
【SI市場は瓦解する】日本のデジタル業界は生き残れるのか
日本のデジタル業界は生き残れるのか?「デジタル敗戦」の現状と未来への展望
日本のデジタル産業は深刻な「デジタル赤字」に陥っています。
プラットフォーマー不在という根本的な問題を抱え、産業構造の歪みが顕在化しているのです。
この状況を打破するためには何が必要なのでしょうか?
経済産業省のデジタル経済プロジェクトチームでプロジェクトリーダーを務める津田通隆氏と、元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員の澤円氏に、
日本のデジタル業界の現状と未来について伺いました。

Q. 「デジタル赤字」とは何ですか?
「デジタル赤字」という言葉が使われ始めてから約3年が経ちます。
これは、デジタル関連の国際収支において、受け取りよりも支払いが超過している状態を指します。現在、日本のデジタル赤字は約6.85兆円に達しています。

この赤字の約90%以上を占めるのが、広告取引業(Kコンサルティング)、SaaS(コンピューター)、ライセンス費や汎用OS(著作権等使用料)の3つです。
つまり、日本の企業が海外のプラットフォーマー(Meta、Google、Microsoft等)のサービスに大量のお金を支払っている構造が浮き彫りになっています。
Q. なぜ日本はこのような状況に陥ったのですか?
一言で言えば、「プラットフォーム不在」が最大の原因です。
Web2.0の時代はプラットフォーマーの時代と言われていますが、EC、SNS、検索、スマートフォンなど、
グローバルで重要な分野のすべてにおいて日本は弱い立場にあります。これらのプラットフォームは主にアメリカと中国の企業が握っています。
また、日本のデジタル産業の問題点として、「労働集約型」のビジネスモデルに依存していることが挙げられます。
日本ではSI(システムインテグレーション)市場が最大ですが、これは労働集約型の事業であり、市場成長率もARR(年間経常収益)も低い状況です。
一方、アプリケーションや広告といった領域は、一度ソフトウェアを作れば横展開できる資本集約型のストックビジネスモデルであり、
費用がほぼゼロでスケールできます。この効率の差がデジタル赤字につながっています。
Q. 日本のデジタル産業における「不健全な相互依存」とは何ですか?
日本の産業では、「ユーザー」と「ベンダー」が明確に分離していることが問題です。
典型的には、事業会社の経営層がデジタルシフトの重要性は認識しつつも、具体的なコミットメントを示さず、現場に丸投げする構図があります。
事業部門は「デジタルは分からない」として情報システム部門に依頼し、
情報システム部門は実際のオペレーションフローが分からないまま業務要件を作成します。
最終的には外部ベンダーに依頼することになりますが、ベンダーは「言われたことだけをやる」という姿勢で、
人月単価×工数で稼ぐビジネスモデルに安住しています。
この「事業会社が自分でやりたくない」という問題意識と、「SI事業者が現状のままで利益を出せる」という後ろ向きな相互依存関係が、
日本のデジタル産業の停滞を生み出しています。
Q. IT部門とその他の部門の関係にも問題があるのでしょうか?
非常に不健全な関係性が存在します。例えば、ほとんどの社員が毎日メールやチャットを使用していますが、
それが使えることに感謝を示す人はほとんどいません。しかし、これらのシステムに問題が生じると、すぐに文句を言う文化があります。

また、業務分析や基本設計までを「提案書」の一部として外部に依頼するため、社内にノウハウが蓄積されません。
ITで何ができるのかを理解している人材が社内に育たない構造になっています。
さらに、IT部門はコストセンターとして見下される傾向があり、事業部門からの評価も低いという悪循環に陥っています。
Q. DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質とは何ですか?
DXという言葉が使われ始めて約7年経ちますが、その本質は「トランスフォーメーション(変革)」にあり、「デジタル」はあくまで切り口に過ぎません。
しかし多くの企業では、「デジタル技術を導入すること」がDXだと誤解されています。
真のトランスフォーメーションは、会社の社長だけが実行できるものです。
トップが現場のオペレーションを含めて変革する意志を持ち、それを実行するための権限委譲を行うことが重要です。
実際、デジタルシフトに成功している企業では、約8割のケースで社長自身がプロジェクトオーナーとして責任を持っています。
DXの問題はベンダーやコンサルタントの問題ではなく、経営者の問題なのです。
Q. なぜ経営者がDXに積極的に取り組まないのでしょうか?
多くの現役経営者は、オーナー企業ではなくサラリーマンとして昇進してきた人たちです。
そのため、社内の経路依存が強く、事業本部長や工場長に強い要求をすることが難しい状況にあります。
「自分の任期中は現状維持で、次の世代で変革してほしい」という消極的な姿勢になりがちです。
また、自分自身にデジタルの知識がない状態で決断し、万が一間違った場合に責任を取れないという恐れもあります。
しかし、本来であれば、経営者は「口は出さないが金は出す」というスタンスで、専門家に権限を委譲すべきです。
Q. AIの進化は日本のデジタル産業にどのような影響を与えますか?
生成AIの登場により、特にSI事業の中流工程(プログラミングなど)が代替されやすくなっています。
プログラマーも最近は、GitHub Copilotなどを使って、アーキテクチャ設計さえできればコードを自動生成できるようになっています。
今後は、最上流(問いを立てる、要件を定義する)と最下流(現場でのインプリメンテーション)の工程でしか稼げない世界になっていくでしょう。
そのため、日本の企業も「データ・ソフトウェアカンパニー」へと生まれ変わる必要があります。
Q. AI時代に残る仕事とはどのようなものですか?
AI時代に残る仕事の典型例として「庭師」が挙げられます。
庭師の仕事は、顧客の要望を聞き出し、地域の特性(日当たり、風の向きなど)を理解した上で最適な庭をデザインし、
季節ごとに必要なメンテナンスを継続的に行うものです。

これは「問いを立てる」という最上流の仕事と、「現場で実装する」という最下流の仕事の組み合わせであり、
AI化されにくい特性を持っています。AIは答えを作ることはできても、問いを作ることはできないからです。
このような視点で見ると、デジタルの世界でも、問いを立て、顧客が喜ぶものを維持するという「面白い部分」は人間に残るでしょう。
中間の作業が自動化されることで、むしろ人間はより創造的な仕事に集中できるという前向きな側面もあります。
Q. 日本のデジタル産業が未来に向けて生き残るために必要なことは何ですか?
日本が持つ強みを活かすことが重要です。例えば、日本のロボティクスと通信環境は国際競争力で世界トップクラスです。
東京メトロがイギリスの地下鉄エリザベス線で運行管理サービスを提供するなど、日本の技術とノウハウが海外で評価されている例もあります。
また、ハードウェアとソフトウェアの主従が逆転し、「ソフトウェアを売るためにハードウェアを売る」という世界観が主流になっている中、
日本企業もビジネスモデルを変革する必要があります。物を売るのではなく、サービスとして提供し、
顧客の体験価値を高めることでライフタイムバリューを最大化する方向へと舵を切るべきです。
中途半端に大きな国内市場があることが足かせになる場合もあります。
最初からグローバル市場を見据え、英語対応も含めた戦略を立てることが重要です。
「翻訳可能な構造と持っているアセットの掛け算」によって、日本の強みを世界に展開していくことが、デジタル産業の明るい未来につながるでしょう。
