PIVOT TALK FOOTBALL
ブラジル戦レビュー 戦術カタールの罠
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2025年10月16日

10月14日に行われたキリンチャレンジカップ2025のブラジル代表戦。3-2の歴史的逆転勝利を振り返る。 <ゲスト> 木崎伸也|スポーツライター 1975年、東京都生まれ。2002年夏にオランダへ移住。翌2003年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材。スポーツ誌『Number』はじめ、各メ...
森保ジャパンの「後半逆転」は偶然か戦略か?ブラジル戦から紐解く課題と可能性
日本代表のブラジル戦での劇的な逆転勝利は、ファンを熱狂させた。前半に2点のリードを許しながらも、後半に驚異的な巻き返しを見せ、3対2で勝利を飾った。この結果は、チームの士気を高める一方で、その背景には日本代表が長年抱える組織的課題と、戦術的深層が存在すると専門家は指摘する。勝利の裏側に隠された、森保ジャパンの真の姿をQ&A形式で解き明かす。
Q. 日本代表はブラジル戦でなぜ劇的な逆転勝利を収めることができたのか?
日本代表はブラジル相手に前半で2失点を喫したが、後半に猛攻を仕掛け3対2で逆転勝利した。特に後半はマンツーマンによるハイプレスが機能し、ブラジル守備陣を混乱に陥れた。この劇的な変化が勝利の要因として挙げられる。しかし、勝利の決定打となったのは、ブラジル守備陣のミスが引き起こした1点であり、その後半途中から伊東純也が投入された采配がチームに加速を与えたと指摘する意見もある。
Q. 前半の不調と後半の巻き返し、日本代表のサッカーに何が起こったのか?
前半、日本はミドルブロック、あるいはローブロックを敷き、効果的なプレスをかけられずブラジルにボールを自由に回された結果2失点した。これに対し後半は、カタールワールドカップのドイツ戦で見られたマンツーマンによるハイプレスを徹底した。この切り替えによりブラジルはパスコースを失いミスを連発。試合の主導権が日本に渡った。前半はプレスのタイミングに迷いがあったが、後半は選手全員の意思が統一されたことが、パフォーマンス向上に繋がったと見られている。
Q. 監督と選手の間に戦術の「齟齬」があったのはなぜか?
森保監督は、メキシコ戦などで行った「100m型(先行逃げ切り)」を目指すと公言していた。ブラジル戦前日会見でもハイプレスを強調したが、実際の試合では「マラソン型(前半セーブ、後半勝負)」に戻っていた。試合後、森保監督自身が「伝え方が良くなかった」と反省を述べたことから、監督の意図と選手たちの理解に乖離があったことがうかがえる。選手たちが強豪ブラジル相手に「危険を冒さず慎重に入る」判断をした可能性も指摘されており、戦術面での意思疎通が大きな課題である。
Q. 日本代表が繰り返し見せる「後半逆転」は、意図的な戦略なのか、それとも偶然の産物なのか?
日本代表がワールドカップや親善試合で見せる「後半逆転」は、意図的な戦略ではない可能性が高い。むしろ、0対2という絶望的な状況に追い込まれて初めて選手間の意思が「もう行くしかない」という一点で統一され、機能する側面があるという。このパターンは、前半の不甲斐ない戦いぶりで相手を油断させ、「体感5対0」のような心理的優位を築かせた後、スコアは僅差であるという日本の不屈のメンタルが相まって逆転を可能にすると専門家は分析している。これは緻密な戦術というよりも、「勝負師」森保監督のメンタルマネジメントと、相手のミスやメンバー構成による運の要素も含まれている。
Q. 個々の選手たちのブラジル戦におけるパフォーマンスはどうだったか?
鈴木淳之介:ボランチがDFラインに下がった際、一つ前に出るなど高い戦術理解度と意欲を見せ、攻守にわたり好パフォーマンスを発揮。両足を使え空中戦にも強く、複数ポジションでの起用も期待できる。
鈴木彩艶:彼の正確かつパワフルなロングキックは、ショートパスに偏りがちな日本にとって新たな攻撃の武器となることを証明。相手のプレスを無力化し、一気にチャンスを生み出す彼の存在感は大きい。
鎌田大地:ブラジル相手にも全く萎縮せず、巧みなトラップでチームを鼓舞する精神的支柱。所属クラブでは明確な戦術の下で守備をこなすため、代表での守備面も、より明確な戦術設計で改善できる可能性がある。
佐野海舟:攻守の切り替えの速さが際立つ。従来の遠藤航とは異なる「動的な」強みで、チームに新たなリズムをもたらすボランチとしての役割が期待される。
堂安律:ウィングながらサイドバックとしての守備タスクも完璧にこなし、守備IQの高さが際立った。ウイングバックとしての起用は、彼の献身性と戦術理解度からしても有効である。
上田綺世:高い得点能力を持つが、ボールキープ力には課題を残した。中央でのポストプレーよりも、サイドに流れて相手DFを引きつけ、南野や久保のためのスペースを作るオフザボールの動きが彼の価値を最大限に引き出す。
Q. コーチ陣の舞台裏に隠された森保ジャパンの組織的な課題とは何か?
今回のブラジル戦における選手の不満や戦術の齟齬は、コーチ陣の組織的な課題を浮き彫りにした。七海コーチは選手の信頼が厚く、モチベーションを引き出す「兄貴分」として機能する一方で、戦術のディテールを詰めたり、試合中の指示を具体的に与えたりする能力については疑問視する声もある。長谷部誠コーチがその穴を埋める形で、選手と森保監督・既存コーチ陣の橋渡し役を担っているのが現状である。長谷部コーチの功績は、戦術への不満を抱える選手たちに「代表は代表」と説き、チーム内の不和を抑えたことにある。しかし、森保監督が自身では伝えきれない部分を外部のコーチに依存していることは、根本的な解決とは言えない組織的な問題を内包している。
Q. 今後、森保ジャパンがW杯で勝ち進むために乗り越えるべき課題は何か?
現状の「ガチャ要素が強い」日本代表のサッカーでは、ワールドカップでベスト8が現実的な目標となると見られている。しかし、今後、日本代表の勝利が続けば強豪国からの警戒レベルが上がり、日本独自の対策を講じてくるはずである。その際に、引いて守る相手や日本をリスペクトした戦術を敷くチームに対して、どう戦術を具体化し、崩すことができるかが試される。また、選手たちの間には「積み上げ」を重視する声が多く、ブラジル戦での勝利を追い風に、今後は4バックなどの新たな戦術も試験的に導入し、そのパターンを増やすことが求められる。久保建英と三笘薫の同時起用については、どちらかを軸とした2つの異なるチームスタイルを用意し、対戦相手や選手の状態に応じて使い分ける方が、勝ち進む上で現実的だという意見が優勢である。最も喫緊の課題はコーチ陣の最適化と戦術の具体化、そしてJFAが関与するスタッフ人事の改善である。これができなければ、運任せのサッカーから脱却できないだろう。