
「置き配」標準化
宅配・郵便の「当たり前」が変わる?置き配標準化で物流革命が近づく
「置き配」が標準サービスに変わる可能性が現実味を帯びてきた。国土交通省が宅配便の受け取り方法について検討会を開始し、従来の手渡しを基本としたサービス形態が大きく変わろうとしている。同時に、日本郵便も行政処分を受け物流網の再構築を迫られている。これらの動きは消費者の生活にどのような影響をもたらすのだろうか。戦略物流専門家の角井亮一氏に話を聞いた。

Q. 国交省が検討している「置き配の標準化」とは何ですか?
国土交通省は6月26日に「ラストマイル配送の効率化に向けた検討会」を開始しました。この検討会では宅配の標準約款に、従来含まれていなかった多様な受け取り方法を追加することを検討しています。既存の宅配事業者やeコマース企業、ドローンや宅配ロボットを手がける企業、物流クラウド関連企業など様々な分野の関係者が参加しています。
メディアでは「置き配標準化」として報道されていますが、検討会資料には「置き配」という言葉は明示されていません。ただし、これほど話題になっていることから、検討委員の中には置き配の標準化を推進したい意向の方がいると考えられます。
Q. 置き配が標準化されると何が変わりますか?
現在の宅配サービスでは、商品の手渡しが基本サービスとなっていて無料です。また再配達も無料で行われています。置き配は追加オプションとして提供されています。
検討会で議論されているのは、この関係を逆転させ「置き配」を標準サービス(無料)にし、「手渡し」を有料オプションにするという可能性です。これはアメリカなど海外ではすでに一般的なモデルです。アメリカでは置き配が標準で、手渡しやサインが必要な配達は10ドル(約1,500円)以上の追加料金がかかります。
Q. なぜ今、置き配の標準化が議論されているのですか?
最大の理由は再配達問題の解消です。国土交通省のデータによると、宅配便の再配達率は以前21〜25%ほどあったものが、現在は約10%まで低下しています。これは消費者のインターネットでの再配達予約や電話連絡の普及、さらにコロナ禍で一時的に置き配が増えたことが影響しています。

しかし、国交省の目標である再配達率6%にはまだ達していません。再配達は配送業者の大きな負担となっており、ドライバーは通常の1.5倍近い荷物を運ばなければならない状況が続いています。これがドライバー不足や離職につながる要因ともなっています。
Q. 日本郵便の行政処分との関連性はありますか?
日本郵便は6月25日に行政処分を受け、約2,500台の郵便トラックが運行停止となりました。一般貨物自動車運送事業の許可取消処分で、運送事業の利用許可も取り消されています。
当初は物流網に大きな混乱が生じるのではと懸念されましたが、実際には行政側も日本郵便側も事前に準備をしており、大きな混乱は起きていません。ただし、委託することによって通常相場より高い金額で外注することになるため、日本郵便の赤字がさらに増える可能性があります。
置き配の標準化は、こうした物流業界全体の課題解決の一環として議論されています。効率化によってコスト削減を図り、適正な対価を得るための仕組みづくりが求められているのです。
Q. 置き配の標準化に対する消費者の懸念点は何ですか?
最も多い懸念は盗難リスクです。日本人は比較的心配性な傾向があり、自分が被害に遭わなくても「盗まれたらどうしよう」という不安を持つ人が多いです。また、置き場所の問題もあります。住環境によって状況が異なり、タワーマンションなら宅配ボックスが充実していますが、ワンルームマンションでは宅配ボックスがすぐに満杯になってしまいます。都市部の一戸建ては道路に面していることが多く、商品を置く適切な場所がないケースもあります。
これに対しては、以下のような対策が考えられます:
1. 自宅用の宅配ボックスを設置する(ホームセンターなどで販売増加中)
2. 置き配バッグを利用する(通常は小さいが、開くと大きくなり、ワイヤーで固定できる)
アメリカではクリスマスシーズンになると、高級住宅街で宅配トラックの後をつけて置き配された商品を盗む事件が毎年起きています。そのため、防犯カメラの設置など対策を講じている家庭も多いです。
Q. 世界の郵便事業はどのような状況ですか?
郵便事業は各国のインフラとして水道や電気と同じレベルで重要ですが、維持が難しくなってきています。デンマークでは今年末で郵便事業が終了することが決まりました。他の国でも配達頻度を減らす傾向があり、例えば1日おきの配達(月・水・金)となっている国もあります。

日本郵便も赤字事業である郵便事業をゆうパックなどの物流事業の利益で補填する方針でしたが、今回の行政処分で物流事業も揺らいでいます。政府は郵政民営化法改正案の中で、国が保有する株の配当金650億円を郵便局維持費に転用する案を提出しています。完全な民営化ではなく、国との繋がりが続いている状況です。
Q. 置き配の標準化は実現すると思いますか?
実現するとしても時間がかかるでしょう。意識の問題もあるため、段階的に進めていく必要があります。重要なのは宅配会社としてサービスに対する適正な対価を得ることです。現在の再配達サービスは無料ですが、それに対する適正な対価がないことが問題です。

置き配が標準化されれば、宅配会社としては効率的な配送が可能になり、適正な対価を得られるようになります。また、ドライバーの負担軽減にもつながり、業界全体として働きやすい環境が整います。
消費者も、コロナ禍で経験した置き配の便利さ(インターホンが鳴らない、お風呂中に出る必要がないなど)を認識しています。今後、様々な利害関係者の意見を踏まえながら、日本の物流システムに適した形で標準化が進んでいくと考えられます。