
日銀短観で読み解く日本経済
【日銀短観から読み解く2025年の株式投資戦略】鈴木一之氏に聞く
売上高は上方修正されているのに、利益計画は慎重な見通しになっている。この矛盾する状況は、日本企業が現在直面している課題を象徴している。日銀短観データを深掘りすることで、2025年に向けた有望な投資先が見えてくる。

Q. 日銀短観から見える企業業績の全体像は?
7月初めに発表された6月の日銀短観からは、製造業・非製造業ともに想定より良好な結果が出ている。特に製造業については、トランプ関税の影響も懸念されていたが、予想に反して業況判断指数が上昇した。
しかし、企業の収益計画を詳しく見ると、売上高と利益の間に興味深いズレがある。売上高については全般的に上方修正されているのに対し、利益計画は特に2025年度について慎重な姿勢が目立つ。大企業は2025年度について増収減益の計画を立てている。
これは、企業がインフレ環境下で売上は伸びるものの、賃金上昇や原材料コスト高の影響を十分に価格転嫁できていないためだ。価格転嫁が十分にできていない業種は、売上が増えても利益が圧迫される状況が続いている。

Q. 最も業績の上方修正が大きい業種は?
売上高の上方修正率が特に高かった業種をみると、「造船・重機・その他輸送用機械」が7.2%と最も高く、次いで「対個人サービス」、「不動産」、「汎用機械」、「その他製造業」と続く。
しかし、この中で増収増益計画になっているのは「造船・重機」だけであり、他はすべて増収減益の計画となっている。これは人件費や原材料コストの上昇分を十分に価格転嫁できていないことが原因だ。
経常利益の修正率が特に高かったのは、「造船・重機」(13.9%)、「情報サービス業」(9.7%)、「非鉄金属」(8.4%)、「電気機械」(8.0%)、「汎用機械」(7.5%)の順となっている。
これらを分析すると、現在の株式市場で特に注目すべき3つのキーワードが浮かび上がる:「防衛」「生成AI」「素材」。これらの分野は今後も高い成長が期待できる。

Q. 「防衛関連」の有望銘柄は?
防衛関連の支出は世界的に伸びており、日本の造船・重機セクターもその恩恵を受けている。しかし、三菱重工業など主要防衛関連株はすでに過去2年で株価が大きく上昇している(三菱重工は約7倍)ため、今から投資するには割高感がある。
そこで注目したいのは、以下のような相対的に割安な銘柄だ:
名村造船所:中型バルク船(バラ積み船)を得意とし、日米関係強化の恩恵を受ける可能性がある。函館ドックを傘下に持ち業績好調。
三菱化工機:水素発生装置などを手がける化学機械メーカー。3年間で売上を600億円から900億円に増やす野心的な中期経営計画を発表している。
佐世保重工業:三菱重工の系列で、原発再稼働に関わるメンテナンス事業を展開している。
これらの銘柄は相対的に配当利回りも高く、長期投資にも適している。ただし、イランとイスラエルの停戦合意に向けた動きなど、地政学的リスクが低下すると防衛関連株の勢いが弱まる可能性もある点には注意が必要だ。

Q. 「情報サービス・生成AI関連」の有望銘柄は?
DX(デジタルトランスフォーメーション)投資が大企業から中小企業まで広がり、特に生成AI関連のビジネスが盛り上がっている。このセクターでは以下の銘柄に注目したい:
システナ:自動車の自動運転技術や車載システムに注力。産業界全般にシステムを供給している。
セゾンテクノロジー:データ連携技術「HULFT」を持ち、業界のデファクトスタンダードとなっているソフトウェアを提供。配当利回りも5%近くと高い。
情報サービス企業は成長株として期待されるため、一般的にPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が高めになりがちだが、上記銘柄は相対的に配当利回りが高く、安定性と成長性のバランスが取れている。また、政府のDX投資支援策の恩恵も受けやすい。

Q. 「素材・非鉄金属」で注目すべき銘柄は?
非鉄金属セクターは、半導体材料や電線(光ファイバー)関連で好調だ。特に光ファイバーはデータセンター向けの需要が伸びている。また、レアアースやレアメタルのリサイクル技術を持つ企業も注目される。
アルコニックス:金属専門商社で金属リサイクルも手がける。レアメタルリサイクル技術を持ち、「都市鉱山」と呼ばれる使用済み電子機器からの金属回収を行う。
AREホールディングス:貴金属リサイクルに強み。
三井金属:半導体用の特殊フィルムを手がける。半導体後工程で成長が期待できる。
東ソー:表面処理技術を持ち、半導体製造工程で活用される。
リョービ:EVに使われるギガキャスト技術を持つプレス・鋳造メーカー。PBRが0.4倍と極端に低く割安。

Q. 「電気機械」セクターの見通しは?
電気機械セクターは幅広い企業を含むが、特に半導体や電力インフラ関連に注目したい:
大真空:水晶振動子(クォーツデバイス)メーカー。スマホやパソコンの無線技術に不可欠な部品を提供。業績は変動が大きいが、今期は前年比118%の増益予想。
フェローテック:半導体前工程で使われる真空シール技術で世界シェア6割を持つ。
大崎電気:スマートメーターなど電力設備関連。原発再稼働や電力設備投資の恩恵を受ける。
半導体市場は「先端半導体」と「レガシー半導体」に二極化しているが、今後はレガシー半導体も回復の兆しが見えてきている。

Q. 為替や外部環境は今後どう影響する?
日銀短観の想定為替レートは146.23円/ドルとなっており、現在の為替水準と大差ないため、円安による業績上振れ余地は限られている。むしろ今後、アメリカが利下げサイクルに入り円高が進むと、業績下方修正リスクもある。
ただし、ユーロ円については企業が保守的な想定レートを置いているため、ヨーロッパビジネスの比重が高い企業(マツダ、リコー、竹内製作所など)は上振れ余地がある。
トランプ関税については、25%という水準が明確になったことで、一部の企業は前向きな動きを始めている。特に国内需要や非自動車系の輸出企業、GX(グリーントランスフォーメーション)関連企業は好調だ。
長期的には世界経済に悪影響が出始める可能性があり、一時的な株式市場の調整もあり得るが、2018年のトランプ関税時のような深刻な景気後退には至らないだろう。むしろ日本市場は二極化が進み、自動車など一部の従来型産業が苦戦する一方で、防衛、AI、素材などの分野は引き続き好調を維持すると予想される。
NVIDIAの時価総額が日本のGDP(約4兆ドル)を超えたことが象徴するように、株式市場は大きな転換点を迎えている。今後は個別銘柄の選別がますます重要になるだろう。