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ハーバード大医師が語る「正解なき時代の子育て」
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2025年8月2日

正解のない「子育て」という営みに親はどう向き合えばいいのか?どうすれば子どもの特性を伸ばすことができるのか?どうすれば親自身がプレッシャーから解放されるのか?ハーバード大学の小児精神科医で3児の母である内田舞氏に聞いた。 <ゲスト> 内田舞|ハーバード大小児精神科医 3児の母。北海道大学医学部卒。...
内田舞ハーバード大小児精神科医に聞く「子育ての正解がない理由」
育児の中で感じる不安や悩み、そして「正解を知りたい」という切実な思い。しかし、なぜ人類が長い間取り組んできた子育てに、確固たる「正解」が見つからないのでしょうか?ハーバード大学の小児精神科医である内田舞氏に、その理由と向き合い方について聞きました。

Q. 子育てに「正解」がないのはなぜですか?
人間一人ひとりの特性が特別だからです。人間の脳は臓器なので、生物学的な共通点や傾向はありますが、個人によって「正解」のばらつきが非常に大きい。それは悪いことではなく、多様な人間がこの社会を築いている素晴らしさにつながっています。ただし、だからこそ一つひとつの判断が難しくなるのです。

仕事の適性が人によって異なるのと同じように、教育においても子どもによって合うものが違います。この多様性が、単一の「正解」を難しくしているのです。
Q. 社会構造は子育てにどのように影響していますか?
子どもの特性を十分に活かせない社会構造にも目を向ける必要があります。例えば日本の受験文化は、特定の年齢で、与えられた問題を決められた時間内にどれだけ「正解」を出せるかを競うシステムです。
しかし本来、人間の特性は人生の様々なタイミングで輝くものです。それが社会を可能にしているはずなのに、一時点の試験結果で将来が大きく左右されるのは、社会としてもったいないことをしているのではないでしょうか。
また、キャリアの肩書きや収入といった単一の軸で人を評価する傾向も、多様な軸があるべき人間社会において問題です。親自身もこうした価値観に影響されているため、子育ての判断にもそれが反映されがちです。
Q. 日本の親が感じるプレッシャーの特徴は?
日本社会では親に対する過度なプレッシャーがあります。「正解」を出さなければならないというプレッシャー、完璧に近い親でなければならないというプレッシャー、子どもが社会的に望ましくない行動をした時に向けられる批判的な目線など、本来親がそこまで責任を負う必要のないことにまで責任を感じさせられています。

例えば、お弁当一つとっても、アメリカではシンプルな中身でも栄養バランスが考えられていれば十分評価されますが、日本では毎日キャラ弁を作るような美的なプレゼンテーションにまでプレッシャーを感じる親が多いです。
また、公共の場での子どもの自然な振る舞いに対しても、周囲に迷惑をかけてはいけないという無言のプレッシャーを感じることがあります。
Q. 親はどうすれば子どもの特性を活かす育て方ができますか?
まず社会構造からのプレッシャーを認識し、ある程度自由になることが大切です。子育ては親だけでなく、社会全体、時代、子どもの特性など様々な要素が関わっています。にもかかわらず、親だけに責任が集中する構造になっていることを理解しましょう。
特に精神科の診察では、子どもの問題行動や精神的な難しさについて、「私の接し方が悪かったのではないか」と自責の念を抱く親が非常に多いです。しかし多くの場合、そのような極端な自己責任論は正しくありません。
科学的にも、かつては自閉症や統合失調症の原因を母親の接し方に求める「冷蔵庫マザー」や「統合失調症を作り出す母親」という誤った概念がありましたが、現在ではこれらが生物学的・遺伝的要因によるものだと分かっています。
Q. どうすれば多様な視点を持ち、子どもの特性を理解できますか?
一つの世界だけで生きていると、その世界の価値観だけで自分や子どもを判断してしまいがちです。そこで「第三の場所」を持つことが重要になります。
家庭と職場以外に、別の視点を得られる場所や関係性を作りましょう。それは趣味のコミュニティかもしれませんし、昔からの友人との交流かもしれません。異なる価値観に触れることで、自動化された思考パターンから解放され、新しい視点を得ることができます。

脳科学的にも、人間の脳はエネルギー効率を高めるため、一度パターンを認識すると前頭前野の働きを抑制し、思考を自動化する傾向があります。しかし、新しい視点に触れると「あれ?」と考え直すきっかけになり、前頭前野が再び活性化します。
子どもにとっても、家庭と学校以外に、習い事や別の友人関係、親戚との交流など、異なる体験ができる機会が非常に大切です。
Q. 忙しい中でも「第三の場所」を持つコツは?
自分の時間を確保するためには、ある程度効率化して考える必要があります。例えば運動クラスに参加すれば、自分でメニューを考える手間が省け、指示に従うだけでよいので前頭前野の負担も減ります。
また運動中は仕事や家族のことを忘れ、目の前のことに集中できるため、悩み事から一時的に解放されます。そして運動後に戻ると、違うメンタリティでタスクに向き合えるようになります。
夫婦それぞれが「第三の場所」を見つけてルーティン化することで、プレッシャーやストレスを軽減できます。育児の責任は待ったなしですが、そのバランスをどう取るかを考え、うまくやれる方法を工夫していくことが大切です。