PIVOT TALK BUSINESS
現地取材で検証。中国自動車の実力
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2025年9月14日

コロナ後に中国の自動車はどう進化したのか?自動運転、デジタル化の最前線を自動車ジャーナリストの井上久男氏が現地取材した。 <ゲスト> 井上久男|ジャーナリスト NECを経て1992年朝日新聞社に中途入社。2024年独立。現在は主に企業経営や農業経営を取材し、講談社などの各種媒体で執筆するほか講演活...
中国自動車の実力:ロボタクの台頭からギガキャストまで
中国の自動車産業は、特に自動運転技術とEV開発において急速に進化している。経済ジャーナリストの井上久男氏が中国を訪問し、その最新事情を語る。自動運転車の普及から製造技術の革新まで、現地で見聞きした中国自動車産業の実態とは。

Q. 中国のロボットタクシーは実際にどのように進化していますか?
中国では運転手のいないロボットタクシーが日常的に走っている。BYDの本社訪問後、アプリで呼んだタクシーはなんと完全に無人。混雑した地域でもスムーズに走行し、障害物も回避する。公衆地区では安全員が乗車しているが、新線エリアでは完全無人で運行されている。

乗り心地は人間が運転する場合とほとんど変わらず、エアコン調整も音声で対応可能。中国企業は「人間より安全」と主張するが、事故もあることを認めている。
中国の強みは「割り切った社会実装」にある。新技術導入のため社会を実験台にできる点が、技術進化を加速させている。日本では事故リスクが過度に強調され、技術停滞を招きがちだ。
Q. 自動運転技術で世界をリードしているのはどの企業ですか?
世界の自動運転技術をリードする企業として「世界5強」が存在する。ウェイモ(米)、ズークス(アマゾン系)、バイドゥ、ポニーAI、ウィライド(以上中国)だ。これにテスラを加えれば「世界6強」となる。
中国企業は積極的に日本市場への進出を計画している。ウィライドは公衆市場で無人バスを運行しており、日本でも拠点設立を準備中。物流分野、特に運転手不足に悩む「ラストワンマイル」での活用を見込んでいる。
中国の自動運転技術の特徴は「エンドツーエンド方式」にある。日本や米ウェイモなどの「ルールベース」が交通ルールや走行シーンを開発者が事前に設定するのに対し、中国方式はAIがビッグデータから自ら判断して進化する。走れば走るほど性能が向上するため、進化スピードが速い。
Q. トヨタは中国でどのような戦略をとっていますか?
トヨタは「郷に入っては郷に従う」戦略を実践している。中国市場では中国企業との連携を積極的に進め、2020年にはポニーAIに4億ドルを出資。2021年にはロボットタクシー合弁会社を設立した。
さらにEV分野ではファーウェイの基本OSを採用し、BYDとEV開発会社も設立。一方でアメリカではウェイモと戦略的パートナーシップを結ぶなど、両国との関係を巧みにバランスさせている。
これは「経済安全保障」の正しい理解に基づく戦略だ。単に中国と付き合わないのではなく、アメリカ向け情報と中国向け情報を適切に管理し、双方の市場で事業展開するリアリズムを貫いている。
Q. 中国のEV市場はどのような状況ですか?
中国EVの「新三強」と呼ばれるのが、シャオペン(小鵬汽車)、理想汽車、NIOだ。特にシャオペンは2014年創業のIT系企業で、2022年にアメリカに上場し、ドイツのフォルクスワーゲンからも出資を受けている。
現在の販売台数は19万台程度だが、グローバル展開を急速に進めており、インドネシアでの生産も開始。現在30の国・地域に進出し、来年には60に拡大する計画だ。
研究開発への投資も積極的で、「空母式空飛ぶ車」という革新的製品も開発中。これは大型ミニバンの天井から小型EVが飛び立ち、電池切れになると戻ってくるというSF的な製品で、来年には約4000万円で販売予定という。
Q. ファーウェイの自動車産業への参入状況はどうですか?
通信機器メーカーとして知られるファーウェイだが、自動車産業に積極参入している。売上規模はまだ小さいものの、同社の「最大の成長事業」と位置づけられている。
ファーウェイの車両は通信機器メーカーらしく大型パネルを特徴とし、ヘッドライトには横断歩道が描かれていない場所で光によって横断歩道を映し出す機能など独自の工夫がある。

米中対立の影響を受けるファーウェイだが、社内では「苦難を乗り切る」という意志を示すシンボルとして旧ソ連の爆撃機の模型を展示するなど、厳しい状況下でも前進する姿勢を見せている。
Q. 製造技術面では中国はどのような進化を遂げていますか?
LKテクノロジーという中国企業は、テスラが開発した「ギガキャスト」技術の製造を担っている。この技術は自動車の床部分を従来の数百の部品を溶接する方法から、一体成型で製造するもの。

LKは7000トン級の中造機を保有し、すでに16000トン級も開発中。これに対し日本では7000トン級すら導入していない状況だ。
この技術によって自動車の軽量化が可能になり、溶接ロボットも不要になる。課題はあるものの、テスラ発の技術革新が中国で急速に広がっており、シャオペンやBYDなど多くの企業がこの技術を導入している。
Q. 日本と中国の産業的課題は何ですか?
中国の強みは「割り切った社会実装」と「社会実験ができる環境」にある。課題はグローバル化だ。
一方、日本の強みは自動車産業の国際化が進んでいる点だが、意思決定の遅さが課題となっている。経営学者の野中郁次郎氏が指摘する「過剰分析」「過剰計画」「過剰コンプライアンス」という「3つの過剰」が日本企業の停滞を招いている。
中国を見る際には「鳥の目」と「アリの目」の両方が必要だ。マクロの視点で全体像を把握する「鳥の目」と、現場に密着して息遣いを感じる「アリの目」。日本のメディアや専門家は「鳥の目」に偏りがちだが、現実を正確に理解するには両方の視点が欠かせない。
Q. 日本は中国の自動車産業とどう向き合うべきですか?
中国企業との付き合い方には「ルール設定」が重要だ。単に拒絶するのでもなく、ルールなしに受け入れるのでもなく、明確なルールのもとで協力関係を築くべきだ。
トヨタのように、アメリカ向け研究開発部門と中国向け部門の情報管理を徹底するなど、「生きたコンプライアンス」を確立することが必要。
かつて日本は自動車技術を中国に共有し、「盗まれた」部分もある。しかし今は「日本が盗み返す番」だと井上氏は指摘する。中国の進んだ技術から学び、日本の次のステップに活かす「したたかさ」が必要な時代が来ている。
ケアソフト社CEOのマシュー氏によれば、中国との最大の違いは「Fail Fast & Run」の精神。中国企業は失敗を恐れず挑戦し、経験値を次に活かして前進する。日本はかつてトヨタがそうだったように、ベンチャー精神を取り戻す必要がある。