PIVOT TALK LIFE
保険ビジネスの未来
(414)
7,298回視聴
2025年9月10日

世の中に溢れる生命保険や損害保険。 福岡大学の植村信保教授は「まずはリスクから考えて保険を選ぶべきだ」と語る。 今さら聞けない保険の基礎を徹底解説。 <ゲスト> 植村信保|福岡大学商学部教授 安田火災海上保険(現・損保ジャパン)を経て、格付アナリストや金融庁の統合リスク管理専門官を経験。2012年...
日本の保険市場の変革とリスクマネジメントの未来
保険は私たちの生活に欠かせないセーフティネットだが、その仕組みや市場構造について詳しく知る機会は少ない。福岡大学の植村信保教授に、日本独特の保険市場の特徴や今後の変化について伺った。インフレや気候変動、自動運転技術の進化など、様々な要因が保険業界に与える影響とは?

Q. 日本の損害保険市場は世界と比べてどのような特徴がありますか?
日本の損害保険市場では約9割が代理店経由での販売となっています。これは海外市場と大きく異なる特徴です。特に海外の企業分野では、契約者側の代理人であるブローカーを立てるのが主流となっています。

日本でこのような構造になっている理由はいくつかあります。個人向け保険の場合、これまで大きな問題が生じなかったことと、ブローカーという職業が育たなかったことが挙げられます。また、損害保険の購入動機も特徴的です。例えば自動車保険は、損害保険料収入の約半分を占めていますが、多くの人は自動車購入時にディーラー(保険代理店になっている)から勧められて加入したり、車検のタイミングで更新したりするなど、「何かのついで」に入るケースが一般的です。
Q. 代理店とブローカーの違いは何ですか?
代理店は基本的に保険会社側の立場であり、報酬も保険会社から得ています。一方、ブローカーは契約者側の代理人として、顧客のために最適な保険を選ぶことを目的としています。
日本では「保険会社と戦って私の保険をちゃんと守ってくれる人」という発想でブローカーを利用する文化がまだ根付いていません。その背景には、損害保険を真剣に考えて選ぶという消費者意識が少ないという現実があります。
Q. 企業のリスクマネジメント意識はどうなっていますか?
一連の損保問題で明らかになったのは、日本の大企業でさえ、リスクマネジメントの意識が非常に低いという実態です。多くの企業は自社が設立した保険代理店に全てを任せており、その代理店は保険会社から出向してきた人材が運営していることが一般的でした。つまり、企業は実質的に保険会社に任せきりの状態だったのです。
このような構造が問題視されるようになり、今後は企業のリスクマネジメント意識が高まることで、保険の購買方法も変わっていく可能性があります。その中で、ブローカーを利用するという選択肢も有力になっていくでしょう。
Q. 最近、保険料が上がり続けているのはなぜですか?
保険料の上昇には主に二つの要因があります。一つは物価上昇(インフレ)の影響です。特に自動車保険では、コロナ禍で一時的に事故が減少した後、経済活動の復活とともに事故が増加し、さらに物価上昇により修理費などの支払い金額が増えています。
もう一つは気候変動による自然災害の増加です。火災保険は名前に「火災」とありますが、保険金支払いで圧倒的に多いのは風水災害です。ここ数年、毎年様々な地域で大きな風水災害が発生しており、リスクそのものが大きくなっています。保険料はリスクの大きさに応じて決まるため、リスクが大きくなれば保険料も上がらざるを得ません。
Q. 生命保険はインフレや金利上昇の影響をどう受けますか?
生命保険は損害保険と違い、インフレや金利上昇は概ね経営にプラスに働きます。損害保険は実際の損害額を支払うため物価上昇の影響を直接受けますが、生命保険は契約時に決めた定額の保険金を支払うため、物価が上がっても支払額は変わりません。

ただし、利用者の立場から見ると問題があります。物価上昇が続く世界では、例えば今1,000万円の価値が20年後には100万円程度の価値になってしまう可能性があります。そのとき100万円相当の価値しかない保険金では十分な保障にならないかもしれません。つまり、生命保険会社の経営は安定しても、本来のニーズに応えるビジネスになっているかという別の問題が生じてきます。
Q. 自動運転技術の発展で損害保険はどう変わりますか?
自動車保険は損害保険会社の収入の半分を占めていますが、自動運転技術の進展により長期的には収入が減少する可能性があります。事故が起きにくくなれば、保険料も下がっていくからです。

一方で、自動運転が進むと責任の所在も変わってきます。完全自動運転(レベル4やレベル5)では、運転者は何もしない世界になります。その場合、事故の責任は自動車を提供する企業やソフトウェアを提供する企業に移っていく可能性があります。つまり、自動車保険は個人向けから企業向けへとシフトしていく可能性があるのです。
Q. 保険業界の今後の展望はどうなりますか?
損害保険分野では、特に企業向けビジネスにまだポテンシャルがあります。企業のリスクマネジメント意識が高まれば、より多様な保険商品への需要も生まれるでしょう。
生命保険分野では、長寿リスクへの対応が重要になってきます。例えば95歳以上長生きした時の保障など、新たな商品が求められています。ただし、人口減少が進む中でのビジネス展開には難しさもあります。

また、最近の保険会社は「予防ビジネス」にも力を入れています。万が一の保障を提供するだけでなく、そもそもリスクを小さくするサービスも提供する動きが見られます。例えば第一生命グループがベネフィット・ワンを買収したのは、企業の福利厚生を通じて従業員の健康リスクを下げるサービスを提供するためとも考えられます。
保険業界は現在、様々な不祥事の影響で就職ランキングが下がるなどの課題もありますが、保険が世の中を支えているという面は非常に大きいものです。社会インフラとしての役割を担い、世の中の役に立つビジネスであることは間違いありません。また、特に大手損保グループは金融セクターの中で最もグローバル化が進んでおり、国際的なビジネス展開の魅力もあります。