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昭和は日本の黄金時代。では、日本の「新たな物語」は?
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2025年8月10日

戦後80年を迎えた今、「あの戦争」をどう振り返るべきなのか?「あの戦争」の教訓とは何か?日本はどんな「新たな物語」を紡ぐべきなのか?評論家で『「あの戦争」は何だったのか』の著者である、辻田真佐憲氏に聞いた。 <ゲスト> 辻田真佐憲|評論家 慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科中退。 政治と文...
日本に必要な新たな国民の物語とは?歴史家が語る「昭和」という黄金時代を超える価値観

Q. 戦争を防ぐことは不可能だったのか?
歴史を振り返った時、起きてしまったことを「どうすれば防げたか」と考えるのは難しい。過去に影響を与えることはできないが、そこから学び、未来に生かすことは可能だ。過去を全否定する必要もなく、「こうしたらうまくいったのに」という可能性を考えることで、今それを復活させる方法を模索できる。
例えば人種差別撤廃の理念は、日本が1919年のパリ講和会議で提案したものだ。当時は実現しなかったが、今この理念を掲げることで、日本は第三世界から支持を得られる可能性がある。現代の中東外交においても、日本は欧米と異なる位置づけで信頼を得ている。
Q. 当時、英国やアメリカとの関係を維持し、戦争を回避できなかったのか?
英国との関係維持や日米関係の良好化によって戦争が回避できたという見方は、現代の価値観から過去を解釈したものだ。日英同盟が破棄されたのは、二国間同盟が戦争の原因になるという理由があった。また、アメリカでの日系人差別も日米関係悪化の一因だった。

当時の日本は欧米列強に対する不信感も強く、現代の視点からは違う選択が良かったと言えるかもしれないが、当時それが実現可能だったかは疑問だ。さらに、日本の統治構造上、総理大臣ですら全てを決められる立場ではなかった。例えば日中戦争時の近衛文麿首相は若い頃から国際経験を積んでいたが、日米開戦前の外交交渉をうまく導けなかった。
Q. 現代日本の政治体制について、どう考えるか?
戦後はすでに80年近く続いており、戦前よりも長い時代となっている。この戦後という時代を一括りに考えすぎているのではないか。特に高度経済成長期のような「みんなが豊かで所得が増えていく時代」は、日本の1000年以上の歴史の中でも極めて特殊な期間だった。

例えば米が国民全員に行き渡るようになったのは1960年前後で、それまでは国内で足りていなかった。国民健康保険による安価で高品質な医療も、今では制度が揺らいでいる。「戦後を取り戻そう」という発想は無理を生む可能性がある。本当に我々が戻るべき日本の標準は、あの豊かな戦後なのだろうか。
Q. 昭和は日本の黄金時代だったのか?
昭和時代は日本の歴史における黄金時代と言える。ローマ帝国やモンゴル帝国のように、政治的にも経済的にも文化的にも軍事的にも輝いていた時代が各国にあり、日本の場合はそれが昭和だった。しかし、そこに戻ることは難しい。
また、戦後の日本は格差が奇跡的に縮まった時代だったが、今また格差が広がっている。これは単に日本の「標準」に戻っているだけとも言える。北東アジアにおいては中華文明が圧倒的に強く、日本はその隣でうまくやってきた国だった。中国と対抗しようとすれば辛い思いをするだけかもしれない。このように考え方を変える必要がある。
Q. 今後の日本に必要な「国民の物語」とは?
明治時代、日本は西洋化を進める際に「神武天皇の時代に戻る」という物語を利用した。西洋の徴兵制を導入する際も「神武天皇の時代も徴兵でした」と説明することで、伝統主義者を納得させつつ改革を進めた。
現代日本に必要なのは、左右のイデオロギーを超えて共有できる物語だ。例えば「日本は人種差別撤廃を提案した国」という物語は、左派にとっては進歩的な価値観として、右派にとっては日本の誇るべき歴史として、両者が納得できる可能性がある。「日本は素晴らしい国だった。そしてこれからも素晴らしい国であるために人種差別撤廃を率先してやっていく」という物語ならイデオロギーを超えられるかもしれない。
Q. 誰がそのような物語を創るべきか?
過去30年間、日本は「アメリカはこうだから」「シリコンバレーはこうだから」といった、アメリカの劣化バージョンの物語ばかりを参照してきた。しかし、現在のアメリカを見ると、それがベストモデルとは言えない。
日本の物語作りには歴史家や評論家だけでなく、クリエイターも参加すべきだ。歴史は専門家だけのものではなく、国民全体のものである。アニメや漫画も歴史との触れ方の一つだ。シバ大三郎のような小説家が「イノベーターとしての織田信長」を描いたように、今の時代に求められる人物像を現代のメディアで表現すべきだ。

近年の「鬼滅の刃」人気や、神社ブームに見られる「草の根の神道文化」の広がりも、新たな物語の素材となりうる。日本の神社は一つの価値観だけでなく、多様な神々が共存する場所であり、この多様性を尊重する文化こそが日本の強みになる可能性がある。