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北欧企業こそが日本企業のモデルだ:エレベーターの巨人、KONEの研究
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2025年7月29日

日本の企業経営・ガバナンスを考える上で、有力なモデルになるのが北欧企業だ。フィンランドで時価総額トップを誇る、エレベーターの巨人、KONE。同社の分析を通じて、財務戦略アドバイザーの田中慎一氏が日本企業へのヒントを探っていく。 <ゲスト> 田中慎一|財務戦略アドバイザー/インテグリティ代表 慶応義...
エレベーター世界2位「コネ」の強さとは?創業家ガバナンス・安定経営・イノベーションの秘密
地味な業界で堅実に成長し、時価総額でフィンランドの「ノキア」も超える企業「コネ」。北欧企業シリーズ第2弾は、エレベーター業界で革新を続ける同社の秘密に迫る。

Q. コネとはどのような企業ですか?
コネはフィンランドのヘルシンキに本社を置く、エレベーター・エスカレーター・自動ドアなどを製造する企業だ。一見地味な会社だが、イノベーティブな企業として知られている。フィンランド国内では時価総額トップであり、かつて携帯電話で一世を風靡したノキアをも上回っている。
1910年にヘルシンキで機械修理工場として創業し、1924年に現在の経営の基礎となるエレベーター事業を開始した。本格的な事業拡大は1960年代から始まり、特に3代目のペッカ・ヘルリン氏の時代に国際化とイノベーションを加速させた。
1968年にはスウェーデン、ノルウェー、デンマークでエレベーター事業を展開する企業を買収。1974年にはフランス、ベルギーのエレベーター部門を買収し、1970年代にはヨーロッパ市場でトップクラスの地位を確立した。
Q. コネはどのように事業を発展させてきましたか?
コネの事業発展は大きく4つの段階に分けられる。第一段階は1960-70年代の欧州市場での拡大だ。第二段階は1980年代に入り、コングロマリット化を推進し、貨物輸送や船用クレーン、産業用クレーン、医療機器など多角化を進めた。
しかし第三段階として1990年代に入ると、「選択と集中」の流れで多角化した事業を整理し、エレベーター事業にフォーカスした。この時期に、後の成長の原動力となる中国とインドへの進出を開始した。中国には1996-98年頃に進出し、工場を設立。中国の都市化と高層ビル建設ブームを見越し、高層ビル用の高性能エレベーターの開発に力を入れた。
第四段階として2000年代に入ると、創業家によるガバナンス改革を実施。2005年に残っていた貨物事業を分離し、Cargotecとして上場させた。また、2005年頃からプロ経営者を外部から登用し、創業家による監督とプロ人材による経営を融合したガバナンス体制に移行した。
Q. コネの技術的イノベーションにはどのようなものがありますか?
コネは2014年にフォーブスが選ぶ「最もイノベーティブな企業」世界ランキングで42位に選ばれるなど、技術革新に力を入れている。主な革新的製品は3つある。

1つ目は1996年に発表した「MonoSpace」だ。これは世界初のマシンルームレス(機械室不要)エレベーターで、建物の上部に設置する巻き上げ機械室が不要になった。これにより建物のレイアウトの自由度が高まり、特に歴史的建造物など古い建物へのエレベーター後付けが容易になった。現在では標準的な技術となっている。
2つ目は2013年開発の「UltraRope」だ。炭素繊維を使用した超軽量のエレベーターロープで、従来の鋼鉄製ロープと比べて90%の軽量化を実現した。ロープ自体の重量が軽減されることで、超高層ビルでもエレベーターをより速く、より少ないエネルギーで動かすことが可能になった。
3つ目は2018年から展開している「People Flow Solution」というソフトウェア面のイノベーションだ。これは建物や商業施設、空港などでの人の流れを最適化するソリューションで、建物設計段階からエレベーターの配置や人の動線を考慮し、効率的な人の流れを実現するものである。
これらの技術を活かし、パリのオペラ座やドバイのブルジュハリファ、高さ1kmを超えるサウジアラビアのジッダタワーなど、象徴的なプロジェクトにコネのエレベーターが採用されている。
Q. コネのビジネスモデルの特徴は何ですか?
コネのビジネスモデルは「カミソリモデル」と呼ばれる形態だ。カミソリ本体(ここではエレベーター本体)を低価格で販売し、替刃(ここではメンテナンスサービス)で長期的に収益を上げる仕組みである。
エレベーターの耐用年数は20〜30年と長く、一度設置すれば長期間にわたってメンテナンス収入が得られる。そのため、景気後退で新規建設プロジェクトが減少してもメンテナンス収入は安定しており、リーマンショックやパンデミック時にも業績が大きく落ち込まなかった理由がここにある。
コネの売上構成を見ると、全体の約6割がサービス収入(メンテナンスやモダナイゼーション)で、物販(新規エレベーター設置)は約4割だ。特に2010年代後半以降、中国の不動産バブル沈静化で物販が減少したものの、サービス収入の増加でカバーしており、安定した経営を実現している。
Q. コネの財務状況はどうなっていますか?
コネは堅実に成長している企業だ。過去20年の売上高推移を見ると、2006年から2024年の約18年間で3倍以上に成長している。直近の売上高は約1.9兆円(日本円換算)で、日本の大手企業で言えばLINE/Yahoo!やアステラス製薬と同規模だ。
営業利益率は約11.3%(2024年)で、日本企業の平均(約6%)と比較すると高いが、一般的なグローバルトップ企業と比べるとやや控えめである。これはカミソリモデルの性質上、物販部門の利益率が低いためだ。
収益性の観点では、ROE(株主資本利益率)は30%以上と非常に高く、資本効率を重視した経営が行われている。また北欧企業によく見られるROC(使用資本利益率)も30%近くを維持しており、設備や在庫を抑えたアセットライト経営を実践している。
また、メンテナンス契約は前払いが基本のため資金回収が早く、余剰資金は基本的に配当として株主に還元している。配当性向は110%程度で、利益以上の配当を行っている。
Q. コネのガバナンス体制の特徴は何ですか?
コネのガバナンス体制は創業家の支配と上場企業としての透明性を両立させた特徴的な仕組みを持っている。同社はA株とB株の2種類の株式を発行しており、A株はヘルリン一族のみが保有し非上場、B株のみが一般に流通している。

株数では、A株は全体の14%に過ぎないが、議決権ではA株が全体の63%を占める。これにより創業家は少ない持株比率でも会社の支配権を維持できる。この仕組みにより外部圧力から自由な経営が可能となり、従業員の雇用を守りながら長期的視点でのイノベーション推進が実現している。
さらに、2000年代からは創業家は取締役会を通じた監督に専念し、日常の経営は外部から招聘したプロ経営者に任せるという体制に移行した。取締役会議長とCEOの役割を分離し、創業家は取締役会議長としてガバナンスを担い、経営執行はプロフェッショナルが担う形となっている。
Q. 世界のエレベーター市場でのコネのポジションはどうなっていますか?
世界のエレベーター市場では、アメリカのOtis(オーティス)が首位、コネが2位、スイスのSchindler(シンドラー)が3位となっている。世界中で運用されているエレベーター数で見ると、Otisが約200万台、コネが約180万台、Schindlerが約170万台と推定されており、この3社で世界市場の約半分を占めている。

地域別の売上構成を見ると、コネは中国市場への依存度が高いのが特徴だ。売上の約23%が中国からのものであり、これは競合他社と比較して高い割合だ。Otisは米国が30%、中国が13%、Schindlerは欧州・中東が46%、南北アメリカが29%となっている。
コネが中国市場で強いのは、1990年代から準備を始め、中国の都市化に早くから着目したことが要因だ。しかし、2010年代後半からの中国不動産市場の停滞により、新規設置案件は減少傾向にある。ただし、すでに設置された大量のエレベーターからのメンテナンス収入によって、全体としては安定した経営を維持している。