PIVOT TALK BUSINESS
どこに向かう?日銀と日本経済
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2025年8月16日

2024年に17年ぶりの利上げを行い、「金利のある世界」へと転換した日銀。追加利上げも一部予想される中、これまでの金融緩和政策が残したもの・出口戦略を整理する。元日銀審議員/慶應大・白井さゆり教授に、金融政策の過去・現在・未来を聞いた。 <ゲスト> 白井さゆり|慶應義塾大学 総合政策学部 教授 専...
日本の金融政策、現在と未来 〜ゼロ金利、異次元緩和の総決算〜
最近、物価上昇を実感する人が増えている中、日本の金利政策はどうあるべきなのか。30年続いたゼロ金利と大規模緩和の成果と副作用を検証し、今後の展望を探る。元日本銀行政策委員会審議委員で慶應義塾大学教授の白井さゆり氏が、現在の経済状況と金融政策の課題について解説する。

Q. 現在の物価・金利・為替の状況はどうなっているのか?
現在の日本の物価状況は、総合インフレ率が3.3%(2024年6月時点の前年同月比)となっている。2022年4月から日本のインフレ率は日本銀行の物価安定目標である2%を超え続けており、これほど長期間にわたって2%を超えるインフレが続くことは想定外だった。
このインフレの特徴は、景気が良くて起きているのではなく、米価格の高騰や円安による輸入物価の上昇が主因となっていること。実際、3.3%のインフレのうち60%以上が食料価格によるものだ。本来、経済が好調であればサービス価格の上昇が主導するはずだが、日本ではそうなっていない。
金利については、日本銀行の政策金利は現在0.5%程度。かつてはマイナス0.1%、10年国債金利は0%という非常に低い水準だったが、徐々に引き上げられてきた。それでも世界的に見れば依然として極めて低い水準にある。10年国債金利も0%から1.5%程度まで上昇している。
為替レートは現在1ドル148円前後と、2022年3月の115円から大幅に円安が進行している。これはアメリカが金利を上げ始めた一方で日本が据え置いたことによる金利差が主な原因だ。
Q. 円安を是正するために、日銀は利上げをすべきなのか?
これは非常に難しい問題だ。インフレが2%を超えている状況では、通常なら利上げするのが当然と考えられる。しかし、日本のインフレは景気が良いことによるものではなく、コストプッシュ型(コスト上昇による物価上昇)であり、消費者にとって苦しい状況を生んでいる。

そのような状況で利上げをすると、中小企業などの資金調達コストが上昇し、さらに経済活動を冷やしてしまう恐れがある。一方で、極端な円安が輸入物価を押し上げてインフレを招いているため、ある程度の利上げは円安是正を通じてインフレ抑制に効果があるかもしれない。
日銀の直面している難しさは、コストプッシュ型インフレに対して金融政策で対応しなければならないというジレンマにある。特に、日本の内需(消費や設備投資)が弱い中での利上げは経済に悪影響を及ぼす可能性がある。
Q. 2%という物価目標は適切なのか?
物価安定目標としての2%は、1990年代にニュージーランドから始まり世界的に採用された。元々は高インフレを抑制するために導入されたもので、0%ではなく2%とした理由には統計上のバイアスがある。
統計にはバイアスがあり、0%を目指すと実際にはデフレになっている可能性があるため、少し余裕を持たせて2%が国際的な合意となった。これは物価が全く変わらないことが理想だが、統計的な課題から2%程度の緩やかなインフレを目標としている。
最近ではアメリカで3%に引き上げるべきという議論もあるが、長年2%で運用してきた枠組みを変更することは容易ではない。
Q. ゼロ金利政策はいつから始まり、どのような経緯があったのか?
日本の低金利政策は、1980年代後半のバブル崩壊後から始まった。1991年頃からバブル崩壊後の経済低迷に対応するため、日銀は徐々に金利を引き下げ、1999年には政策金利を0.5%にまで下げた。
その後もITバブル崩壊やリーマンショックなどの経済危機に対応するため、低金利政策が継続された。特に2011年の東日本大震災後は、円高が進行し経済が大きな打撃を受ける中で、日銀はさらなる金融緩和を求める声が高まった。
2013年に安倍政権下で黒田東彦氏が日銀総裁に就任すると、2%の物価安定目標を明確に掲げ、「異次元緩和」と呼ばれる大規模な金融緩和政策が開始された。これには国債の大量購入や株式投資信託(ETF)の買い入れ、マイナス金利の導入などが含まれていた。

Q. 異次元緩和の成果と「負の遺産」は何か?
異次元緩和の最大の成果は、あらゆる金融政策手段を試し尽くしたことで、「日銀が緩和不足」という批判がなくなったこと。国債買入れや株式買入れ、マイナス金利導入など、考えられるあらゆる政策を実施した。
一方、「負の遺産」としては、日銀のバランスシートが巨大化し、政府が発行する国債の約半分を日銀が保有する状況になったこと。これにより市場機能が歪められ、金利の正常化が困難になっている。実際、日銀が国債保有を少しずつ減らそうとしても、市場が混乱するリスクがある。
また、長期間の超低金利政策は、経済の新陳代謝を阻害し、本来なら淘汰されるべき非効率な企業(いわゆる「ゾンビ企業」)が存続する一因となった可能性もある。ただし、特に地方経済においては、こうした企業が雇用を維持する役割も果たしているという側面もある。
Q. 金利の正常化はどのように進めるべきか?
金利正常化は非常に慎重に進める必要がある。特に日本の内需が弱い状況では、急激な利上げは経済に悪影響を及ぼす可能性が高い。

白井氏の見解では、現在のインフレが2%を超えている間に、0.5%の政策金利を段階的に1%程度まで引き上げることが望ましい。これにより、将来的な経済危機に対応するための余地を確保できる。ただし、アメリカの関税政策や世界経済の動向を見極めながら、慎重に進める必要がある。
日銀が保有する国債の正常化(減少)については、長期的な課題であり、0にすることはできなくても、徐々に減らしていく方向性は維持すべきだ。ただし、誰が国債を買うのかという問題が重要になる。特に高齢化が進む中で、国内投資家の国債購入余力が低下しており、海外投資家に依存する場合は金利上昇圧力が強まる可能性がある。
Q. 今後の金融システムはどのように変化していくか?
今後の金融システムは、仮想通貨やステーブルコインなどの新しいデジタル技術により大きく変貌する可能性がある。従来の銀行中心の金融システムではなく、テクノロジー企業が金融の中心になるような変化が起きつつある。
これらの変化は金融政策のあり方にも影響を与え、現在のインフレーションターゲティングのような枠組みが将来的に適切でなくなる可能性もある。特に仮想通貨は金融包摂(ファイナンシャルインクルージョン)の観点から重要な役割を果たす可能性があり、今後の金融政策はこうした変化に対応する必要がある。
金融の世界は過去の経験だけでは理解できない変化が起きているため、固定観念にとらわれず、客観的に現状を分析することが重要だ。
Q. 若い世代は日本の経済状況をどう捉えるべきか?
日本は低成長ながらも極端な経済危機を経験せず、安定した社会を維持している。海外から見れば、日本の安定性は魅力的な側面も持っている。
若い世代は政府や日銀に過度に依存するのではなく、自らの能力を磨き、世界を市場として活躍することを考えるべきだ。特に日本の低金利環境は、ビジネス拡大のための資金調達という観点では世界的に見ても有利な条件であり、これを活用する発想が重要だ。