
ガザ停戦:立役者はクシュナー
ガザ停戦合意の深層:アメリカの介入と中東の未来
イスラエルとハマスは2年におよぶ戦闘の末、停戦合意に至った。仲介役となったアメリカのトランプ大統領が戦闘終結を宣言するなか、今回の合意が従来の暫定的なものとどのように異なるのか、そして持続的な和平につながるのかに関心が集まっている。ガザの復興開発計画も含め、この複雑な状況の深層について探る。

Q. 今回のガザ停戦合意は、これまでの停戦と何が異なるのか?
今回のガザ停戦合意は、前回2024年1月の停戦とは性質を大きく異にすると専門家は指摘する。前回はトランプ大統領就任直前、ネタニヤフ首相が強引に推進した停戦だったが、連立政権を組む極右政党の離脱を招き、3月には停戦が崩壊した経緯がある。今回はアメリカのトランプ大統領自身と娘婿のクシュナー氏が強く介入した点が決定的な違いだ。クシュナー氏は停戦後のイスラエルの攻撃再開に対し、「私の名にかけてトランプ大統領を止めてみせる」とまで約束したという。この米国の強力なコミットメントと、極右政党がある程度停戦を受け入れている現状が、今回の合意を前回よりはるかに拘束力のあるものとしていると見られる。

Q. この停戦は長期的な和平につながる可能性はあるのか?
現在の合意が長期的な和平につながる可能性は、依然として多くのハードルを抱える。最も大きなポイントは、ハマスの武装解除とガザの統治に関する「第2段階」の詳細が未定である点だ。現状では人道物資の搬入が続き、当面停戦は維持されるだろう。しかし、これが長期的な和平となるには時間がかかると予想される。イスラエル国内の極右政党は依然としてガザ地区支配を求め、いつでも戦闘再開を辞さない構えであるため、停戦が破綻する可能性も存在する。停戦が続くかどうかは、アメリカがガザの統治問題とハマスの武装解除にどれほど強く介入し続けるかにかかっている。
Q. なぜ今回、停戦が実現したのか、アメリカの役割は?
今回の停戦実現において、アメリカが果たした役割は圧倒的に大きい。イスラエルが戦争を続けるためには、アメリカの軍事支援が不可欠である。武器の生産能力に限界があるイスラエルにとって、アメリカの支援が止まれば戦争継続は不可能となる。この事実が、アメリカが停戦圧力をかける上での強力なレバレッジとなった。さらに、この間、フランスによるパレスチナ国家承認の動きや、国連総会でのアラブ諸国によるパレスチナ問題の二国家解決に向けた国際的なうねりも、アメリカの介入を後押ししたと考えられる。特に、トランプ大統領自身がノーベル平和賞を望んでいたことも、停戦を急がせる要因になった可能性を専門家は指摘する。

Q. アメリカ以外の国々はどのように停戦に関わったのか?
アメリカの主導に加え、アラブ諸国や周辺国が停戦交渉に大きな役割を果たした。特に注目すべきはカタールの動きである。ハマスの政治部門が拠点を置くカタールは、これまでの停戦交渉で主要な仲介役を担ってきた。しかし、イスラエルによるカタール国内のハマス交渉担当者を狙ったミサイル攻撃で、カタールは一時強硬姿勢に出た。カタールがアメリカの空軍基地を国内に抱える同盟国であることを背景に、アメリカは仲介し、ネタニヤフ首相にカタールへの謝罪をさせた。この経緯が、カタールを再び仲介役へと押し戻し、停戦協議を加速させた「奇妙な流れ」だと見られている。また、トルコやエジプトも積極的に仲介に加わった。サウジアラビアをはじめとするアラブ諸国は、内政的な国民の圧力や二国家解決への強い意思から、今回結束してハマスに対し停戦受け入れを迫ったことが、合意形成に不可欠であった。
Q. なぜトランプ政権でこの停戦が実現できたのか、バイデン政権との違いは?
今回の停戦がトランプ政権下で実現した背景には、ジャレット・クシュナー氏の存在が決定的に重要であった。クシュナー氏はユダヤ系である一方で、長年の不動産業を通じて湾岸諸国、特にサウジアラビアやUAEと極めて太いパイプを築いてきた。彼が両者にとって顔が利く存在であったため、交渉の重要なチャンネルとして機能した。バイデン政権はサウジアラビアの人権問題やイスラエルにおける人道問題を重視しすぎた結果、対話のパイプが機能しなかった側面があると指摘されている。対照的に、トランプ政権は実利を優先し、クシュナー氏のような非公式なルートを最大限に活用して、この複雑なディールをまとめることができたと言える。クシュナー氏自身の経済的利益の可能性は否定できないものの、彼の中東におけるビジネス経験が、結果的に外交上の進展に繋がったと評価する見方もある。
Q. ガザ地区の復興は今後どう進むのか、国連の役割は何か?
現在のガザ地区の復興計画は白紙の状態だ。トランプ大統領による抽象的な言及はあるものの、具体的には「瓦礫の撤去」と、人々の命をつなぐための「人道支援」が最優先課題である。人道支援を安定的に供給するところから再建は始まるため、本格的な復興はその先になると見られている。また、ハマスの武装解除と、アメリカが関与する形で組織されるであろう統治機構のあり方といった政治的課題も、復興への前提となる。国連が和平交渉に直接関与しなかったことは、安保理常任理事国の拒否権という構造的な制約によるもので、国連が機能するには関係国の同意が必要だからだ。しかし、今後の人道支援と復興の局面では、国連は非常に大きな役割を果たすことになる。国連は中立的な立場から人道物資の配給を担い、特に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の役割が復興に不可欠であると専門家は指摘する。

Q. ガザ停戦はIMEC構想にどのような影響を与えるのか?
IMEC(インド・中東・欧州経済回廊)構想とは、インドからUAE、サウジアラビア、ヨルダン、イスラエルを経由し、海路と陸路でヨーロッパを結ぶ壮大な物流網の構築を目指すもので、2023年のG20でアメリカが主導し提案された。これは、フーシ派の攻撃で不安定化した紅海ルートを避ける代替策としても注目されている。この構想実現の最大の鍵は、イスラエルと国交がないサウジアラビアの国交正常化であったが、ガザ紛争により事実上停滞していた。ガザの停戦が成立し、第2段階の復興へと進めば、このIMEC構想が再始動する可能性は大いにある。ガザ復興に必要な莫大な資金をサウジアラビアが拠出し、その見返りにイスラエルとの国交正常化が進めば、IMEC構想は現実味を帯び、中東の地政学的バランスを大きく変化させる起爆剤となる可能性がある。