
【キーワードは小規模・分散型】水道インフラを存続させるには
「老朽化する水道を生き返らせる新たな解決策」
高齢化と人口減少に直面する日本では、水道インフラの更新問題が深刻化している。限られた予算の中で、どのように水を安定供給していくべきか。
時代に合わせた新たな水道インフラの形とは。水ジャーナリストの橋本淳司氏に話を聞いた。

Q. 全国で老朽化が進む水道インフラについて、社会でどのような対策ができるのでしょうか?
昭和時代のインフラ整備は「人口増加」「需要増加」「環境悪化」という課題に対応するため、
浄水場や下水道処理場を建設し、パイプでつないで効率的に使う方法が採られてきた。
当時は料金収入も安定していたため、経営を意識せずとも水道普及は市民から喜ばれるものだった。
しかし現在は問いが変わってきている。
人口減少に見合う水道や下水道とは何か、水の使用量が減る中でどう対応すべきか、気候変動にどう備えるかといった課題に直面している。
これからは「長寿命化」、つまり今あるものを大事に使っていくこと、そして場合によっては「縮小」も必要になる。
水道事業は設備産業であり、人件費より施設にかかるコストが大きい。
全国平均では水道の供給能力の半分程度しか実際には使われていないため、施設の統合や縮小が可能だ。
Q. 具体的に施設統合などで成功している事例はありますか?
岩手県の岩手中部水道企業団では、3つの市町が一緒になって水道事業を統合した「広域化」を実施した。
広域化の最大のメリットは人材確保ができること。各自治体のスキルを統合し高めていくことができる。
さらに重要なのは、広域化によって「この浄水場は古くなったので廃止してもいい」という選択肢が増えること。
これにより将来の投資額を大幅に削減し、水道料金の急激な値上げを防ぐことができる。

Q. 広域化が都市部では有効だとして、人口が少ない地域ではどうすればいいのでしょうか?
水道も下水道も基本的に都市向けの解決方法だ。人口密度が高い地域ほど効率よく機能する。
一方、人口がまばらに減少する地域では水道網の維持が難しくなるが、だからといって水が使えなくなるというのはおかしい。
水は憲法で保障された生存権に関わる基本的権利だ。
そのため、注目されているのが「小規模分散型」の給水システムだ。
能登半島地震の際には、大きな浄水場や重要な水道管が壊れたため長期間の断水が発生した地域があった。
しかし井戸を使っていた地域や、酒造会社が井戸水を一般に開放した地域では、地震直後から水を使うことができた。
このように「水道」という道は壊れていても、「水栓」というポイントとして給水する設備があれば水は使える。
小規模分散型の技術には、井戸水の利用、発電用の水力を使った殺菌、簡易的な川の水のろ過、生物浄化法など様々な方法がある。
水源をどこに求めるか、どういう技術で飲めるレベルにするか、誰が運営するかなど、多様な選択肢がある。
Q. 実際に小規模分散型の水供給システムを導入している地域はありますか?
岡山県津山市の集落では、1990年代まで湧き水を生活用水として使用していたが、野生動物の糞尿問題で飲用に適さなくなった。
自治体に水道管を引いてほしいと要望したが、コスト面で難しいとされたため、住民が管理する簡易的な浄化装置を設置し、現在に至っている。

こうした小規模な技術による水供給は各地で行われており、水道料金という形式ではなく、
住民たちが資金を出し合って維持管理費用としてストックしているケースもある。その装置が持続可能であれば、それで十分なのだ。
Q. 小規模な水道システムの維持には、どのような課題がありますか?
高齢化が進むと管理組合の運営が難しくなることが課題だ。80歳の人が一番若い構成員で、次の世代にバトンを渡せないようなケースもある。
そこで重要になるのが技術の活用だ。例えば、センサーを使って水の貯水量を遠隔監視するなど、人手に代わる技術が必要になってくる。
都市部においても、下水道内をドローンが飛んで点検したり、IoT技術で24時間管内を監視したりする技術が今後普及していくだろう。
Q. 先進的な技術導入や意識の高さに地域差がありますが、その格差を埋めるにはどうすればよいですか?
これは自治体の人や市民の決断次第だ。自分たちで小さな技術を使って維持管理する方法を選ぶ地域もあれば、
中核都市と連携して広域化を図り、水道技術を継承していく地域もある。
いずれにせよ、自分たちの街をどうしていくかを考え、それからインフラを考えるという順序が重要だ。
岩手県八幡平市では「フューチャーセッション」という手法で、2040年代の未来人と対話しながら街の将来を考える取り組みをしている。
現在の住民は水道料金値上げに反対しがちだが、未来の住民役の人たちは「現在の人たちが少しでもインフラの持続のために頑張ってくれるとありがたい」と発言し、
それを受けて水道料金の値上げを決断した例もある。
Q. 日本の取り組みは国際的にも役立つのでしょうか?
日本が直面している人口減少の課題は、中国や韓国などアジア諸国でも今後同様に進行していくだろう。
日本が1970年代のオイルショック後に省エネ技術を確立し、それを海外展開して企業成長につなげたように、
水道インフラの最適化技術も海外展開できる可能性がある。
現在の水道システムと小規模技術をどうベストミックスさせるか、小規模水道技術をどう確立するかという課題に取り組むことで、
アフリカのサブサハラ地域など、今も水汲みに多くの時間を費やす人々の問題解決にも貢献できるかもしれない。
Q. 日本が参考にできる海外の事例はありますか?
ドイツの「シュタットベルケ」という仕組みは参考になる。
これは自治体が100%出資する事業者が水道、ゴミ処理、公共交通、エネルギー事業など複数の公共サービスを一括して運営するシステムだ。
下水道や公共交通は赤字になりやすく、エネルギー事業は黒字になりやすいが、
これらをまとめて一つの事業体が運営することで、全体として事業を成立させている。
そのため、過度な料金値上げをせずに適正な価格で住民サービスを提供できる。

Q. 私たち一人ひとりが水道インフラについて考えるために、何をすべきでしょうか?
普段何気なく使っている水がどこから来てどこへ流れていくのか、改めて考えることが大切だ。私たちは水の循環の中で生きている。
その循環は自然の循環だけでなく、水道や下水道という人工的な循環システムもあり、それを維持する技術や人がいることを意識する必要がある。
当たり前に思いすぎず、問題が起きてから注目するのではなく、
日頃から水の循環について考えることで、普段の水の使い方も変わってくるだろう。
