ビジネス虎の巻
(1059)
1.1万回視聴
2025年10月3日

生命保険不要論は本当か?保険に詳しいファイナンシャルプランナーが大激論。前編のテーマは死亡保険・貯蓄型保険。 <ゲスト> 長尾義弘/ファイナンシャルプランナー 黒田尚子/ファイナンシャルプランナー サムネイル 写真:iStock
保険は「人生最大の買い物」と言われる住宅に次ぐ高額な支出だ。しかし、その選び方や本当に必要な保障を見極めるのは容易ではない。特に、長期にわたる「終身保険」や、貯蓄を兼ねた「学資保険」「個人年金保険」は、現代の経済状況において賛否が分かれている。本記事では、ファイナンシャルプランナーが、多様な意見と客観的なデータに基づき、保険に対する現代人の疑問をQ&A形式で解き明かす。

終身保険は保険料が高く、家計を圧迫する可能性が高い。特に現在のような金利上昇局面やインフレ環境においては、基本的に避けるべきである。物価上昇は保険の固定価値を目減りさせ、加入者は長期的に見ると損をする可能性が高い。超長期にわたる固定金利の保険は、金利変動リスクを負うことと同じであり、家計を潰す原因にもなりかねない点を理解すべきだ。

終身保険の目的は一生涯の保障であり、それが最大の特長である。しかし、子育て世代などの現役層にとって本当に必要な保障期間は、子どもが経済的に自立するまでの期間限定がほとんどだ。そのため、必要な保障と不必要な保障を見極めることが重要となる。高い保険料を支払う終身保険が常に最適な選択肢とは限らないのである。
子育て世帯に必要な死亡保障は、多くの場合、子どもが独立するまでの期間に限定される。このニーズに対して、割安な保険料で合理的に備える選択肢として、「定期保険」や「収入保障保険」がある。定期保険は一定期間、大きな保障を確保できる契約であり、収入保障保険は被保険者の死亡後、保険期間満了まで毎月年金のように保険金を受け取れるタイプだ。子どもの成長に合わせて必要な保障額が減っていくため、後者のほうがより効率的と言える。どちらも「掛け捨て」タイプであり、保険料を抑えられるのが特徴だ。

多くの人が「掛け捨て」と聞くと「損をする」というイメージを持つ。しかし、保険の本質は「めったに起きないが、起きたときに経済的損失が大きい事態」に備えることである。万が一の事態が起こらなければ、それは加入者が健康で過ごせた証であり、保険料を「掛け捨て」で終わることは喜ぶべきだ。無理なく支払える保険料で、必要最低限のリスクに備えるのが、子育て世帯の合理的な判断である。
学資保険や個人年金保険のような貯蓄型保険は、NISAやiDeCoといった資産形成の制度と比較すると、利率が低く手数料も高い場合が多く、資産形成の手段としては非効率だ。商品によっては元本割れのリスクも存在する。保障と貯蓄は分離して考えるのが原則であり、貯蓄にはNISAやiDeCoなど、より税制優遇があり効率的な制度を活用すべきである。これにより、資金の最大化を図ることが可能となる。
一方で、学資保険や個人年金保険には、精神的あるいは仕組み上のメリットも存在する。特に、貯蓄が苦手で「お金があると使ってしまう」という人にとっては、強制的に積立が行われるこれらの保険が有効な場合もある。子どもへの思いを形にするという点で学資保険を選ぶ人もおり、経済合理性だけでは測れない価値もあるのが事実だ。また、変額個人年金保険のように、NISAやiDeCoの非課税枠を使い切った後、さらに老後資金を積み増したい場合に、保険料控除を利用しつつ、ネットでの簡単な「スイッチング」で投資先の比率を変更できる手軽さも魅力となる。
老後資金準備の優先順位としては、iDeCoやフリーランスに最強と言われる「小規模企業共済」のように、税制優遇が最も大きい制度を優先し、次にNISAを活用、その上でさらに余裕があれば個人年金保険を検討するというステップが効率的である。資産運用の出口戦略も考慮し、資金が必要な時期の数年前からは、投資商品を現金化するなどの計画性が不可欠である。
終身保険が有効活用できる場面も確かに存在する。特に「老後の3つの危機」(退職金の浪費、病気・介護による資産減、配偶者の長生きリスク)に備える手段として役立つ可能性がある。退職金の一部を終身保険に充てて、夫の死亡後に妻が確実に保険金を受け取れるようにすることで、老後の生活資金確保や、予備資金として活用できるのだ。これにより、資産が予想外に目減りするリスクを回避することが可能になる。これは特に高齢者世帯において、資産の確実な保全につながるという利点がある。
相続対策という観点から見ても、終身保険は極めて有効なツールとなる。生命保険金は、受取人固有の財産と見なされ、遺産分割協議の対象外となるため、相続トラブルを未然に防ぐ効果が高い。また、「500万円×法定相続人の数」という生命保険金の非課税枠が適用され、相続税の負担軽減にも寄与する。ただし、「お宝保険」と呼ばれる過去の高金利で加入した保険であっても、現在の経済状況や付帯する特約(例: 病気給付で死亡保障が減るなど)によっては、その真の価値を見極めることが重要である。
保険選びの最も重要な原則は「発生頻度は低いが、起きた時の損失が非常に大きいリスク」に備えることである。これに該当しない、つまり自分で十分に対応できるリスクに対しては、貯蓄や資産運用で対応する方が合理的だ。保険は「リスクヘッジ」であり、万一の「可能性」に備える手段であることを理解すべきである。

民間保険を検討する前に、必ず自分の公的保障(高額療養費制度、傷病手当金、遺族年金など)の内容を確認することが不可欠である。民間保険は、あくまで公的保障では不足する部分を補うものという認識が大切だ。自身のライフステージに合わせて必要な保障額や期間を定期的に見直し、最適なプランを再構築することが、無駄な保険料を支払わない賢い保険活用の鍵となる。加入している保険証券は複雑だが、自身の資産を把握するためにも、不明点はFPや保険会社に臆することなく質問し、内容を理解することが極めて重要である。