(人生の目的)
これらのスキル向上には「健康状態の可視化」が重要だ。Apple Watchなどで睡眠スコアを記録すれば、飲酒が睡眠の質を低下させることをデータで把握できる。CGM(持続血糖測定器)で血糖値をモニターすれば、食べ方の工夫で血糖値スパイクを緩やかにすることも確認できるだろう。
腸内細菌のRNA解析により最適な食事を提案するアプリ「Viome」のようなロンジェビティテックも登場する。健康に良いとされるトマトが炎症の原因になったり、個人によって合う合わないが明らかになるのだ。
「健康スキル」という言葉が持つ古臭いイメージに対し、「ロンジェビティスキル」という名称は、より前向きで、いきいきと長く活躍するビジネスパーソンを連想させる。年齢を問わず、自身の健康とキャリアに対する意識変革のきっかけとなるのだ。
Q. AI時代を見据え、ビジネスパーソンが今日から始めるべきロンジェビティスキル向上のための具体的な行動とは?
少子高齢化とAIによる外部環境の激変は、労働寿命(収入を得て働き続ける期間)の延伸を求める。厚生労働省データでは、60代で通院率が約60%、70代で70%超だ。企業の平均年齢が上がる中、健康問題を抱えた人材が増えれば、組織の生産性やサービス継続に甚大な影響を及ぼすだろう。

持続可能なキャリアを築くには、以下の5つの分野へのバランスの取れた投資が不可欠だ。
健康への投資(ロンジェビティスキルの習得)
お金への投資(経済的な基盤の確立)
学びへの投資(リスキリング)
人脈への投資(人間関係の維持と構築)
経験への投資(副業、ボランティアを通じた新しいスキルの獲得)
企業も従業員のロンジェビティを支援することで、競争力を高め、優秀な人材を引き付けられる。AI時代を見据えたリスキリングは早期の開始が重要だが、健康という揺るがない土台は個人のキャリアセキュリティを確保する上でも極めて重要だ。
個人が今日からできる最も重要な行動は「睡眠の質の改善」だ。睡眠は身体と精神の修復に不可欠であり、老化を遅らせる上で最も効果的だ。そのためには飲酒、特にストレスを起因とする「焼け酒」を控えることが有効である。お酒は「特別な時に楽しむもの」とし、日常的な飲酒頻度を減らすことで、深い睡眠と朝の爽快感が得られ、生活全体の好転につながる。