PIVOT TALK BUSINESS
造船大国ニッポンの逆襲
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2025年9月9日

かつて「造船大国」として世界をリードした日本は、なぜその地位を失ったのか?中国韓国の戦略とは?海運アナリストの林光一郎氏を迎え、歴史的背景から現代の需給、そして未来の展望までを徹底解説。 <ゲスト> 林光一郎|海運アナリスト 1991年日本郵船に入社。コンテナ船や米国での開発業務を経験。NY大で修...
次世代船舶へのシフトが迫る海運・造船業界の今後
世界経済の血流とも言える海運業と、その基盤となる造船業。この業界は現在、環境規制強化と次世代燃料への移行という大きな転換点を迎えている。今回は海運アナリストの林光一郎氏に、海運・造船業界の今後の展望と日本企業の生き残り戦略について話を聞いた。

Q. 海運・造船業界の今後の市場はどのように推移すると見ていますか?
世界の海運需要は基本的に長期的には伸びていく見通しだ。世界人口の増加と生活水準の向上に伴い、必要な物資や消費財も増加する。身の回りだけでは作り出せないものが多いため、海運の重要性は増していく。
大まかに言えば、海運はGDPと同程度の比率で成長する産業だろう。これは業界のコンセンサスとなっている。ただし短期的には景気変動の影響を受ける時期もある。
船の種類でも違いがあり、資源や原材料を運ぶ比較的シンプルで大型の船は一時的に需要が減少することもある。一方で、消費財など付加価値の高い商品を運ぶ船は、相対的に高価格だが需要は安定している。トン数では一時的に縮むことがあっても、価格や運賃収入という意味では縮小しにくい市場と言える。
Q. 環境規制の強化が業界にどのような影響を与えていますか?
国際海事機関(IMO)において、2050年までに温室効果ガス排出のネットゼロを目指すというルールが決まった。これに向けて、どの時点でどれだけ排出量を減らすか、低排出燃料を使った場合にどうカウントするかなど、具体的なルールが今まさに決まろうとしている段階だ。
この秋に投票にかかり、成立すれば条約となる予定だ。これにより、省エネ性能の高い船や新しい燃料に対応できる船へのリプレースが必要になってくる。
特に注目すべきは、2006年から2008年頃に大量に発注された船が20年程度で寿命を迎えるタイミングだということ。古い船の更新需要と環境対応の必要性が重なり、向こう10年ほどの間に造船需要が大幅に増加すると予想される。
新造船は従来の燃料ではなく、LNG、アンモニア、メタノールなど温室効果ガス排出の少ない次世代燃料を使用する比率が高まるだろう。造船業界にとっては大きな需要拡大期を迎えることになる。
Q. 日本の造船業が今後も生き残っていくための鍵は何でしょうか?
日本の造船業の姿勢としては、量産船市場でしっかりシェアを取っていくことが基本となる。欧州の造船業は客船や石油掘削船など非常に付加価値の高い特殊な船に特化する戦略で生き残ってきた。また、船の部品やソリューションの提供に軸足を移している。
しかし日本がそこに進出しようとしても、欧州がすでに地盤を築いており、簡単ではない。一方、日本には造船業の基盤と大手海運会社があるので、量産船市場でのシェア確保を基本戦略とすべきだろう。
ただし、それも簡単なことではない。中国の造船所は日本がかつて成功した「勝ちパターン」を踏襲し、大規模な生産設備と最新技術の導入で競争力を高めている。特に、大型発注ロット(一度に10隻以上の大型船を発注するケース)への対応力で中国は圧倒的な優位性を持つ。

日本の造船所は人口減少の中で大規模な設備投資が難しく、中国に差をつけられている。この差を縮めるために、業界横断的な取り組みが考えられている。
1. 標準化の推進:標準設計を持つことでマーケティングが容易になり、部品コストも下げられる
2. 一定の大規模化:今年5月に業界トップの今治造船がジャパン・マリンユナイテッド(JMU)を子会社化する報道があった。これが実現すれば、大型発注ロットを受ける力が格段に高まる
3. 自動化投資:ロボットやIoT技術の導入により生産効率を高める
中国が徹底して実行していることを日本も行うことで差を開けられるペースを減らしつつ、次世代燃料船や自動運転船など、まだルールが固まっていない次世代分野でオールジャパンで競争力を築くことが重要だ。
Q. 環境対応船など次世代船舶の市場で、日本はどのような立ち位置にありますか?
次世代燃料対応船の市場はまだ立ち上がったばかりだが、中国も多くの建造実績を積み始めており、日本が強い立場にあるわけではない。しかし、市場が成熟していないため、まだチャンスは十分にある。

日本の強みは、同じ国内に海運会社があり緊密に情報連携できることや、造船以外の産業基盤から新技術を取り入れられることだ。これらを活かしながら次世代の海運・造船に必要な競争力を獲得していくことが重要だ。
また、アメリカの中国造船業に対する制裁のような地政学的な環境変化も、日本にとって逆転のチャンスになる可能性がある。
日本の造船業界では、世界シェア2割程度の維持を目指すというコンセンサスがある。そのためには、まだゲームのルールが決まっていない新しい分野で戦略的に戦っていくことが不可欠だ。
Q. 海運・造船業界を取り巻く構造変化と今後の展望
世界の海運・造船業界は環境規制の強化とそれに伴う船舶の更新需要の高まりという大きな転換点を迎えている。特に2006年から2008年に発注された船舶が更新時期を迎えることで、今後10年間は造船需要が拡大する見込みだ。

日本の造船業は、欧州のように高付加価値船に特化するのではなく、量産船市場でのシェア確保を基本としつつも、中国との競争を意識した戦略が求められる。標準化の推進、一定の大規模化、自動化投資を進めながら、次世代燃料船や自動運転船など新しい分野での競争力獲得が生き残りのカギとなる。
海運・造船業界は、世界の人口増加と生活水準の向上に伴い長期的には成長が期待される産業だ。環境対応と技術革新の波を上手く捉えることができれば、日本企業にもまだ多くのチャンスがある。