
最新テクノロジーで見えた空の未来
JALが次世代ハイブリッド飛行機に注目する理由は?航空業界の未来と新戦略を徹底解説
日本を代表する航空会社のJALとANAが進める新たな戦略と、航空業界の未来について、航空経済紙「Aviation Wire」編集長の吉川忠行氏に話を聞いた。持続可能な航空技術の開発から高級シートの進化まで、空の未来を担う最新動向に迫る。
未来の空を飛ぶハイブリッド機とは?

Q. JALが興味を示している新型機について教えてください。
JALが最近パリ航空ショーで基本合意を結んだのは、ドイツのメイブ社が開発中のハイブリッド飛行機だ。現在の航空機はナフサと呼ばれる石油由来の航空燃料を使用しているが、この機体はエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド推進システムを採用している。
電気だけで大型機を飛ばすのは50年先の技術かもしれないが、ハイブリッド技術なら10年から20年程度で実用化が見込まれる。エンジンメーカーも参画しているプロジェクトなので、実現性は高い。
この機体の特徴は「オープンローター」と呼ばれる推進システムだ。通常の航空機エンジンは羽根がケースの中に収められているが、この機体ではプロペラ機のように露出している。翼の下にエンジンを取り付ける従来型とは異なり、機体後部にエンジンを配置するリアエンジン方式を採用している。
技術的には既に概念が固まっている部分が多いが、安全性の認証には時間がかかる。アメリカとヨーロッパの航空当局による型式証明の取得が必要なため、実用化までには相応の期間を要するだろう。
未来の機内はどう変わる?新型機の座席配置

Q. 新型機の座席配置はどのようになっているのですか?
この新型機の客室は従来型と異なり、片側2席・片側3席の計5席配置になっている。日本の新幹線に似た「2+3」の配置だ。通常の国内線航空機は「3+3」の6席配置が標準的だが、この「2+3」配置は効率的な座席数確保が可能とされている。
全席エコノミークラスなら100席、ビジネスクラスなどを含む3クラス構成にすると76席程度を確保できる。この座席数は、かつて三菱が開発を進めていたMRJ(三菱リージョナルジェット)と同じクラスだ。
地域間路線で、なおかつジェット機よりも運行コストを抑えられる点が、この新型機の重要な特徴となっている。
なぜ今、ハイブリッド機が重要なのか?
Q. このような新技術はなぜ重要なのでしょうか?
特に乗客が少ない路線では、座席数を増やして一度に多くの人を運ぶというアプローチが難しい。そのため、一便あたりの運航コストをいかに下げるかが重要になる。現在、航空会社のコストの約半分を燃料代が占めているため、燃費効率の良い機体の導入は大きな意味を持つ。
燃料効率の良い次世代機の導入により、現在の機材では維持できない路線や、減便を余儀なくされている路線でも、一定のサービスを維持できる可能性がある。JALの戦略としては、こうした新技術を活用して国内線ネットワークの維持・発展を図ろうとしている。
究極の快適さを追求するJALの最新ファーストクラス
Q. JALの最新ファーストクラスはどのような特徴がありますか?
JALが2020年1月に就航させた国際線フラッグシップ機エアバスA350-1000には、最新鋭のファーストクラスが導入されている。完全個室型の座席で、高さ約160cmの壁とドアが付いており、プライバシーが完全に確保されている。
ラグジュアリーな革張りシートは、フルフラットにすると普通の家のベッドと変わらない寝心地を提供する。4Kモニターを備え、足元のスペースも十分に確保されているため、背の高い外国人でも窮屈さを感じることはない。
このファーストクラスはわずか6席しかなく、3人のキャビンアテンダントがサービスを提供するため、2席に1人という手厚い対応が実現している。そのため、自分のペースで食事や休息を取ることができ、ビジネスクラスにはない究極の快適さを提供している。
シートは一般的なリクライニング機能を持たないが、これは家のソファのように最初からくつろげる形状に設計されているためだ。可動部分を減らすことで、デッドスペースを減らし、ベッドとして使えるスペースを最大化している。
ANAの新戦略とビジネスクラスの進化
Q. ANAはどのような戦略を展開していますか?
ANAも2023年6月のパリ航空ショーで、ボーイング787向けの新しいビジネスクラスを発表した。こちらもドア付きの個室タイプで、2019年から大型機(ボーイング777)に導入している「THE Room」と呼ばれる個室タイプのビジネスクラスの中型機版だ。
機体サイズが異なるため、そのままの設計は不可能だったが、シート設計の専門家によって工夫が施され、787という比較的小型の機体でも同等の快適さを実現している。
ANAが特に重視しているのは、機材が違っても同じ体験を提供することだ。例えばロンドン路線では、朝の便は大型機、夜の便は中型機といった運用がされることがある。顧客としては、どの便に乗っても同じ品質のビジネスクラスを体験したいというニーズがある。
ANAはこの点にこだわり、個室型で、プライバシーが保たれ、フルフラットベッドで寝られるといった要素を中型機でも実現している。
航空業界の現状と未来の課題

Q. 現在の航空業界の状況をどう見ていますか?
現在はインバウンド需要が好調で収益面では良好に見えるが、長期的視点では注意が必要だ。コロナ禍から5年が経過し、その間にトランプ関税などの新たな問題も発生した。過去のサイクルを考えると、3年から5年後には再び何らかの危機が訪れる可能性がある。
航空会社が生き残るためには、航空事業だけに依存しない事業の多角化が重要だ。航空関連の周辺事業を育て、航空事業が打撃を受けた際にもサポートできる体制を整えることが必須になる。
JALはラウンジで提供しているビーフカレーの外販を始めるなど、新たな収益源の開拓に取り組んでいる。これは単なる収益の多角化だけでなく、ロイヤルティの高い顧客との接点を増やし、マイルというタッチポイントを活用した新しいビジネスモデルの構築につながる取り組みだ。
ANAも機内食の通販など、事業開発に熱心に取り組んでいる。こうした周辺事業を育てながら、国際線の拡大にも注力している。
マイルプログラムの課題とは
Q. マイルプログラムの課題についてどう思いますか?
マイルプログラムは航空会社の重要な顧客接点だが、近年の運用には課題もある。マイルの必要数が急増したり、エコノミークラスの必要マイル数がファーストクラスを超えるような逆転現象が起きている場合がある。
これは経済原理では説明できるものの、顧客満足度の観点からは問題がある。マイルを貯めても使いにくい状況では、顧客のロイヤルティ低下につながりかねない。航空会社が掲げる「お客様に寄り添う」という理念に反する運用になっている面もある。
航空業界の持続可能な未来のために

Q. 航空業界の未来をより良くするために何が必要だと思いますか?
航空業界の華やかな部分だけに目が向けられがちだが、実際には多くのスタッフが地上でも厳しい環境で働いている。パイロットやキャビンアテンダントだけでなく、グランドスタッフや整備士など、多岐にわたる職種の人々の総合力で航空サービスは成り立っている。
航空業界の未来のためには、こうした見えない部分も含めた業界全体への理解と支援が必要だ。技術革新や顧客体験の向上と同時に、業界を支える人々の労働環境改善も考慮すべき重要な課題となっている。
