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三菱商事洋上風力撤退の衝撃
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2025年9月1日

世間を揺るがした三菱商事の洋上風力発電撤退の衝撃。その背景・経緯を一から紐解く。欧州との環境の違いや、今回の撤退が日本の洋上風力発電業界全体に与える影響、そして世界的な再エネへの逆風について解説。 <ゲスト> 竹内純子|国際環境経済研究所 理事 専門はエネルギー・温暖化政策。慶應義塾大学法学部を卒...
三菱商事の洋上風力発電撤退の衝撃と再生可能エネルギーの逆風
三菱商事と中部電力が洋上風力発電事業から撤退するというニュースが飛び込んできた。この撤退は「罪深い」と表現されるほど衝撃的なものだ。なぜこのように表現されるのか、そして再生可能エネルギーはどのような逆風に直面しているのか。国際環境経済研究所・理事の竹内純子氏に詳しく聞いた。

Q. 三菱商事の洋上風力発電撤退のニュースを初めて聞いたとき、どのように感じましたか?
「やっぱりそうか」という思いと「これは大変なことになる」という思いの両方が胸をよぎりました。実は今年2月に三菱商事が事業性の再評価を行うと発表していたので、計画が厳しい状況にあることは明らかでした。それ以前から、この価格で事業が実現できるのかという疑問に加え、資材価格の高騰やインフレの影響もあり、世界的にも洋上風力事業の中止や撤退が相次いでいました。そういった点では、ある程度予見できたことでもあります。

Q. この撤退はなぜ「罪深い」と言われているのですか?
大きく2つの理由があります。1つ目は時間的な損失です。日本は2030年に向けてCO2を46%削減し、2035年、2040年に向けてエネルギー転換を進める計画を持っています。そのなかで3〜4年程度が失われてしまったのは大きな損失です。
2つ目は地域の人々の信頼を裏切ってしまったことです。エネルギー事業が地域活性化につながると期待され、様々な取り組みや事業が始まっていました。このプロジェクトがなくなったことで他の取り組みがすべて終わるわけではありませんが、最初のプロジェクトがこのように頓挫することで与える衝撃は非常に大きいと思います。
Q. 洋上風力発電は地域にどのような影響を与えるものなのですか?
太陽光発電と比べて、風力発電は部品の点数が多く、サプライチェーンの裾野が広いという特徴があります。再生可能エネルギーの中では、原子力の次に産業への波及効果が大きいと言えます。
具体的には、港を整備したり、大型の重量物を運ぶための道路を整備したりするなどのインフラ整備が必要になります。また、関連する事業も立ち上がる予定でした。そのため、地域における期待は非常に大きかったのです。
Q. 撤退の要因は何だったのでしょうか?
記者会見では詳細なデータは示されていませんでしたが、中西社長が繰り返し述べていたのは「予見できない状況の変化」です。投資をして30年間発電を続けても、それが40年に伸びたとしても、あるいは買取制度を変えたとしても、採算が取れない状況になっているとのことでした。
採算が取れない背景には2つの理由があります。1つはインフレの急速な進展、もう1つは資材価格の高騰です。特に日本は国内に洋上風力のメーカーがないため、海外から機器を輸入する必要があります。その結果、建設コストは当初見通しの2倍以上になることが見込まれたとのことです。
Q. 入札段階で三菱商事は破格の価格を提示したという報道がありますが、どうだったのでしょうか?
価格が提示された時点で、業界関係者は「この価格で実現できるのか」と衝撃を受けました。例えば秋田能代の案件では、第2位の事業者と比べると5円以上の差があったと思われます。しかも、洋上風力のコストで最も大きな部分を占める風車についても、特別に安い調達先があるわけではなく、GE製のものを使うという点では他の入札者と同じでした。

「どこにコスト削減の秘密があるのか」という点で強い関心と懸念が持たれていました。インフレや資材価格の高騰がなければ実現できたのかもしれませんが、業界からすると元々無理な価格設定だったという見方が強いです。
Q. なぜ三菱商事はそのような破格の価格を提示したのでしょうか?
三菱商事は、欧州で洋上風力発電の経験がある会社を買収し、そこで知見を積んでいることを強調していました。「欧州での経験を活かしてコスト削減が可能だ」という説明でした。

しかし、欧州と日本の洋上風力は基本的な条件が大きく異なります。まず風の吹き方が全く違います。日本は夏にほとんど風が吹かず、年間を通じて欧州の6割程度しか風がありません。つまり、同じ設備を設置しても生み出される電気の量が欧州の半分程度になるため、発電単価は倍になってしまうのです。
また、日本の海底地形も欧州と大きく異なります。日本の東アジア海の面積はイギリスの1/8しかなく、すぐに深い海に落ち込んでいきます。今回のプロジェクトは比較的条件がよい場所でしたが、今後洋上風力を増やそうとすると、海底に柱を立てる方式ではなく、まだ商用化があまり進んでいない「浮体式」と呼ばれる技術に頼らざるを得ません。
こうした日本特有の条件が不利に働いたと考えられます。
Q. この撤退は三菱商事だから起きたのか、それとも他の会社でも起こりうることだったのでしょうか?
今後の第2ラウンド以降の案件でも、同様の撤退判断が出る可能性は否定できません。世界的にも2023年にはスウェーデンの会社がイギリスで手がけていた洋上風力が中止になったり、イギリスで実施された洋上風力への補助金入札に応札がなかったりするなど、撤退が続いています。
ただ、従来の電力会社であれば違う判断をした可能性はあります。経済合理性を追求する民間企業としては妥当な判断だったと言えますが、公益事業会社である電力会社であれば、長期的な投資や事業リスクへの対応の仕方も異なったかもしれません。
日本は電力自由化を進めており、新規参入者を増やそうとしています。政府としては国策や公益を考慮してくれる企業として三菱商事を選んだという面もあるでしょうから、「三菱商事でもダメだったか」という思いもあるのではないでしょうか。
Q. 再生可能エネルギーに対する逆風は他にもあるのでしょうか?
再生可能エネルギーは現在、世界的に逆風が吹いています。その背景には3つの要因があります。

1つ目は欧州の経済状況の悪化です。特にドイツの経済状況が悪化しており、その要因の一つにエネルギー供給の安定性とコストの高さが指摘されています。欧州はこれまで「グリーンで儲ける」というスタンスでしたが、その前提に疑問符がついてきています。
2つ目はアメリカのトランプ政権誕生の影響です。バイデン政権下ではインフレ抑制法により再生可能エネルギーやEVに対して手厚い支援が行われる予定でしたが、トランプ政権になって太陽光や風力などの単純な再生可能エネルギーについては税制優遇措置が縮小される見込みです。
3つ目は金融界や投資家のマインド変化です。ESG投資への熱が冷めつつあります。ESG投資は通常の投資と比べてリターンが低くても良いというものではありません。例えば年金は老後のために預けているものであり、気候変動政策を支援するために流用することの是非も問われます。ESG投資が従来の投資と同等以上のリターンを出せるかというと、必ずしもそうではないという認識が広がっています。
こうした3つの潮流により、「グリーンだからお金がつく」という状況は大きく変わってきています。
Q. 日本企業の再生可能エネルギーへの投資にも影響はありますか?
日本企業も国際競争力を維持するために、他国の動向を見ながら判断する必要があります。欧州や米国がグリーンへのプレミアム支払いを見直している中で、日本企業だけがプレミアムを払い続ければ、産業の国際競争力で不利になります。そのため、グリーンへのプレミアム支払いについては見直しがあるでしょう。
Q. このような逆風の中、日本はGX(グリーントランスフォーメーション)をどう進めるべきでしょうか?
日本にとって脱炭素化は単なる環境への取り組みではなく、化石燃料を使わなくなることでエネルギー安全保障にも価値を持つ取り組みです。そのため、GXを進める方針自体は変わらないでしょう。
ただし、メリハリをつけることが重要です。現在のコストプッシュ型のインフレ局面は莫大なインフラ投資には向かない時期です。また、諸外国のグリーンプレミアム支払い意欲も減退しています。
したがって、多額のGX製品普及に関わる支援よりも、将来のGXに向けた技術開発への支援や、既存インフラの老朽化対策・災害激甚化への対応といった他の社会課題と融合的な価値を持つ投資、あるいは普及期まで一歩手前の技術へのGX製品の公共調達などにフォーカスすべきでしょう。
政府も8月26日のGX実行会議で、GX投資を継続し、GXの戦略地域を公募すると発表しています。日本ではGXを進める方針自体は変わらないようですが、どこまでグリーンに負担をかけるのか、どのような時間軸で進めていくのかについて、落ち着いた議論が必要な時期に来ていると思います。