PIVOT TALK BUSINESS
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2025年9月3日

インドネシアで激化する抗議デモ。現地社会にどのような影響を与えているのか?ILO(国際労働機関)の現地マネージャーに、デモの背景にある経済停滞や20%にものぼる若者の高い失業率など、その根本原因を聞いた。現地で活動する日本企業への影響は?インドネシアの「今」を知る現地レポート。 <ゲスト> 敦賀一...

先月末からインドネシア各地でデモが発生し、一部では破壊行為にまで発展するなど深刻化しています。大規模な破壊活動に至ったのは、8月29日と30日がピークでした。ジャカルタ市内では警察署や国会議員の自宅が略奪され、地方では議会が放火されたり警察署が襲撃されたりする事態となりました。

ただし、すべてのデモが暴徒化しているわけではありません。日中は平和的な抗議活動も行われており、両者は区別して考える必要があります。デモは特定のターゲットに対して行われ、夜間に暴力的な活動が増加する傾向がありました。
デモの発端は8月上旬に遡ります。当初はジャワ島中部地域で固定資産税の増税に反対する抗議活動が起きていました。しかし、全国各地へと広がったのは8月28日の夜、オンラインタクシーのドライバーが治安部隊との接触で亡くなったことがきっかけでした。この事件を契機に、デモは破壊活動を伴う大規模なものへと発展していきました。
9月2日時点では、市内は比較的落ち着きを取り戻しています。大統領が主要政党の幹部や国会議員長、警察・軍と協議し、警察と軍のパトロール開始を宣言したことで治安は改善し、夜間の破壊活動もほぼなくなりました。市内の雰囲気はかなり平常に近い状態に戻りつつあります。
ただし、インドネシアでは何らかのきっかけで大規模な集会が暴動化することが過去にも何度もあったため、今後も注意が必要です。
デモの背景には複合的な要因があります。様々な団体がそれぞれの主張を掲げて抗議活動を行っているため、一概にまとめることはできません。
最初の発端は固定資産税の増税反対でした。その後、副大統領の辞任要求や、8月下旬には国会議員の住居費手当が不当に高く設定されたことが報じられ、低賃金で働く市民の怒りを買いました。「自分たちは低賃金で働いているのに、なぜ国会議員だけが優遇されるのか」という不満が高まったのです。
さらに、バイクタクシーのドライバーが治安鎮圧活動の中で亡くなったことで、市民の怒りが警察に向かい、状況はより複雑化していきました。
インドネシアでは経済格差が顕著です。豊かな地域は東京の丸の内以上に発展している一方で、すぐ隣にはスラム街のような地域が広がっています。こうした経済格差が、日常的に蓄積されてきた不満となり、今回のデモの発火点となったと考えられます。
数字上では、前政権である2014年以降、貧困率や失業率は改善してきました。しかし、2020年頃に「オムニバス法」という労働法改正が行われ、ビジネス環境を整えるという名目でアウトソーシングの簡素化や期限付き雇用の容易化、退職金・介護手当の削減など、労働者にとって厳しい法律が通されました。これにより、人々の不満が高まっていきました。
インドネシアの社会保障制度には深刻な問題があります。現在の制度設計では、「貧しくないと社会保障を受けられない」という状況になっています。大企業の社員は社会保険に加入できますが、それ以外の多くの国民は加入できていません。
低所得者層向けには生活保護が1000万世帯に提供されていますが、中間層は社会保障の対象から抜け落ちています。つまり、国民の大部分が人生で何かあったときに国の保障を受けることができない仕組みになっているのです。
最近の研究では、インドネシアの中間層のボリュームが減少しているというエビデンスも出ており、社会保障の設計上、所得の再分配が機能していないという問題があります。
インドネシア全体の失業率は5%前後で推移していますが、24歳以下の若者の失業率は約20%と非常に高くなっています。つまり、若者にとって最初の仕事を見つけることが極めて難しい状況です。

国全体で約600万人の失業者がいますが、そのうち約半数の300万人は最初の就職者であり、若者が労働市場に出て仕事を見つけることは非常に困難になっています。国としてもハローワークのような仕組みを作ってジョブマッチングを促進しようとしていますが、若者の間ではまだ仕事を見つけるのが難しいという認識が強く残っています。
賃金の問題も深刻です。ジャカルタの最低賃金は約5万円、全国平均では約3万円と低い水準にあります。しかも、これは大企業や中企業の労働者向けであり、小企業や零細企業は2021年以降、この最低賃金支払いの義務から免除されています。
インドネシアの企業の8〜9割はこの小企業・零細企業のカテゴリーに入るため、多くの労働者が最低賃金すら保障されていない状況です。これは合法的に行われており、社会構造上の大きな問題となっています。賃金が低いと社会保障の給付も低くなるため、所得再分配の観点からも早急に改善すべき課題です。
若者の海外流出は、単なる流出というより国策として積極的に推進されています。インドネシア政府は、失業問題対策として外国人労働者を海外に送り出すことを公式な戦略として掲げています。これは日本向けの特定技能労働者を増やす政策とも関連しています。
経済成長のボトルネックとして、社会保障の不足が挙げられます。現在のインドネシアでは、人生の中で予期せぬ出来事が起きたとき、自力で解決するしかありません。国の保障、特に社会保険という形で保障を受けることができず、生活保護のような制度のみに頼っている状況です。
また、将来の不安に直結する問題として、年金制度の不備があります。現在、インドネシアには国民年金がなく、厚生年金のみが存在します。そのため、大企業と中企業で働く人以外の大多数の国民は、自力で老後に備えるしかなく、若い世代は自分の親に所得を渡し続けなければならない状況にあります。人口ボーナス期の終了を見据えて、年金制度の整備が急務となっています。
現在の治安状況が回復に向かっていることを前提とすると、大統領が労働組合の要求に対する約束を守るかどうかが重要なポイントになります。具体的には、アウトソーシング関連法の見直しや労働法改正の議論が優先的に進められるという約束がされており、1〜2年以内に改正作業が終わる見込みです。
この改正が労働者や若者の将来に希望を持てるような内容になるかどうかが、次の政策的な論点になると考えられます。
日本企業は、労働組合の幹部からもコンプライアンスが高いと評価されており、他の韓国、中国、台湾資本と比べても評判が良いです。ただし、最近は解雇事案が増えているという印象を労働組合は持っているようです。

また、複雑化する雇用関係において、直接雇用関係にない労働者であっても「ビジネスと人権」の観点から保障を求められるケースが出てきています。法的には求められていなくても、社会的な観点から批判を受ける可能性があるため注意が必要です。
今後、労働法や社会保障法の改正が進めば、保険料の追加設定や企業負担が増える可能性もあります。ビジネスコストは上がる一方で競争力維持のために下げる努力も必要になるため、政府、労働組合、経済界の間で最適な妥協点を探る取り組みが重要になるでしょう。