
経済政策を問う⑤自民党。石破茂、経済政策を語る
「個人を豊かにして消費を喚起する」石破氏が語る経済政策ビジョン
参院選に向けた経済同友会との共同企画として、自民党の石破茂総裁が経済政策についての考えを語った。聞き手は経済同友会の新浪剛史代表幹事。GDPを1000兆円に引き上げるための具体策、物価高対策、社会保障改革など、さまざまな経済政策について意見を交わした。

Q. 参院選に向けた経済政策における最大の争点は何だと考えますか?
1人1人が豊かな暮らしを送れること、そして日本が防災、安全保障、経済安全保障において揺るぎない国であることが重要だ。「揺るぎない日本、豊かな暮らし、そして強い経済」が最大の争点だと考える。
Q. GDP1000兆円を実現するための具体的な方策を教えてください
GDPは付加価値の総和であり、人々が「このお金を出してもこの商品が買いたい」「このサービスを受けたい」という価値を作り出すことが重要だ。
日本のGDPは1994年に世界のGDPの18%を占めていたが、現在は約4%に減少した。2010年代を見ると、日本の企業280万社の売上は7%伸び、利益と配当は140%伸びたが、給料はわずか2%しか伸びなかった。コストカット型の経済を続け、給料は上がらず、下請けに十分なお金も払われず、投資も行われなかった。

この状況を変えるには、個人の所得を増やし、潜在力がありながら伸ばしてこなかった地方、中小企業、農林水産業などの分野を成長させるべきだ。また、防災、医療、介護なども伸ばせる分野だ。これらの「伸びしろ」がある分野を伸ばし、個人を豊かにして消費を喚起することが重要だ。
Q. 企業の国内投資をどのように促進すべきでしょうか?
企業は過去30年で約340兆円の余剰資金を貯め、賃金はあまり上がらず、正規・非正規という区分も生まれた。デフレもほぼ終わりつつある中、どの分野に投資すべきかが重要だ。
DX、GX、AI、農業、漁業、林業、核融合などの分野に投資すべきだ。海外に投資してもリターンがあまり日本に戻ってこないため、日本において可能性を最大限に伸ばすべきだ。
例えば核融合が実用化されれば社会は大きく変わる。交通渋滞がなくなり、様々な病気の解明にもつながる可能性がある。エネルギー問題も解決する「地上に太陽を作る」取り組みだ。
10年前には考えられなかったDXやGXによって、地方の伸びしろも広がる。デジタル技術を活用することで、農業、漁業、林業、医療、介護などの人手不足を補うことができる。人手不足の解決策として「労働者を安い賃金で使う」という考え方から脱却することが最も重要だ。
Q. 労働の流動性の重要性についてどう考えますか?
労働者がどれだけスキルアップできるかが重要だ。単に流動性が高まって転職が増えても、所得が増えないケースも多い。それは「労働者の使い捨て」のようなものだ。
労働者が持っている能力を向上させることに企業も投資すべきであり、行政としても支援できるものは支援すべきだ。労働の流動化と労働者のスキルアップはセットで考えるべきだ。
投資もせず、労働者のスキルアップも支援せず、行政の支援だけで存続している「ゾンビ企業」は、経営者にとっても労働者にとっても不幸だ。労働者のスキルをアップさせ、会社の付加価値を高めていくことが大切だ。
Q. 最低賃金1500円の実現についてどのようにお考えですか?
高い給料を支払わなければ人は来ない。給料を高く払えないと言いながら人手不足に悩んでも状況は改善しない。高い給料を払って人材を確保しなければ、企業そのものが存続できないのは当然のことだ。
問題は、2010年代に労働生産性が上がったにもかかわらず、給料が増えなかったことだ。生産性向上の成果が労働者に還元されなかったことが問題だ。
Q. エッセンシャルワーカーをどのように増やしていくべきでしょうか?
エッセンシャルワーカーは社会共通資本のような側面がある。彼らがいなければ社会は成り立たない。そうした人々に社会として敬意を持ち、様々な負担を減らしていくことも、AIの活用などで可能になる部分がある。
「そういう人たちがいて社会は成り立っている」という意識改革が必要だ。介護に従事する人々の収入を上げるための見直しをしてきたが、実際に現場で働く人々の所得が上がっているかが重要だ。所得が上がれば人は来る。

保育士や教員も同様だ。教師は儲けのためにやる人はいないが、社会にとって非常に重要な仕事をしている人たちに対しては、儲けの世界とは異なる、公的な支援を考えていく必要がある。そうでなければ社会そのものが成り立たない。
Q. 規制緩和についてはどうお考えですか?
保育や介護の分野で規制緩和を行う場合、それによって現場の状況が悪化しないよう配慮する必要がある。規制緩和は良いが、そのことによって保育を受ける子どもたちや介護を受ける人たちの生活の質が低下したら本末転倒だ。
Q. 基礎研究・R&Dへの国の支援についてどのようにお考えですか?
核融合や量子コンピューティングの現場には天才のような人材がたくさんいる。しかし、そうした技術を支えているのは中小企業やさらに規模の小さな会社だ。そのような技術は他の分野でもニーズがあるはずだが、気づかれていないことが多い。
ドイツと日本を比較すると、人口も面積も日本より小さいドイツに経済規模で抜かれてしまった原因の一つとして、中小企業の海外展開の差がある。中小企業やスタートアップ、ベンチャー企業に対して国がどのような支援ができるかを早急に確立したい。
Q. 物価高に対してどのような対処をすべきだとお考えですか?
賃金上昇が物価上昇を上回ればよい。日本は賃金を上げることができる国だ。企業は利益と配当を増やし、内部留保も増やしてきたが、賃金を上げてこなかった。
昨年は33年ぶりの賃金上昇で、今年はそれを上回る見込みだが、直近では物価上昇の方がまだ高い。物価上昇自体が悪いとは思わないが、賃金上昇がそれを上回っていないことが問題だ。
特に低所得者や食べ盛りの子どもがいる家庭など、困っている人々に重点的に支援を行うべきだ。スピード感も重要だ。消費税の見直しは法律改正やシステム変更に1年程度かかるため、迅速な対応としては現実的でない。

マイナンバーに紐づけられた口座への給付は早く届けられる。低所得の大人には4万円、その他の大人には2万円、子どもには4万円の給付を行えば、例えば低所得の大人1人、その他の大人1人、子ども2人の世帯では合計14万円の支援となる。重要なのはスピード感と困っている人への重点化だ。
Q. 社会保障改革についてどのようにお考えですか?
医療保険制度が始まった頃は結核と労働災害が主な対象だったが、現在はがん、生活習慣病、認知症など、対象とする疾病が大きく変わっている。
がんについては検診をきちんと受けることが重要だ。生活習慣病は自分の努力でリスクを減らすことができる。認知症は社会参加により進行を遅らせることができる。
年金は積立方式への移行が難しい以上、保険料を払う人を増やすことが重要だ。医療については、どの分野を重点化するか、例えばOTC医薬品の活用や病床数の適正化など、医療の質を落とさずに何ができるかを専門家も交えて徹底的に議論し、答えを出す必要がある。
Q. 日本の将来像についてどのようにお考えですか?
人口減少下にあってもこの国は成長できる。諦めてはいけない。過去の失敗から目をそらさず、賃金を上げなかったことの問題点や、東京一極集中を止められなかったことなど、しっかり認識する必要がある。
東京一極集中は東京にもリスクを増やし、地方は消滅に向かう。どちらも幸せではない。政治が語るべきことをきちんと語れば、国民は必ず理解してくれると思う。この国はまだ成長する。