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銀行はどう備える? 量子対策のロードマップ
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2025年9月1日

量子コンピュータの進化で、暗号が“突破”される日が近づいているという懸念が広がる。私たちの通信、銀行口座、金融システムは大丈夫なのか?今知っておきたい現状と今後の展望を、 NTTデータ経営研究所・大野博堂氏に聞いた。
量子コンピューターの脅威にどう備えるか?~耐量子暗号の最前線
量子コンピューターの実用化が近づく中、金融機関をはじめとする重要インフラは新たなセキュリティ対策が急務となっている。NTTデータ経営研究所の大野博堂氏に、量子コンピューターがもたらす脅威と対策について聞いた。

Q. 量子コンピューターはまだ先の技術と思われがちですが、なぜ今から対策が必要なのでしょうか?
量子コンピューターは現在、研究段階にあり、理化学研究所などでテストベッドとして限定的に利用されています。誰でも、特に悪意を持った第三者が使える状況ではないため、今すぐリスクが到来するわけではありません。

しかし、既存のスーパーコンピューターと量子コンピューターを部分的に組み合わせた「ハイブリッドモデル」が実用化されつつあります。IBMや富士通もこれに取り組んでおり、既存の不可逆計算よりも処理速度が向上する可能性があります。
これまでは2030年代半ばに量子コンピューターが実用化され商用利用される頃に危機が到来すると見込んでいましたが、前倒しされる可能性も出てきました。国際機関も昨年11月に公表したレポートで「当面は危機的な未来は来ないが、10年後には到来している可能性が高い」として、今から準備を促しています。
Q. 具体的にどのような対策が必要とされているのでしょうか?
基本的には、量子鍵配送(QKD)と耐量子暗号(PQC)の2つが対策の柱となります。
QKDはハードウェア対策で、専用機器の導入が必要です。一度導入すると頻繁な入れ替えが難しく、コストも高くつきます。アップグレードに課題がつきまとい、セキュリティパッチの運用にも障害が生じる可能性があります。

一方、PQCはソフトウェア対策で、暗号の桁数を伸ばしたり別の代替手段を講じたりするもので、直接的なハードウェア導入を伴いません。現在、国際的にもPQCを優先する流れになっています。
分かりやすく例えると、iPhoneの機種変更よりもソフトウェアアップデートでセキュリティを保つ方向性に近いと言えるでしょう。
Q. 対策を講じるにあたって、まず何から始めるべきでしょうか?
まず必要なのは、どんな脅威にどの部分が備えなくてはいけないかを探索することです。家に例えると、家中の鍵がどこにあるかをチェックし、特にピッキングされやすい鍵がどれかを確認する作業です。

金融庁は金融機関に「リスクベースドアプローチ(RBA)」という考え方を伝えています。これは、①リスクの特定、②リスクの評価、③対策の実施という3段階で進めるフレームワークです。
最初のステップである「クリプトインベントリー」では、金融機関のシステムのどこにどんな種類の暗号が使われているかを確認します。入り口の段階では網羅的に調査し、重要かつリスクの高いものを特定していきます。
全ての暗号を一度に対策しようとすると莫大なコストと時間がかかるため、優先順位をつけて対応するのが現実的です。例えば家の中なら、冷蔵庫より玄関や窓など外部と接する部分の鍵を優先的に強化するべきでしょう。
Q. 対策が進むと、利用者側の認証はどのように変わるのでしょうか?
現在、多くの人が複数のパスワードを管理する負担を感じています。これが増えれば利便性は大きく損なわれます。
認証技術の中で最も高度なものの一つは生体認証です。指紋や顔認証などを複数組み合わせると突破されにくくなります。現在のオンライン本人確認では偽造された免許証などで突破されるケースもありますが、マイナンバーカードの公的個人認証機能を活用することで、より安全な本人確認が可能になります。
マイナンバーカードには電子的に顔写真や個人情報が保存されており、ネットワーク上で正確な本人確認ができます。将来的には、このマイナンバーカードによる公的個人認証と生体認証を組み合わせることで、多数のパスワード管理から解放される可能性があります。
早ければ2年後にはマイナンバーカードの公的個人認証への移行が始まり、生体認証の仕組みと組み合わせることで、より強固な認証体制が構築されると期待されています。

Q. 技術的な対応はイタチごっこになるのでしょうか?
残念ながら、サイバーセキュリティの世界は常に攻撃側と防御側の技術競争の状態です。新たな攻撃手法が生まれるたびに、それを乗り越える技術を開発して対処するという対症療法的な状況が続いています。量子コンピューターが登場しても、この構図は変わらないでしょう。
アメリカは2016年にいち早くPQCの概念を提唱し、国立標準技術研究所(NIST)が対策を指示しました。数十の暗号アイデアが提案され、現在は約4つに絞り込まれ、各国で検証が進められています。
日本も理化学研究所、富士通、IBM、NTTグループなどが開発に取り組んでおり、基礎技術を得意とする日本の強みを活かした成果が期待されています。
Q. 今後注目すべきポイントは何でしょうか?
最も注視すべきは、量子コンピューターがいつ商用環境でリリースされるかです。それが敵の侵入機会となるため、来年なのか、再来年なのか、あるいは本当に10年後なのか、常に世の中の動きに敏感である必要があります。
最悪のシナリオは、国家が悪意を持って他国を攻撃する目的で暗号解読に取り組むケースです。これは金融機関だけでなく、国家の基盤自体を毀損する可能性があります。
現代の戦争では、まず相手国の機能を低下させる攻撃が行われます。海底ケーブルを切断して通信を遮断したり、インフラ企業にサイバー攻撃を仕掛けて情報システムを停止させたりして、国が混乱したところに攻撃を仕掛けるという二段構えの戦略が取られます。
こうした脅威に対して、国を挙げて取り組まざるを得ない課題となっています。金融だけでなく、多くのインフラ企業に共通する課題として、解決に向けて社会全体で取り組んでいく必要があるでしょう。