PIVOT TALK BUSINESS
北欧が産んだ、究極のグローバル企業:アトラスコプコの研究
(364)
8,295回視聴
2025年7月4日

日本企業のお手本はどこにあるのか?その一つが、北欧企業だ。スウェーデン発の産業機械メーカーのアトラスコプコ。営業利益率2割、ROE3割を誇る、究極のグローバル企業の独自哲学と戦略を、財務戦略アドバイザーの田中慎一氏に分析してもらった。 <ゲスト> 田中慎一|財務戦略アドバイザー/インテグリティ代表...
セクシーじゃないけど超収益力!スウェーデン最強の産業機械メーカー「アトラスコプコ」とは
スウェーデンの会社「アトラスコプコ」。聞いたことがない人も多いだろう。一見地味な産業機械メーカーだが、その事業モデルと徹底した資本効率へのこだわりが、この会社を「セクシー」にしている。スウェーデン企業の中で時価総額3位、創業150年を超える老舗でありながら、営業利益率20%を維持し続ける秘密とは。

Q. アトラスコプコとはどんな会社か?
スウェーデンの産業機械メーカーで、2021年に創業150周年を迎えた老舗のグローバル企業だ。ストックホルム郊外に本社を構え、スウェーデン企業の中では時価総額第3位を誇る。時価総額1位のSpotify、ボルボ、エリクソン、H&Mなど私たちに馴染みのある企業よりも大きい。
売上高は1,768億スウェーデンクローナ(約2.6兆円)で、日本企業で言えば東京ガスや三井不動産、製造業では住友化学やニデックと同規模だ。従業員数の点でも非常にグローバルで、本国スウェーデンには全従業員のわずか3%しかおらず、売上高でも本国の比率はたった1%という究極のグローバル企業だ。
Q. どのような事業を展開しているのか?
主に4つの事業分野を持っている:
1. コンプレッサー(圧縮空気技術):製造ラインなどで空気を圧縮して機械を動かす技術
2. 真空技術:空気を吸収して真空状態を作る技術
3. 産業技術:自動車製造プロセスなどで使用される機械
4. 動力技術:ポータブル発電機など
これらの事業のうち、コンプレッサー部門が最大の収益源で、売上・利益ともに約半分を占めている。
Q. なぜアトラスコプコは高い収益性を維持できるのか?
一番の秘密は「サービス比率の高さ」にある。全社の売上の37%、主力のコンプレッサー事業では43%が「サービス」だ。このサービス部門の利益率は約30%と非常に高く、全体の利益率を押し上げている。

アトラスコプコのサービスの特徴は、単なる機器の販売ではなく、「工場を止めない」という価値を提供していることだ。顧客側が行っていた保守管理業務をアトラスコプコが引き受け、IoTセンサーなどを活用して効率的に管理することで、顧客はコスト削減でき、アトラスコプコは安定した収益を得られる仕組みを構築している。
これは「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と「サステナビリティトランスフォーメーション」を同時に実現した事例と言える。デジタル化によって単純に効率化するだけでは売上が減ってしまうが、顧客のオペレーションの一部を自社のビジネスラインに取り込むことで、新たな収益源を生み出している。
Q. アトラスコプコのM&A戦略は?
アトラスコプコは小規模の買収を多数行う戦略をとっている。過去25年間の買収金額を見ると、最も多い年でも約2,000億円程度で、年間数十件の小規模買収を積み重ねている。一度に大型案件を手掛けて減損を出すようなリスクを取らない堅実な戦略だ。

象徴的な買収事例としては、2014年のイギリス企業エドワーズの買収があり、これがASMLのEUV(極端紫外線)露光装置で使われる真空技術につながっている。また、2020年のドイツ企業イシュラビジョンの買収は、スマートファクトリー分野での地位を確立する重要な案件だった。
一方で、収益性が高くても資産効率の観点から合わない事業は思い切って売却する決断力も持っている。2006年にはアメリカの建設機械レンタル子会社を売却したが、この事業は当時、全体の利益の1/4を稼いでいたにもかかわらず、資産効率(ROIC:投下資本利益率)が低いという理由で売却した。
Q. アトラスコプコの財務目標とは?
アトラスコプコは3つの明確な財務目標を持っている:
1. 売上高の年成長率8%(72の法則によれば約9年で売上が倍になる計算)
2. 使用資本利益率の高水準維持(具体的な数値は定めていないが、現在約30%)
3. 配当性向50%
特に売上成長率については、過去25年間で見ると、実際に約10年ごとに売上が倍になっており、目標通りの成長を実現している。使用資本利益率も産業機械メーカーの平均7.4%をはるかに上回る30%前後を維持している。
配当性向については50%に設定していることが特徴的だ。100%ではなく50%としているのは、残りの資金を柔軟に運用するためで、大きな売却があった年の翌年には自社株買いを積極的に行うなど、資本効率を常に高く維持するための調整弁として活用している。
Q. アトラスコプコの企業としての特徴は?
アトラスコプコの最大の特徴は「アセットライト思考」へのこだわりだ。資産を重く持たず、少ない資本で高い利益を上げることを一貫した方針としている。資産が重い事業は、たとえ収益性が高くても躊躇なく売却する決断力を持っている。
また、地域面でもプロダクト面でもバランスの良い事業ポートフォリオを構築している点も強みだ。主力のコンプレッサー事業は地域的にバランスよく収益を上げており、真空技術は半導体関連でアジアが強く、産業技術は自動車工場のある地域で強いなど、リスク分散ができている。
スウェーデン企業らしく、サステナビリティも重視しているが、単なる環境対応や多様性推進ではなく、「持続可能で収益性の高い成長(Sustainable Profitable Growth)」を掲げ、利益を伴うサステナビリティを追求している点が特徴的だ。
Q. アトラスコプコから学べることは?
1. DXの本質は単なるデジタル化ではなく、顧客の業務フローに沿った組織づくりと、顧客側のオペレーションを自社のビジネスラインに取り込むこと
2. サービスをコストセンターではなく、成長ドライバーとして位置づけることで、安定した高収益モデルを構築できる
3. 勝てるニッチ市場を明確化し、特許技術で差別化することで競争を避ける戦略の重要性
4. 資本効率を徹底的に重視し、収益性が高くても資産効率の悪い事業は思い切って手放す決断力
5. 小規模M&Aを多数積み重ねることでリスクを分散しながら成長する堅実な戦略

アトラスコプコは、一見地味な産業機械メーカーでありながら、その事業モデルと資本効率へのこだわりによって、持続的な高収益と成長を実現している企業だ。日本企業にとっても、特にDXやサステナビリティへの取り組みを進める上で、多くの示唆に富むモデルケースと言えるだろう。