PIVOT TALK MONEY
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2025年10月9日

「円安・ドル高」を上回るペースで進む「円安・ユーロ高」。このまま対ユーロでの円安は進み続けるのか?その背景にはどのような要因があるのか?みずほ銀行の唐鎌大輔チーフ・マーケットエコノミストに分析してもらった。 <ゲスト> 唐鎌大輔|みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 慶應義塾大学経済学部を卒...
ピボットマネーではみずほ銀行チーフマーケットエコノミストの唐鎌大輔氏が「なぜ円安が止まらないのか」をテーマに解説した。特に高市新総裁誕生後、株式市場も為替市場も大きく動いているという。この市場の動きは「リフレトレード」、別名「高市トレード」と呼ばれている。実際、週末に高市総裁が誕生して以来、ドル円は1日1円ずつ上昇する勢いで、マーケットは多くの予想通りの展開を示していると唐鎌氏は指摘した。

高市氏からは財政金融政策に関して、まだ具体的な発言はない。しかし市場は「金融は利上げを遅らせ、財政は拡張型になる」という思惑に基づき、円を売っている。マーケットは情報が提供されない限り、人々が想像するように、あるいは面白がって一方向に動く特性があるため、なんらかの情報発信があるまでは円と株の上昇トレンドが続く可能性があると言えよう。現在の状況は、リーダーが何を考えているかではなく、マーケットが何を期待しているかによって、ある種、暴走している状態である。
2025年の為替市場は「ドル全面安」が顕著であると唐鎌氏は説明する。ドルはあらゆる通貨に対して下落傾向にあり、本来であれば、ドル安の恩恵を受けて他の通貨が上昇するのが自然な流れだ。しかし、この中で円だけがドルに対して下落する「一人負け」の状態に陥っている。
ドル安による通貨高の恩恵は、主にヨーロッパ通貨、特にユーロやスイスフランに集中している。世界の投資家の間では「ドル以外の主要通貨は欲しいが、円は避けたい」という構図が鮮明になりつつあるのだ。これは、日本固有の構造的な弱さを示唆している。世界中でドルが下がる中、なぜ円だけがさらに下がり続けるのか、この異常な状況が日本の経済に深く根ざした課題を浮き彫りにしている。

ユーロ円が史上最高値を記録している背景について、唐鎌氏はそれがユーロ自体の力によるものではなく、円の弱さ、すなわち「円安の副産物」に過ぎないことを強調した。対ドルでのユーロ相場を見ても、過去最高値であった2009年の約1.60ドルからは依然として大きく下回る約1.16ドル前後にとどまっており、ユーロが全面的に評価されているわけではないと述べた。
過去には2000年代初頭の「ユーロフォリア」と呼ばれる時代があり、ユーロは第2の基軸通貨として期待され、対ドル・対円で最高値をつけた。しかし現状はそれとは異なるという。にもかかわらず、最近ユーロ買いが進む背景には、防衛費を共同で賄う「共同債」の発行が視野に入り、これが財政統合への一歩と見なされていることがある。欧州では、米国の初代財務長官ハミルトンが各州の債務を統合した故事に倣い、この動きを「欧州版ハミルトン・モーメント」と呼ぶ論調も見られる。これはユーロ圏の最大の弱点であった財政の未統合が克服され、安全資産が生まれるかもしれないという期待に繋がっており、ユーロの構造的な強さに寄与する可能性がある。

唐鎌氏は、日本で円安を巡って「日本売り」という言葉が飛び交う状況は、単に金融政策の違いだけでは説明できない根深い問題を抱えていることを示唆すると警告する。多くの人は「FRBが利下げに転じれば円高に戻る」と予測していたが、実際には利下げが開始されたにもかかわらず、円安は加速の一途を辿っている。さらに重要な点は、日米金利差が縮小し、日本の円金利が上昇しているにもかかわらず、円安が進行していることである。
唐鎌氏はこの現象を「日本売り」と呼び、それがファクトとして金融市場で進行していると強調する。この状況は高市新総裁の誕生前から、少なくとも今年の4月頃から見られる。本来、金利が上昇すれば通貨の魅力は高まり、通貨高に繋がるはずだ。しかし日本の場合は逆であり、これは金融政策の妥当性だけではなく、より広範な「その国の信認」が低下しているアラームである。デジタル赤字や貿易赤字による外貨流出、海外で稼いだ利益が国内に戻らない構造など、構造的な要因によって「ドル円は下がりにくく、円安は修正されにくい」状況に陥っていると唐鎌氏は指摘する。

現在の急激な円安とそれによる物価高騰に対し、国民の間では「円高こそ国益」という認識が広がりつつある。2024年1月に日本銀行が利上げした際の世論調査では、国民の半数以上が利上げを支持しており、過去の「利上げアレルギー」の時代とは一変している。円安を止め、インフレを抑制するための利上げであれば、世論も支持し、政治も動きやすい環境が整ってきていると言える。
唐鎌氏は、円安を止める王道として次の三点を挙げる。第一に、現在の極めて低い「実質金利」をプラスに転じさせること。日本は名目金利からインフレ率を引いた実質金利が非常に低く、諸外国からは「まだ本気を出していない」と見られている可能性が高い。実質金利がプラスに転じれば、さすがに現在の150円超という円安水準は修正されるとの期待がある。第二に、財政規律を明確にすること。そして第三に、貿易赤字を減らせるような産業を育成することである。
円高が一時的に株価の下落を招く可能性はあるものの、歴史的に「通貨安で滅びた国はあっても、通貨高で滅びた国はない」。古来「通貨安は途上国の悩み、通貨高は先進国の悩み」であるから、日本は先進国として通貨高に対応できる経済体質を示すべき時期に来ていると唐鎌氏は語る。
今後の為替市場を占う上で注目されるのは、政治動向である。具体的には、日米首脳会談の行方、高市総裁や日本銀行幹部からの金融政策に関する具体的な発言、そして財務大臣をはじめとする主要閣僚の人事が挙げられる。現在のマーケットは「高市相場」となってから、政府や日銀からの金融政策に関する明確な情報発信がほとんどないため、ヘッドラインや人事を巡る「連想ゲーム」で動きやすい状態にある。特に、財務大臣のポストに誰が就くかによって、市場のセンチメントが大きく変化する可能性があると唐鎌氏は指摘する。
根本的な懸念は、日本の財政が悪材料として認識され、投機的な円売りの口実とされる危険性である。円金利の上昇と円安が同時に併存する現状は、外部から見れば日本の財政リスクを意識し始めたサインとも解釈できる。為替市場は直情的な側面があるため、一度「財政リスク」が明確なテーマとなれば、投機筋がさらに円売りを仕掛けてくる可能性がある。為政者たちは、こうした金融マーケットからの静かながらも強烈な警鐘を真摯に受け止めるべき時期にあると唐鎌氏は警告する。

世界的ドル安が進行する中、日本円が「独り負け」の状態に陥り、ユーロ円は史上最高値を更新している。この現象は、単なる金利差の問題ではなく、日本の経済・財政構造全体に起因する深い課題を反映していると言える。唐鎌氏の分析は、現在の円安が一部で「日本売り」と化しており、構造的な問題への根本的な対応なしにはこの流れを止めることは困難であることを示唆した。
実質金利の正常化、財政規律の明確化、そして新たな産業育成を通じた貿易構造の変革が、円の信頼を取り戻すための王道となるだろう。国民が利上げを支持する状況に転じている今こそ、政治は短期的な株価変動を恐れず、長期的な国益を見据えた決断を下す転換点にある。変貌する世界経済の中で、日本が「先進国」としての役割と通貨の信認を守るため、その本気度が問われている。