PIVOT TALK HEALTH
出産費用の無償化
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2025年7月2日

2025年5月、厚生労働省は出産費用の無償化方針を発表した。しかしその内実は?医療保険適用か一時金増額か?出産にまつわるお金と誤解を、重見大介医師に聞いた。 <ゲスト> 重見大介|產婦人科專門医 日本医科大学付属病院等で産婦人科医として勤務したのち東京大学の公衆衛生大学院を経て大学院博士課程へ進学...
出産費用の無償化はどうなる?「保険適用」vs「一時金増額」のメリット・デメリット
2026年から出産費用が原則無償化される方針が政府から発表されたが、実際に「無償化」とはどういうことなのか。現状の出産費用はどうなっているのか、保険適用や自己負担はどうなるのか。制度だけでは解決できない現場の声や少子化の現実も含めて、産婦人科専門医の視点から出産・妊娠をめぐるお金の話と誤解について解説する。

Q. 現在の出産費用の制度はどうなっているの?
妊娠と出産は病気ではないという理由で医療保険の適用外となっている。本来は全額自費だが、妊産婦に負担がかからないよう、「出産育児一時金」という形で現在約50万円が支給される仕組みになっている。

多くの医療機関では、この一時金を直接医療機関に払う仕組みがあるため、妊婦さんが立て替える必要はない。全国平均の出産費用は約50.7万円で、一時金でほぼ相殺される計算だが、実際には出産だけでなく妊婦健診も自費のため、約8割の人が何らかの自己負担を強いられている。
出産費用には大きな地域差があり、東京都が最も高く、熊本県が最も安い。東京では一時金を超える費用がかかるケースが多いが、地方では一時金で賄えるか、お釣りが出るケースもある。
Q. 2026年からの「無償化」にはどんな案が検討されているの?
現在、大きく分けて2つの案が検討されている:
1. 医療保険適用案:出産を医療保険の対象にして、自己負担をゼロにする
2. 一時金増額案:出産育児一時金を増額して、実費を上回るようにする
どちらの案にもメリット・デメリットがある。
Q. 医療保険適用案のメリット・デメリットは?
メリット:
費用が全国で標準化され、地域差が解消される
制度としての整合性が取れる
デメリット:
妊娠・出産は病気ではないため、保険適用の概念とズレが生じる
3割負担が原則のため、完全無償化には別の仕組みが必要になる
医療機関の収入が固定化され、経営に影響が出る可能性がある
費用が固定されると医療の質に影響する可能性がある(古い機器の使用継続など)
産科医療機関の統廃合が加速する可能性がある
「保険適用になったとしても、私たちの世代だと3割負担があるので、例えば50万円の枠が設定されれば15万円ほどは払わなければならない。結局、無償化するにはその部分を補填する仕組みが必要になる」と重見氏は説明する。
Q. 一時金増額案のメリット・デメリットは?
メリット:
既存の制度を拡充するだけなので実施しやすい
医療機関の経営への影響が少ない
デメリット:
地域による価格差が解消されない
増額後に医療機関が分娩費用を上げる可能性があり、手出しが発生する妊婦さんがいなくなるとは限らない
費用の透明性が確保されにくい
「一時金が増額されても、東京都ではさらに分娩費用を上げるかもしれないし、地方でも赤字経営を続けていた医療機関が費用を上げる可能性がある」と重見氏は指摘する。
Q. どちらの案が良いと考えられている?
産婦人科医の立場からすると、出産費用の無償化自体には反対する人はいないが、少子化対策としての効果は限定的と見られている。

「出産費用の無償化は大きな一歩ではあるが、少子化の最大の原因が出産費用なのかと言われれば、そこは違うだろうと思う。少子化対策としての効果はかなり小さいだろう」と重見氏は述べる。
しかし、国が妊産婦をサポートする姿勢を示す意味では重要だと考えられている。
Q. 妊婦健診の費用はどうなるの?
現在の無償化の議論では、出産費用が中心で妊婦健診については焦点が当たっていない。妊婦健診は通常10〜14回程度あり、全て自費となる。
「妊婦健診は赤ちゃんとお母さんの安全のために絶対に受けてほしいもので、市区町村が公費で補助していますが、追加検査が必要になると自己負担が発生します。心配なサインがあれば追加検査を勧めることがありますが、妊婦さんとしては不安があれば断ることはできないでしょう」と重見氏は説明する。
妊婦さんの中には、健診費用についても議論してほしいという声が多い。
Q. 無痛分娩の現状は?
無痛分娩は、背中から細いチューブを入れて麻酔薬を注入し、下半身に麻酔を効かせる方法が一般的。費用は10〜20万円程度で、保険適用外の自己負担となる。
日本の無痛分娩率は約14%で、フランスなど海外に比べると低い。その理由として、日本では小規模な産科医療機関が多く、麻酔科医を配置することが難しいという事情がある。

「出産の痛みは医学的には必要ないことが研究でわかっている。赤ちゃんへの愛情や授乳にも関係なく、痛みをなくすこと自体は悪いことではない。痛みを取る選択肢が広がってほしいが、日本では小さな産科医療機関が多く、麻酔科医を配置するのが難しいという課題がある」と重見氏は説明する。
東京都は今年から無痛分娩の費用助成を始めており、注目されている。
Q. 卵子凍結は将来の妊娠に有効?
卵子凍結は年齢を重ねても子どもを持てる可能性を高める方法だが、成功率は高くない。
「凍結した卵子が使えるのは約6割程度で、最終的に出産に至るのは全体の1割程度というデータもあり、思ったより低い」と重見氏は説明する。
Q. 帝王切開は普通分娩より楽?
これは誤解だという。帝王切開は手術であり、背中からの麻酔で意識がある状態で行われる。出血量も多く、1リットルを超えることもある。また、赤ちゃんが生まれた後すぐに育児が始まるため、体の回復と育児を同時に行わなければならない状況になる。
Q. 男性も産後うつになる?
男性も産後うつになることがある。子どもがいる男性のうつ発症率は、女性とあまり変わらない割合で存在することが分かってきている。
出産・育児は母親だけでなく、パートナーにとっても大きな環境変化をもたらすものであり、メンタルヘルスのサポートは両親に必要だと考えられている。