政策超分析
地政学で読み解く大国のホンネ/ロシアを悩ませる地形の呪い/アジアの水源を支配する中国
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2025年8月1日

「政策超分析」では、専門家が政策や国際情勢を徹底解説。今回のテーマは「地政学入門」。前編では、地政学の見地からウクライナ情勢を分析。 <ゲスト> 小手森千紗|PIVOT MC 峯村健司|キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員 https://x.com/kenji_minemura 奥山真司|多...
地政学で読み解く大国のホンネ―ロシアのウクライナ侵攻はなぜ起きたのか
地政学的視点で世界情勢を読み解く―最近注目を集める地政学とは、国際政治を戦略的に見る方法だ。ランドパワー(陸の力)とシーパワー(海の力)という概念を理解すれば、ロシアのウクライナ侵攻の背景や、中国が水資源を「武器化」する理由が見えてくる。

Q. 地政学とは何か?なぜ学ぶべきなのか?
地政学とは、国際政治を戦略的な視点から見る考え方だ。一般的な経済や人権、民主主義といった視点とは異なり、地理的要素から国家の行動を分析する。
地政学の起源はドイツにある。その後イギリスやスウェーデンなどヨーロッパで発展し、ナチスドイツやヒトラーに悪用された歴史もある。最近ではプーチンも地政学的な考え方を利用している。

世界の超大国(アメリカ、中国、ロシア、イギリスなど)は、世界を俯瞰して戦略を立てる際に地政学的な考え方に頼らざるを得ない。私たちが地政学を学ぶべき理由は、大国の行動原理を理解し、悪用されないようにするためだ。
Q. ランドパワーとシーパワーとは何か?
古典的な地政学では、人類の歴史は「陸の勢力」と「海の勢力」による争いだと考える。
ランドパワーの代表的な国はロシアだ。世界最大の領土を持ち、ユーラシア大陸の中心に位置する。また、ドイツや中国もランドパワーに分類される。これらの国は陸地を拠点として外に拡大しようとする傾向がある。
シーパワーの典型はイギリス、かつてのスペインやポルトガル、そして現代ではアメリカだ。海を利用して世界に展開し、貿易と海軍力を背景に影響力を行使する。
日本は島国であるため当然シーパワーだが、歴史的には意外とランドパワー的な側面もあった。戦前は両者の路線で分裂し、うまくいかなかった一面もある。
Q. ハートランドとリムランドとは?
「ハートランド」とは「心臓地帯」を意味し、イギリスの地政学者マッキンダーが1900年代初めに提唱した概念だ。シーパワーが侵入できないユーラシア大陸の中心部を指し、ランドパワーの拠点となる地域だ。
「リムランド」は、ハートランドとシーパワーがぶつかる中間地帯、具体的にはユーラシア大陸の沿岸部を指す。人口が多く、産業が発達しやすい地域であり、内側からのランドパワーと外側からのシーパワーが衝突する「干渉地帯」となる。
中国は経済発展している沿岸部(リムランド)と内陸部を含む国家であり、リムランド的な側面を持ちながらも、国全体の構造としてはランドパワー的な性格が強い。中国の国防予算は大きいが、国内治安維持の予算の方が上回っていた時期もあり、内部の安定に注力している面がある。
Q. ロシアのウクライナ侵攻は地政学的にどう説明できるか?
ロシアのウクライナ侵攻は、ハートランド側にいるランドパワーの勢力(ロシア)が、リムランドに攻め込んだ形と見ることができる。
ロシアはNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大により、西側から攻め込まれているという意識を持っている。ランドパワーの国は体が大きい割に被害者意識が強く、ウクライナの民主化や西側への接近を、シーパワーによる侵食と捉えた。
一方のNATOは、カナダ、アメリカなど大西洋を超えた国々とヨーロッパの主要国による同盟であり、本質的にはシーパワー側の勢力だ。NATOはもともとソ連の脅威に対抗するために結成され、さらにドイツも抑制するという「二重の封じ込め」の機能も持っていた。
ウクライナはロシアにとって極めて重要な地域であり、ウクライナを失えば「帝国ではなくなる」とも言われる。それはウクライナが外に向かっていく最初のステップだからだ。ウクライナには産業や軍需工場もあり、地政学的に重要な位置を占める。
Q. ロシアの対外進出ルートとは?
ロシアが外部に拡大する際には、主に複数のルートを使ってきた。バルト海ルート、黒海ルート、シベリアルートなどだ。
黒海ルートは現在のウクライナ紛争の焦点となっている。黒海の出口であるボスポラス海峡はトルコによってコントロールされており、ロシアの海への出口は制限されている。
最近注目されている北極海ルートは、地球温暖化により北極海の氷が溶けることで新たに開かれつつある。これまで北極海は通行不能とされていたが、氷が溶けることで新たな航路が生まれている。ロシアはこのルートを「自分のもの」と主張し、中国も砕氷船を建造するなど関心を示している。

ルートは平時には貿易に、有事には軍事進行に使われる「デュアルユース」の性格を持つ。そのため、ルートの支配権をめぐる争いは地政学的に非常に重要だ。
Q. 「武器化する水」とはどういう意味か?
水、特に川は物資の輸送ルートとして歴史的に重要だった。ユーラシア大陸の大きな川は海のように広く、物流ルートであると同時に軍事進行ルートでもある。また、水は生活や農業に不可欠な資源でもある。
中国はチベット高原を重視しているが、それは世界で2番目に水を蓄えている場所だからだ。チベットから流れ出る水はインド、バングラデシュ、東南アジア(メコン川)など多くの地域に流れ込む。

中国はメコン川の上流に11基以上のダムを建設し、水力発電に利用している。しかし、上流でダムによって水を貯めると下流の水量が減少し、これまで枯れたことのなかったメコン川の一部で水が流れなくなる事態が発生している。これが政治問題化し、東南アジア諸国が中国に抗議する事態となっている。
水を「武器化」するとは、水資源をコントロールすることで政治的な力を行使することだ。中国はレアアースの輸出規制など、資源を武器として使う「超限戦」の考え方を持っており、水もその一環と見ることができる。
Q. 中国と北朝鮮の水をめぐる関係は?
中国北東部(旧満州地域)は水不足に悩んでおり、水源の確保が課題となっている。一方で、中国と北朝鮮の関係は表面上は友好的でも、実際には水をめぐって対立することがある。
北朝鮮と中国の国境には川があり、北朝鮮が上流のダムを操作して水量をコントロールすることがある。中国が東南アジアに対して行っていることを、北朝鮮が中国に対して行っているわけだ。
Q. 日本の水源が外国に買収されているという話は本当か?
日本の北海道などで森林や水源が外国資本に買収されているという話がある。専門家の間でも見解は分かれるが、日本の水は品質が高く、特に「軟水」は料理にも使いやすいため、外国人にとっては魅力的な資源だ。
日本は外国資本による土地購入の規制が緩く、水源地の買収が進んでいる実態がある。今後、水不足が世界的に深刻化する中、先行して水源を確保しようという動きは強まる可能性がある。
地政学的な視点で見れば、水源や海峡など重要な地点をコントロールすることが国家戦略として重要だ。日本も水資源の保全について、より戦略的な対応が求められる。