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【脳科学が明かす人間の未来】SFの世界は実現するか
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2025年9月6日

最新研究で多くのことが明らかになってきた、人間の「脳」。かつてSFで描かれた近未来の世界は、まもなく実現されるのか?サイボーグや心を持つAI、脳の電子データ化などの可能性について、櫻井武氏に聞いた。 <ゲスト> 櫻井武|医学博士 1964年、東京都生まれ。筑波大学大学院医学研究科修了。 筑波大学医...
最新脳科学が明かす「人間の未来」:サイボーグ、心をもつAI、脳の電子化
脳科学者の櫻井武氏が語る、SFとリアルの境界線。脳とテクノロジーの融合はどこまで可能なのか?脳の電子データ化やAIの「心」の可能性まで、最新の脳神経科学から見た未来像を探る。

Q. 今回SFをテーマに選んだ理由は?
SF作品は単なるファンタジーではなく、科学をベースにした考え方や可能性を探るものです。私は睡眠研究者として知られていますが、根本的な興味は睡眠そのものではなく、脳内物質が人間や動物の行動をどうコントロールしているかという点にあります。
オレキシンという脳内物質の研究から睡眠に関わることになりましたが、実はオレキシンは「覚醒」を維持する物質です。覚醒は意識と深く関わり、睡眠は無意識の状態。この「意識」というテーマにずっと興味を持っていました。
最近のAIの進化や、常時ネット接続の時代に人間がスマホから離れられず情報に依存している現状を見るにつけ、脳とテクノロジーの関係を考察せずにはいられませんでした。
また、人工冬眠の研究も始めていることから、SFと脳科学の接点を探りたいと考えたのです。SFに描かれる脳の未来は、実は科学的考察に最も適したテーマなのです。
Q. サイボーグの実現性はどの程度?
サイボーグはすでに部分的に実現しています。機械と生体を融合させるという概念で考えると、人工内耳、人工喉頭、心臓のペースメーカーなどは現在すでに実用化されているサイボーグ技術と言えます。

SFでよく描かれる「超人化」のためのサイボーグ、特に兵器としての人間強化は、かつては魅力的な設定でしたが、現代のAI発展を考えると疑問が生じます。なぜ人間である必要があるのでしょうか?
現代の戦闘機はドローン化して無人化しつつあり、AIの能力は人間の限界を超えつつあります。人間の脳が機械のパーツを制御するのは非常に難しいですが、コンピューターにとってはお手のものです。かつては「人間的な判断」が重要視されましたが、これも機械学習によってAIでも実現可能になりつつあります。
自動運転の例を考えても、実際には人間の方が事故を起こす可能性が高いのです。極限環境で活動するなら、エラーの可能性や危険性を考慮すれば、人間である必要はなく、ロボットやAIの方が合理的です。未来の戦争は、サイボーグが行うのではなく、ロボット、ドローン、自動運転兵器同士の戦いになっていくでしょう。
Q. 脳は電子データ化できる?
原理的には可能かもしれませんが、実現は極めて困難です。人間の脳には約680億個の神経細胞があり、各細胞は数千から数万、時には10万個以上のシナプスを持っています。全シナプスの数は約1000兆にも及び、これは1秒に1つ数えても1000兆秒(約3200万年)かかる膨大な数です。
これらの構造を完全に3次元スキャンできる技術があれば、理論上は記憶や意識を含む情報を取り出せるかもしれません。しかし、シナプスの配置だけでなく、神経伝達物質を含むベシクルの位置など、分子レベルでの完全なスキャンが必要になります。
さらに、静止画のようなスキャンでは不十分で、時間的変化も含めた「3次元ムービー」のような形で情報を取得する必要があります。そして、取得したデータを機械に移植するには、脳とは全く異なる動作原理を持つコンピューターへの変換も必要です。
加えて、人間の記憶や思い出は単なる事実の集積ではなく、常に書き換えられ再構成されています。完璧に保存された記憶は、むしろ「人間的」ではないのかもしれません。脳のデジタル化は、「桜の花びらが風で散るとき、1枚1枚がどこに落ちるか計算する」ほどの難しさがあるのです。
Q. 脳と情報の直接接続は可能?
ブレイン・コンピューター・インターフェースという技術で、すでに一部実現しています。全身麻痺の患者の脳の運動を司る部分に電極を入れ、コンピューターを操作する研究や、イーロン・マスクのNeuralink社の取り組みなど、医療分野で研究が進んでいます。
ただし、現状はまだ非常に原始的なレベルです。脳から情報を取り出すことも、脳に情報を入れることも、両方とも技術的に難しいのが現状です。脳とコンピューターの作動原理が全く異なるためです。ただ、両者とも電気信号を使って情報をやり取りしているという共通点があるため、電気を使って脳機能を操作したり情報を取り出したりすることは、ある程度可能です。

将来的には、視覚野にある神経細胞の働きを全てモニターできるようになり、脳の処理速度を上げたり記憶容量を広げたりする可能性も理論上はあります。人間の脳全体をコンピューターでシミュレーションするには、現在のスーパーコンピューターの10億倍の処理速度が必要だという試算もありますが、量子コンピューターの発展によって、将来的に実現する可能性も否定できません。
Q. AIは「心」を持てる?
AIが「心を持ったように振る舞う」ことは、現在でも十分可能です。例えば、ある人の感情表現や行動パターンをデータ化し、AIにそれを擬人化して再現させることは、近い将来に普通にできるようになるでしょう。第三者から見て区別がつかないほど精密に模倣することも可能かもしれません。
しかし、何かを「感じる」という内面的な体験、哲学でいう「クオリア」がなければ、真の意味で「心がある」とは言えません。ピンク色の部屋は居心地が悪いと言うAIがあっても、それは単にそう言うようにプログラムされているだけで、実際に不快感を感じているわけではありません。
AIに心を持たせるためには、脳の構造を模倣する必要があるでしょう。大脳辺縁系のような感情を司る部分や、理性的な計算をする部分を並列に動かすことも一つの方法かもしれません。しかし、AIには生存本能がなく、人間のように進化の過程で選択圧がかかって感情や意識が実装されてきたわけではないため、それらを持つ必然性がありません。
AIが自発的に心を持つようになる可能性は低いですが、人間が意図的に実装しようとする可能性はあります。ただし、AIにはクラウド上の存在で物理的な「体」がないため、自己意識や欲望を持つことは難しいでしょう。社会的に認められたいという願望や物欲などがなければ、人間らしい「心」とは言えないかもしれません。
Q. 人工冬眠は可能?
人工冬眠はすでに実験動物では可能になっています。通常、人間やマウスなどの多くの哺乳類は自然な冬眠状態になることができませんが、脳の特定の神経回路を操作することで人工的に冬眠状態を作り出すことができるのです。

これは医療分野で非常に有用な技術になる可能性があります。例えば、重傷を負った患者をドクターヘリが到着するまでの間、人工冬眠状態にすることができれば、生存率が大幅に上昇するでしょう。また、エネルギーや酸素の消費量を抑えられるメリットもあります。冬眠状態ではがんの進行などの病態もスローダウンするため、治療の時間的猶予を得られる可能性もあります。
SFでよく描かれる宇宙旅行のための冬眠技術は、空想ではなく科学的に実現可能性のある技術なのです。
Q. 人間らしさとは何か?人間の脳の特徴は?
人間の意識は、世界と自分の関係性を理解する機能だと考えられます。社会的な動物である人間にとって、自分が社会においてどのような役割を果たしているかを理解することは重要です。これが人間の「承認欲求」の源泉になっています。
人類の進化の歴史を考えると、かつて人間は約100人程度の小集団で生活していました。ホモ・サピエンスは非常に凶暴な種族で、集団内で役に立たない個体は追放されたり、場合によっては殺されることもありました。この環境下で生き残るために「社会的に認められたい」という欲求が強く刷り込まれたのです。これは単なる承認欲求ではなく、生存のための本能なのです。
現代では、SNSを通じて数百万、数千万人と繋がることができるようになり、この小集団で機能していた承認欲求システムがおかしくなっている面もあります。
AIと人間の決定的な違いは、こうした進化の歴史と生存本能の有無です。AIには褒められても本当の喜びはなく、社会から認められたいという切実な欲求もありません。これが、AIが真の意味での「心」を持つことを難しくしている要因の一つなのです。