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日米関税交渉。裏側の事情。トランプ最大の危機とエプスタイン問題
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2025年7月26日

15%で決着した日米関税交渉。急転直下の妥結が実現したのはなぜか?トランプ政権側にどんな裏事情があったのか?トランプ最大の危機、エプスタイン問題の本質と合わせて、経済アナリストのジョセフ・クラフト氏に聞いた。 <ゲスト> ジョセフ・クラフト|経済アナリスト/東京国際大学 副学長 カリフォルニア大学...
日米関税合意の舞台裏:「トランプは自分のために動いた」米国内事情が決め手に

Q. 今回の日米関税合意の概要を教えてください
日米関税合意の要点は、自動車関税を懸念されていた25%から15%に下げることができたこと、一方で農産品の関税率を下げずに済んだことが評価できる点だ。
エネルギー購入や、トウモロコシ、大豆の購入についても、元々日本には需要があるので、それを今回利用した形となった。米の輸入についても、これまでのミニマムアクセスの枠内で増やすことになり、大きな譲歩には至らなかった。

今回の合意の肝となったのは関税よりも投資の部分で、5500億ドルの融資枠を設定する点だ。これは今後民間企業がアメリカに投資(工場建設やリサーチなど)する際に、日本政府が融資や借り入れができるよう信用枠を担保する金融支援だ。こうしたプロジェクトが焦げ付かない限り日本政府が損をすることはないので、日本もアメリカもウィンウィンの発案と言える。
Q. トランプ大統領の「9割はアメリカの利益」発言をどう評価すべきですか
これは基本的にトランプの思い違いか、いつものレトリックと受け取るべきだ。ホワイトハウスが公表した関税合意の正式なファクトシートには「90%」という言葉は入っていない。
しかし、私が気になったのは、ホワイトハウスのファクトシートに「トランプ大統領の指示で5500億ドルを投資する」と書かれている点だ。これはあたかもトランプが誰に、いつ、どのように金融支援をするか決めるように受け取られる可能性があり、日本政府の意図とは異なる。
また、アメリカ側の文書では「アメリカの自動車基準も容認される」とあり、日本で売られるアメリカ車はアメリカの基準で販売できる可能性があるという受け取り方ができる。日本政府は一定程度日本の基準に害さない範囲でアメリカの基準を受け入れると思うが、この辺りの曖昧さも気になる点だ。
Q. 5500億ドルの投資枠とは具体的にどのようなものですか
これは国家ファンドとは全く異なるものだ。あくまでも民間の投資需要、直接投資の需要に基づいたもので、既に日本政府はJ-WICなどの政府系金融機関を通じて実施している。
例えばトヨタや日立などの企業がアメリカに投資する際、民間銀行からも借り入れできるが、政府系機関からも借りられる。今回は別枠で5500億ドルを、事前に合意した分野での投資に対して政府が融資するという枠組みだ。これは日本にとっても悪くなく、アメリカにとっては当然良いことなので、良い成果と言える。
ただし、これはまだ詳細を詰めていく段階で、正式な協定ではないため、これから数ヶ月かけて細かいところを詰めていくことになる。トランプのことだから、すぐに思いつきで変えたり守らなかったりするリスクはあるが、大枠としてはいいところで収めたと言える。
Q. 今回の合意に至った舞台裏はどうなっていたのですか
赤沢経済産業大臣がアメリカに向かった時点では、合意があるという認識はなかった。現地に着いてラトニック氏と話をする中で、ラトニック氏が自宅に招き、2時間ほど話をした。

これはラトニック氏がトランプ大統領と接する中で、合意に至る可能性を察して、トランプを怒らせないように事前に段取りやシナリオ作りを赤沢大臣に指南したものと思われる。
今回の合意の中心人物はラトニック氏で、他の交渉担当者(ベヌセン財務長官やグリア通商代表)は徐々に参加頻度が減っていったが、ラトニック氏は一貫して交渉に関わっていた。
実は今年6月のG7でも合意発表が期待されていたが、その前の週の電話会談でトランプが怒ってしまい実現しなかった。今回ラトニック氏はその轍を踏まないよう細心の注意を払った。
Q. 合意内容はどのように決まったのですか
交渉写真を見ると、トランプが紙に数字を書いている様子が確認できる。当初4000億ドルだった融資額をトランプが消して5000億ドルに書き換えているのが見える。これはホワイトハウスが「トランプ大統領が交渉した」ことをアピールするための演出だろう。
自動車関税については、当初はクレジット方式(アメリカでの生産を増やした分だけ日本からの輸出車の関税を下げる)が検討されていたが、トランプはこの複雑な仕組みを理解できなかったか、自ら15%という数字を提示した。これは日本にとって非常に良い結果となった。
Q. 総合的に見て、今回の合意は日本にとってどのような評価ができますか
100点満点で最低でも80点、もう少し上げてもいいくらいの評価だ。これは赤沢大臣や石破政権の努力の成果であることは間違いないが、ラッキーな面もあった。
今回の合意の特徴は、石破総理が2月にトランプと会談した際に「日本は累計で1兆ドルのアメリカへの投資を目指す」と伝え、トランプが感銘を受けたことがベースになっている。「関税より投資」という石破総理の考えが一貫して働きかけられ、それが成功した。
ただし、合意に至った最大の要因は実はアメリカの国内事情だ。特にエプスタイン文書問題がアメリカ国内で大きな問題となっていた。
Q. エプスタイン文書問題とは何ですか?なぜそれが影響したのですか
ジェフリー・エプスタインという投資家が2000年代前半から未成年の性的人身売買を続け、2019年に逮捕・起訴され、その後拘置所で自殺した事件に関連する問題だ。

エプスタインの顧客リストがあるという陰謀説があり、その中に著名な民主党政治家やビジネスマンが名を連ねているとされてきた。トランプ大統領はこの陰謀説を煽り、大統領就任後に顧客リストを暴くと言ってきた。
しかし7月8日、FBIと司法省が「リストはなかった」と発表し、何も公表しないとしたことで、トランプ支持者が激怒。初めてMAGA(Make America Great Again)支持者が分裂する状況に至った。
トランプは若い頃エプスタインと交流関係にあったが、性的賠償に関わったという証拠は出ていない。しかし、なぜトランプはリストの公表に反対するのか、という疑問が浮上している。実は司法省が5月にトランプにエプスタインの訴訟資料の中にトランプの名前が複数回出てくると伝えていたことが明らかになった。
Q. なぜそれが関税合意につながったのですか
連日連夜メディアでエプスタイン問題ばかりが報道される中、トランプは別の良いニュースを出したかった。そこに日本の代表団がたまたま訪問していたため、ラトニック氏が「これはいいタイミングではないか」と判断した。
日本では中国との兼ね合いや8月1日の期限が迫っていたからという見方もあるが、実際はこのエプスタイン問題という国内事情でトランプは早く合意したかったのだ。そのため条件も15%になったと思われる。
合意発表後も、トランプはパウエルFRB議長と共に連邦準備制度ビルの工事を視察するなど、エプスタイン問題から関心をそらすための行動を取っている。
Q. 今後の日米関係や石破政権への影響はどうなりますか
今回の合意は石破政権にとって追い風となった。しかし、参院選大敗後の自民党内では自粛を求める声が高まっている。石破総理が辞める前に次の道筋を考える必要があるが、現状では新総理が誕生しても状況改善は難しい。
高市氏なら保守だが若い層は戻ってこないかもしれないし、中国やアジアとの対立も懸念される。小泉氏の場合は農家票が付いてこない可能性がある。
自民党にとって最大の課題は世代交代と保守層の離反だ。ポスト石破の戦略を立ててから総理の去就を決めるのが良いだろう。
今回の合意により、日本は秋口から年末にかけてインフレが顕在化した場合に、トランプが関税を下げる可能性を期待できる。そのためにも日米関係を良好に保つことが重要だ。