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トランプ関税とFRB人事:米国経済の行方
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2025年8月9日

合意したはずのトランプ関税を巡る日米の食い違いは、なぜ起きたのか?さらに、FRBのクグラー理事の後任に指名されたミラン氏の人選の意図、金融政策への影響、今後の重要スケジュールについて、みずほリサーチ&テクノロジーズの小野亮氏が解説。 <ゲスト> 小野亮|みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 グロ...
トランプ関税で日米食い違い、新FRB理事に「想定外」のミラン氏
合意したはずのトランプ関税。なぜ日米の主張は食い違うのか?FRB新理事・ミラン氏の影響は?米国経済の専門家である、みずほリサーチ&テクノロジーズの小野亮氏に最新の動向を聞いた。

Q. トランプ関税を巡って日米間で食い違いが起きているというニュースがありましたが、何が起きているのでしょうか?
米国では8月1日から総合関税が10%から15%に引き上げられる予定でした。これに対して日本側の交渉団は、原則として「15%未満のものは15%まで引き上げ、15%以上のものについては追加関税をかけない」という提案をし、アメリカ側も合意したと理解していました。
しかし、発表された大統領令を見ると、通常のスタッキング(積み上げ方式)の総合関税になっていました。例えば、元々関税率が0%であれば、日米双方の主張でも15%になりますが、関税率が7.5%の織物の場合、日本提案では15%になるはずが、アメリカ側の方式だと22.5%になってしまいます。和牛に至っては41.4%にまで引き上げられてしまう可能性があります。
これは一般の人にとっては「わずかな差」に思えるかもしれませんが、日本の消費税10%でも大きな問題になることを考えると、その重要性は明らかです。試算によれば、日本からのアメリカ向け輸出(6月実績ベース)において、日米の解釈の違いにより、関税負担が月間で11億ドル(約1500億円)もの差が生じる可能性があります。

Q. この食い違いはどうして起きたのでしょうか?
主に2つの要因があると考えられます。
1. 日本側の要因:交渉に焦り、文書を作成せずに「合意」を優先してしまった。文書化していれば認識の違いが明らかになり、回避できた可能性があります。
2. アメリカ側の要因:スタッフ不足が深刻であり、発表を最優先にしている状況。トランプ政権では様々な公式文書の記載ミスが頻発しています。また、通常なら低いレベルの事務方から交渉を始めるところ、最初から閣僚レベルで進めているため、詳細の詰めが間に合っていない可能性があります。
Q. この問題は解決に向かっているのでしょうか?
日本側は赤沢亮正経済再生担当大臣がアメリカに渡航し、イェレン財務長官とラトニック商務長官と会談。両閣僚から「理解した」「修正する」との返答を得たと報告されています。
しかし、最終決定者はトランプ大統領であり、新しい大統領令が発行され公表されるまでは安心できません。大統領令が日本側の理解通りになっているかを確認する必要があります。
Q. FRB(米連邦準備制度理事会)人事で、クグラー理事の後任にミラン氏が指名されましたが、これはどういう意味を持つのでしょうか?
スティーブン・ミラン氏の指名は「想定外」の人事でした。これまではケビン・ハセットNEC委員長やケビン・ウォーシュFRB理事が有力視されていました。

ミラン氏は経済諮問委員会(CEA)の委員長を務めており、特に複数の経済学論文の著者として有名です。昨年秋に「トランプ政権のユーザーガイド」という論文を発表し、トランプ政権の関税政策を安全保障・基軸通貨体制と結びつけた「第二のプラザ合意」を提唱しました。
また、FRBのガバナンス改革に関する論文も書いており、現在のFRBが政治的になっていることを批判し、理事の任期短縮や地区連銀の国有化など抜本的な改革案を提示しています。
Q. ミラン氏は「一時的なリリーフピッチャー」とのことですが、どういう意味でしょうか?
ミラン氏の起用は、クグラー理事の来年1月末までの任期を埋めるための「一時的リリーフピッチャー」と位置付けられています。トランプ大統領は、パウエル議長の任期が来年5月に切れることを見据え、高級的な理事の指名を並行して進めるとツイートしています。
つまり、空席を一時的に埋めつつ、FRBの内部から利下げ圧力をかけるのが目的と考えられます。最終的な理事人選と議長人事は、今年終盤から来年初めにかけて行われる見込みです。
Q. 次期FRB議長候補としてウォラー理事の名前が挙がっていますが、どのような人物なんでしょうか?
ウォラー理事はセントルイス連銀の調査局長やノートルダム大学の経済学教授を務めた「根っからのエコノミスト・学究派」です。解説が非常に上手く、アメリカ経済の分析と金融政策に対する考え方を明確に伝えるスキルがあります。

講演のタイトルが非常に分かりやすいのも特徴で、例えば利下げ前の講演タイトルは「The Time Has Come(時は来た)」、据え置きか利下げかの難しい局面での講演は「Cut or Skip(切るか、スキップするか)」など、タイトルだけで金融政策の方向性が分かるような工夫をしています。
最近では「The Case for Cutting Now(今こそ利下げすべき)」という講演を行い、実際にFOMC(連邦公開市場委員会)で利下げに反対票を投じました。エコノミストからも「金融政策の方向性を明確に伝えられる人物」として期待されています。
Q. ウォラー理事が次期FRB議長になる可能性はどのくらいありますか?
これまではケビン・ハセット氏が有力視されていましたが、ミラン氏が「一時的リリーフピッチャー」として起用されたことで状況が変わってきました。
ハセット氏は金融政策の経験がなく、政治職が強い人物であるため、市場からは独立性への不安の声があります。一方、ウォラー理事は現在は利下げ派でトランプ寄りに見えますが、非常に論理的で説得力があるため、市場からの信頼も厚いです。
確率としては「5分5分まで行くのは言い過ぎかもしれないが、かなり高い確率になってきた」と考えられています。
Q. 今後のFRBの注目ポイントは何でしょうか?
1. ミラン氏の上院承認手続き:夏休み中で通常は大統領による休会中任命が可能ですが、上院は形式的に毎週開会しているため、9月2日以降の正式開会を待つ必要があります。9月16日のFOMC開催までの2週間で承認手続きが終わるかがポイントです。
2. 経済指標:8月の雇用統計が下振れするか上振れするかで利下げの確実性が変わります。また、2つのCPI(消費者物価指数)の発表があり、関税による価格転嫁が進んでいるかどうかで、雇用悪化とインフレのどちらにFOMCが傾くかが難しい判断になる可能性があります。