PIVOT TALK BUSINESS
いまさらきけないファイナンス
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2025年7月31日

『決算分析の地図』の村上茂久氏による、スタートアップ・ファイナンス超入門。Amazonはなぜ赤字に見える?キーエンスから見える日本企業のファイナンスの特徴とは?村上氏の超解説第三弾。
ファイナンス思考とは?利益よりもキャッシュフローを重視するAmazonの経営戦略
ファイナンスがわかると、企業の過去・現在・未来を適切に読むことができます。『決算分析の地図』の村上茂久氏による企業分析第三弾では、スタートアップの特徴を取り上げます。Amazonはなぜ赤字に見えるのか?キーエンスから見える日本企業のファイナンスの特徴とは?わかりやすく解説してもらいました。

Q. ファイナンスとは何ですか?
ファイナンスという言葉は文脈によって意味が変わります。実務では主に「調達」を意味することが多く、スタートアップ企業が「ファイナンスをどうしよう」と言えば、資金調達の方法を検討しているということです。一方、資金を提供する側のベンチャーキャピタルや金融機関にとっては「資金提供する」という意味になります。
広い意味では、ファイナンスは大きく3つの要素に分けられます。1つ目は「調達」、2つ目は「投資」、3つ目は「分配」です。企業はまず資金を調達し、その資金を事業に投資します。そして成長して利益が出れば、株主還元などの形で分配することになります。

Q. 会計とファイナンスの違いは何ですか?
会計は過去の記録を重視します。簿記(ブックキープ)という言葉が示すように、過去の実績を記録することが主な役割です。また、会計は利益を重視します。
一方、ファイナンスは未来を重視します。スタートアップ企業が大きな資金調達ができるのは、将来の成長が見込まれるからです。また、ファイナンスではキャッシュフローを重視します。これが「キャッシュフロー思考」と呼ばれるものです。
Q. 利益とキャッシュフローはどう違うのですか?
両者は別物です。例えばAmazonは2010年代、「利益を出さない会社」と言われていました。実際、2012年や2014年は赤字でした。しかし同時期、Amazonの営業キャッシュフローは急増していました。2012年の例では、0.4億ドルの赤字でしたが、営業キャッシュフローは40億ドル以上生み出していたのです。
この違いは主に減価償却費が関係しています。Amazonは過去に多額の投資をしており、その減価償却費が会計上の費用として計上されます。2014年の例では、純損失が2.4億ドルでしたが、営業キャッシュフローは68.4億ドル。その差の大部分は、実際には現金支出を伴わない減価償却費(45億ドル)などの費用でした。
Q. Amazonはなぜキャッシュフローを重視するのですか?
Amazonは1998年の株主向け手紙で既に「一般に認められた会計原則の見栄えを最適化することと、将来のキャッシュフローの現在価値を最大化することのどちらかを選ばなければならない場合、私たちはキャッシュフローを選びます」と宣言していました。

直近のプレゼンテーション資料でも、長期的な目標として「フリーキャッシュフローの最適化」を掲げています。フリーキャッシュフローとは、営業キャッシュフロー(本業から生み出したキャッシュ)と投資キャッシュフロー(設備投資などに使ったキャッシュ)を合計したものです。
Amazonのキャッシュフロー計算書を見ると、営業キャッシュフローの多くを投資に回していることがわかります。例えば2017年にはスーパーマーケットチェーンのホールフーズを1.5兆円で買収し、2021年には映画会社MGMを約1兆円で買収しています。これらの投資を通じて、将来のキャッシュフロー増加を目指しています。
Q. AppleとAmazonのキャッシュフロー戦略の違いは何ですか?
両社のキャッシュフロー計算書を比較すると明確な違いがあります。Amazonは営業キャッシュフローの多くを投資に回しているのに対し、Appleは株主還元(配当や自社株買い)に回しています。
例えば、Appleは15.6兆円の営業キャッシュフローを生み出し、その大部分を株主還元に使っています。これは投資先が限られていることも一因でしょう。スターバックスも同様に、店舗拡大以外の成長戦略があまりないため、生み出したキャッシュフローの多くを株主還元に回しています。
どちらの戦略が優れているとは一概に言えません。それぞれの企業の状況や成長ステージによって適切な戦略は異なります。
Q. 日本企業のキャッシュフロー戦略はどうなっていますか?
日本企業の例として、キーエンスを見てみましょう。キーエンスは6年連続で営業利益率50%を超える高収益企業です。キャッシュフロー計算書を見ると、営業キャッシュフロー4000億円に対し、投資キャッシュフローが2800億円のマイナスとなっています。
一見するとAmazon型の積極投資をしているように見えますが、実はその内訳は大きく異なります。キーエンスはファブレス企業(自社工場を持たない)なので、多額の設備投資はしていません。では何に投資しているかというと、その大部分は投資有価証券です。

総資産3.29兆円のうち、46%が投資有価証券、19%が短期有価証券で、合計65%もの資産が有価証券に向けられています。さらにその内訳を見ると、譲渡性預金44%、社債39%、国債16%と、ほとんどが安全資産への投資です。
これは典型的な日本企業の「お金の使い方」の例です。高い利益率で純資産が増え続けても、その資金を積極的な事業投資や株主還元に使わず、安全資産として保有するケースが多かったのです。
Q. 最近の日本企業のキャッシュフロー戦略に変化はありますか?
近年、日本ではコーポレートガバナンス改革の流れもあり、企業の資金活用に対する見方が変わってきています。例えば、「伊藤レポート」では最低でもROE8%を目指すべきだと提言され、企業に眠っている資産やキャッシュの有効活用が求められるようになりました。
その結果、自社株買いや配当増加を発表する日本企業が増えています。例えば富士メディアホールディングスの事例や、セブン&アイ・ホールディングスが株主還元を増やす方向に動いていることなどが挙げられます。
アメリカの株式市場では、企業に余ったお金をそのまま持っておくことは許されません。投資先がないのであれば株主に還元すべきという考え方が一般的です。この考え方が日本にも徐々に広がりつつあります。
Q. ファイナンス思考の3つの軸は何ですか?
ファイナンス思考には3つの重要な軸があります。
1. リスクとリターン:基本的に高いリスクには高いリターンが期待され、低いリスクには低いリターンが期待されます。例えば転職はキャリアアップのチャンスがある一方で失敗のリスクもあり、ハイリスク・ハイリターンといえます。ベンチャーキャピタルがリスクの高いスタートアップに投資するのは、大きなリターンを期待しているからです。
2. 時間の軸:ファイナンスでは現在と未来の関係が重要です。お金を借りたり投資を受けたりするということは、将来のキャッシュフローと現在のキャッシュフローを交換していることになります。ベンチャーキャピタルがスタートアップに投資するのは、将来大きなリターンを得られると期待しているからです。
3. キャッシュフローの重視:ファイナンスでは会計上の利益よりもキャッシュフローを重視します。企業価値は将来生み出すと予想されるキャッシュフローに基づいて評価されます。

Q. なぜスタートアップは赤字でも資金調達できるのですか?
スタートアップの成長曲線は「Jカーブ」と呼ばれる形になることが多いです。最初は赤字が膨らみますが、その後急成長するというパターンです。例えばメルカリは2020年6月期に売上763億円に対して193億円の赤字でしたが、その後は売上1800億円、利益175億円と大きく成長しています。
こうした投資ができるのは、「PMF(プロダクト・マーケット・フィット)」が確認できているからです。つまり、製品やサービスが市場に受け入れられ、成長が期待できると判断されているため、一時的な赤字にもかかわらず投資が行われるのです。
最近では「ファイナンスミックス」という考え方も広がっています。これは負債(デット)、株式(エクイティ)、補助金などを適切に組み合わせて資金調達を行う方法です。