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【来年の賃金どれだけ上がる?】物価の権威vs永濱利廣
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2025年9月2日

「さらに積極的な賃上げが必要だった」物価の権威・渡辺努氏とエコノミストの永濱利廣氏が、2025年の春闘を総括。さらに関税と物価高は来年の賃上げにどう影響するのか徹底討論。 <ゲスト> 渡辺努|物価研究の第一人者 ナウキャスト創業者・取締役 1982年東京大学経済学部卒業後、日本銀行入行。営業局、信...
来年の春闘はどうなる?大企業だけでなく中小企業も活発に
「春闘」とは毎年春に行われる労働者の賃金交渉。2024年春闘は賃上げ率が平均5.39%に達した。来年2025年の春闘はどうなるのか?物価研究の第一人者である渡辺努氏が語る。

Q. そもそも「春闘」とは何ですか?
春闘とは「春季労働闘争」の略で、毎年春に労働組合が企業側と賃金交渉を行うことです。日本では春に一括して交渉するという特別な仕組みがあります。
労働者個人が交渉するのは難しいため、労働組合が集合体として雇用者側と交渉します。特に連合(日本労働組合総連合会)に関係する組合で働いている人たちが春闘の影響を直接受けます。連合が高い賃金引き上げを勝ち取れば、その組合員の賃金が上がります。

ただし、連合に所属していない組合の人や、そもそも組合がない小さな企業で働く人、非正規雇用の人など、春闘の恩恵を直接受けられない人も多くいます。それでも、春闘は全体の賃金がどの方向に動くかという方向性を決める重要なイベントです。政府も3年ほど前から、春闘を通じて全体の賃金が引き上げられることを期待しています。
Q. 2024年春闘の結果はどうでしたか?
2024年春闘では賃上げ率が2023年よりもさらに上昇しました。5%台の賃上げが続くのは近年ではとても珍しいことです。
ただし、過去3年間の賃上げを振り返ると、2023年と2024年の賃上げは、その後の物価上昇率に及ばず、実質賃金が下がってしまいました。2025年は物価上昇率よりも高めの賃上げとなり、実質賃金が少し上がる方向に変わりました。
つまり、物価がずっと上がり続ける中で、賃金はそれを追いかけようとしてきましたが、予想外に物価が上がり続けたため、完全に追いつくことができず、実質賃金が下がってきたという経緯があります。渡辺氏は「高い数値は出ているものの、物価との戦いでは足りなかった。もっと積極的な春闘をやるべきだった」と指摘しています。
Q. 来年2025年の春闘はどうなりそうですか?
渡辺氏は「特に中小企業は今年を上回るような賃上げになってほしい」と期待を示しています。第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは「全体の賃上げ率は、グローバル企業は業績の影響を受けるため今年より若干下がるかもしれないが、なんとか5%以上はキープできるのではないか」との見方を示しています。

特に注目すべきは、従来は大企業が賃上げを引っ張っていた構図が変わりつつあることです。内需依存度の高い中小企業は、円高や商品市況の下落によるプラスの側面もあり、人手不足も厳しいことから、大企業よりも積極的な賃上げに踏み切る可能性があります。これによって、大企業と中小企業の賃金格差が縮まる可能性があり、良い傾向だと言えるでしょう。
Q. トランプ関税の影響はどうなりますか?
トランプ前大統領が再選した場合の関税強化が懸念されています。自動車産業などへの影響は避けられないでしょう。
関税の影響には大きく2つのパターンが考えられます。1つは、関税によって日本車の価格が上がり、アメリカ人消費者が日本車を買わなくなるケースです。もう1つは、日本企業が関税分を値引きして、アメリカ人消費者向けの価格を上げないケースです。
現在のデータを見ると、後者の状況が起きています。日本企業は価格を抑え込む努力をしているため、販売数量は維持できていますが、その分、利益が圧迫されています。このことが「賃上げする余裕がない」という主張につながりがちです。
ただし、永濱氏は「これまで労働分配率が大きく下がり、企業は現預金をかなり蓄積している面もある」と指摘し、業績が多少下がっても賃上げの余地はあるとの見方を示しています。
Q. 春闘はどのように準備されるのですか?
春闘は前年の秋頃から準備が始まります。通常は11月から12月頃に、連合から翌年の春闘方針が発表され、それを巡って経団連など雇用者側との議論が始まります。そうして社会的なコンセンサスが形成されながら、年明けから個別の組合での交渉が始まります。
渡辺氏は現在、連合の研究会責任者として議論に参加しており、9月のどこかのタイミングで議論の内容を発表する予定とのことです。
Q. 春闘の賃上げはどう決まるのですか?
エコノミストの見方では、春闘の賃上げ率は大きく3つの要素で決まります。
1. インフレ率(物価上昇率)
2. 企業業績
3. 労働需給(人手不足の度合い)
現在の見通しでは、労働需給は引き続き逼迫(人手不足)の状態が続き、インフレ率はさすがに今より加速する可能性は低いとみられています。企業業績については、特に輸出企業を中心に関税の影響などが懸念されています。
渡辺氏は「払えるか払えないのかという話と、本来労働者はいくらもらう権利があるのかということは分けるべき」と主張しています。物価が上がっているなら、企業が払えるかどうかに関わらず、労働者の生活が苦しいのだから賃上げすべきだという考え方です。
Q. 賃上げを考える上で大事なことは何ですか?
渡辺氏は、賃上げを考える上で大事なのは「先々の物価上昇率」だと指摘します。過去の物価上昇率を見て後追いで賃上げすると、常に追いつけない状態になってしまうからです。
具体的な提案として、「日銀が物価安定目標としている2%をベースにして、毎年一定の賃上げを行う仕組み」を作るべきだと述べています。例えば、どの年も「物価上昇率2%+α」という形で賃上げ要求を決めれば、労働者は「自分の賃金は少なくとも2%は上がる」と予測して生活設計ができるようになります。
30年間のデフレ期には物価が動かなかったため、こうした仕組みは必要なかったのですが、物価が上昇する今は、賃上げの要求を決める「公式」のようなものを作り直す必要があるとのことです。
Q. 日本人の労働者としての権利意識はどうですか?
渡辺氏は「日本の消費者は昔から特徴的ですが、自分の賃金を上げてほしいという働きかけが欧米の人に比べてすごく少ない」と指摘します。一方で、「物の値段については非常に強い意識を持っている」とも述べています。

「私たちは労働者と消費者という2つの顔を持っていますが、消費者としての権利意識は非常に強い一方で、労働者としての権利意識は異常に弱い。これが欧米との大きな違い」と分析しています。
現在は人材の流動性が高まり、転職もしやすくなっている時代です。労働者として胸を張って権利を主張していくべき時代だと言えるでしょう。
Q. 春闘のリーダーシップはどこが取るべきですか?
従来の春闘では、製造業、特に自動車産業がリーダーシップを取る形でした。トヨタが賃上げを決めると、他の企業がそれに続くという構図です。
しかし、この構図は変わるべきだと渡辺氏は指摘します。現在の人手不足は製造業よりも、サービス業やホテル、旅館、レストランといった業種で深刻です。そうした業種がリーダーシップを取る形に変わっていくべきだと提案しています。
そうした変化のきっかけとして、政府や政治家のリーダーシップが重要だと渡辺氏は指摘しています。最近は経済団体のトップが製造業以外から選ばれるケースも増えており、徐々に変化の兆しは見えています。
Q. 世界的な「脱グローバル化」の流れはどう影響しますか?
現在、世界では「脱グローバル化」の流れが強まっています。1980年代から2000年代初めにかけては「グローバル化」の時代で、先進国企業が安い労働力を求めて中国やベトナムなどに生産拠点を移し、貿易量が急増しました。
しかし、2000年代に入ってからは貿易量の伸びが鈍化し、時には減少する時期も出てきました。Brexit(イギリスのEU離脱)やトランプ大統領の登場、ウクライナ戦争など、様々な出来事が起きています。
このような「脱グローバル化」の流れは、実は第一次世界大戦、第二次世界大戦の時期と共通点があります。①経済の停滞、②地政学的リスクの高まり、③パンデミック(当時はスペイン風邪、現在はコロナ)という3つの要素が共通しています。
脱グローバル化の流れは、賃金や物価にも影響します。グローバル化の時代は安い労働力との競争で賃金が抑えられ、物価も上がりにくかったのですが、脱グローバル化では自国生産が増え、コストが上がるため、賃金も物価も上昇しやすくなります。
この流れは短期的なものではなく、かなり長期にわたって続く可能性が高いと両氏は指摘しています。