PIVOT TALK LIFE
いま知っておきたい生命保険・損害保険
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2025年9月10日

世の中に溢れる生命保険や損害保険。 福岡大学の植村信保教授は「まずはリスクから考えて保険を選ぶべきだ」と語る。 今さら聞けない保険の基礎を徹底解説。 <ゲスト> 植村信保|福岡大学商学部教授 安田火災海上保険(現・損保ジャパン)を経て、格付アナリストや金融庁の統合リスク管理専門官を経験。2012年...
リスクから考える保険選び~専門家が解説する保険の仕組みと賢い選び方
保険は身近なものでありながら、仕組みが複雑で分かりにくいと感じている人は多い。日本人の生命保険加入率は世帯で約8割、任意の自動車保険もほとんどの人が加入しているが、「掛け捨て」や「保険ショップの中立性」について誤解していることも少なくない。今回は保険業界に精通する福岡大学の植村信保教授に、保険の基本から選び方のポイントまで詳しく聞いた。

Q. 保険を考える時、まず何から始めればいい?
まず保険を考えるのではなく、自分の身の回りにどんなリスクがあるのかを考えることから始めるべきだ。リスクがあって、それに対してどうしたいのか、保険を使うのが良いのか、それとも自分が気をつければ良いのかを考えていく。保険に入ろうと思って入るのではなく、リスクへの備えとして保険を検討するのが正しい順序だ。

Q. 生命保険と損害保険の違いは何?
生命保険は人が生きるか死ぬかに関わるリスクに備えるものだ。死亡保険と生存保険に大別される。死亡保険は人が死んだ時のリスクをカバーし、生存保険は長生きした時のリスクをカバーする。生命保険の代表的な例としては死亡保険の「定期保険」「終身保険」、生存保険の「個人年金保険」などがある。
一方、損害保険は人の生死以外の様々なリスクに備える保険だ。自動車保険や火災保険、企業向けの賠償責任保険などが含まれる。最大の違いは、生命保険がほとんどの場合、あらかじめ決められた金額(定額)を支払うのに対し、損害保険は実際に発生した損害額に応じて保険金が支払われる(実損填補)点にある。
Q. 生命保険の種類と特徴を教えてほしい
生命保険には基本的に「死亡保険」「生存保険」「生死混合保険」の3種類がある。

死亡保険は被保険者が亡くなった場合に保険金が支払われる。定期保険(一定期間のみ保障)と終身保険(一生涯保障)があり、現在最も加入者が多い。
生存保険は被保険者が生きている場合に保険金が支払われる。個人年金保険が代表例で、長寿社会を迎え、潜在的ニーズが高まっている。
生死混合保険は養老保険が代表例で、満期まで生きていても、途中で亡くなっても保険金が支払われる。歴史的には生命保険が普及し始めた時代に売れた商品だが、どちらも中途半端になりがちという特徴がある。
Q. 「掛け捨て」の保険は損なの?
「掛け捨て」という言葉自体がネガティブな印象を与えるが、それは誤解だ。保険の本質はリスクに備えることであり、例えばセキュリティ会社と契約して何も起きなかった場合、「掛け捨てで損した」とは考えないだろう。
保険も同様で、契約期間中に保障を受けられる安心というメリットに対して保険料というコストを支払っていると考えるべきだ。保険が「掛け捨て」かどうかよりも、どんなリスクに対してどう備えるかという観点で考えることが重要だ。
Q. 保険で資産形成すべき?
原則として、純粋に資産形成を目的とするなら保険商品よりも貯蓄専用の商品(NISAなど)を選ぶ方が有利だ。保険による資産形成は可能だが、保険機能というコストが上乗せされている。
税制面では生命保険料控除や相続税の軽減といった優遇措置があり、特定の人には有利に働くこともあるが、一般的にはNISAなど非課税の投資枠を使った方が有利になることが多い。
Q. 「保険は四角、貯蓄は三角」って本当?
これは保険会社が販売促進のために生み出した言葉だ。保険は加入した時点から保障(四角)が得られるのに対し、貯蓄は徐々に積み上げていく(三角)という意味だが、片面的な説明にすぎない。

この説明では、保険の保障期間が過ぎればその保障は終わってしまう(四角で終わり)のに対し、貯蓄は使わなければ残り続ける(三角で残る)という重要な側面が抜け落ちている。正確には「三角で残る貯蓄」と「四角で終わる保障」と表現すべきだろう。
Q. 保険会社はどのように商売をしている?
生命保険と損害保険では、ビジネスモデルに違いがある。業界では「入口の生保、出口の損保」と言われることがある。
生命保険会社は長期契約が多く、一度契約を結ぶと数十年にわたって保障を提供する必要がある。そのため、契約時(入口)の健康状態のチェックなど、加入時の審査に力を入れている。
一方、損害保険会社は主に1年契約で、実際の損害額に応じて保険金を支払う。そのため、支払い時(出口)の損害調査や査定に力を入れている。この違いが「入口の生保、出口の損保」という表現につながっている。
Q. 保険金の支払いに関するトラブルはなぜ起きる?
保険金の支払いをめぐるトラブルは、特に損害保険で起きやすい。生命保険は定額給付が基本なので比較的シンプルだが、損害保険は実際の損害額を評価する必要があり、そこで見解の相違が生じやすい。
過去には「保険金不払い問題」が社会問題化し、払うべき保険金を払わなかったケースが多数発覚した。一方、最近のビッグモーター問題では、逆に不正な保険金請求に応じて支払いすぎた事案が明るみに出た。これは、ビッグモーターが保険の販売代理店としても重要な存在で、営業部門の力が強かったために内部統制が取れていなかったことが背景にある。
この問題の本当の被害者は保険会社ではなく、保険に加入している全員だ。不正に支払われた保険金は最終的には保険料に反映されるため、加入者全員が不当に高い保険料を支払わされていたことになる。
Q. 保険はどこから買うのが良い?
生命保険の販売チャネルは多様化しているが、いまだに生命保険会社に所属する営業職員(いわゆるセールスレディ)が新契約の半分程度を占めている。外資系生保の場合は男性営業職員が多いケースもあり、会社によって販売形態は様々だ。

どのチャネルが良いかに一概に答えはないが、いずれも保険会社から報酬を得ていることを理解した上で付き合うことが大切だ。保険ショップは複数の保険会社の商品を比較できる点で便利だが、完全に中立とは言い難い。保険会社からの便宜供与によって、特定の保険会社の商品を優先的に勧めるケースもある。
最近は金融庁が顧客本位の業務運営を促す方針を示し、業界の改革が進みつつある。
Q. これからの保険はどう変わっていく?
長寿化やインフレ、自動運転技術の普及など、社会環境の変化に伴い保険も変わっていくだろう。特に注目すべきは「予防」の観点だ。単なる保障ではなく、リスクそのものを減らす予防ビジネスへの進出が進んでいる。
また、インフレの影響は特に生命保険で重要な考慮点となる。長期の契約では、現在の1000万円が20年後には価値が大きく目減りする可能性がある。さらに、自動運転の普及によって事故の責任の所在が変わり、自動車メーカーやソフトウェア会社の責任が問われるようになれば、保険の形も変化するだろう。
保険を考える際は、単に「保険に入る」ことを目的とせず、リスクに対してどう備えるかという観点から、常に変化する環境を踏まえて判断することが重要だ。