PIVOT TALK BUSINESS
20、30代のための「人生の経営戦略」
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2025年7月1日

生成AIの勃興などにより、大きく変わる20、30代のキャリア。失敗のコストが低いこの時期をどう戦略的に過ごすべきなのか?『人生の経営戦略』の著者である山口周氏に聞いた。 <ゲスト> 山口周|著作家・独立研究家 電通、BCG 等で企業戦略策定/文化政策立案/組織開発/風土改革などに従事。中川政七商店...
若い世代に伝えたい「人生の経営戦略」Q&A
若者が今後の人生をどのように計画すべきか、著作家・独立研究家の山口周氏が経営戦略の考え方を応用して解説します。人生の各ステージにおける意思決定やキャリア、結婚など、幅広いテーマについての問答をお届けします。

Q. 若い世代は世の中の流行りや「これからは〇〇が稼げる」という言説に振り回されがちですが、どう考えるべきでしょうか?
世の中で言われていることにあまり振り回されない方がいいと思います。例えば最近の米国労働統計によると、かつて「これから食えるのはSTEM(科学・技術・工学・数学)分野だ」と言われていたコンピューターサイエンスの学位取得者の失業率がトップに入ってしまったことがあります。これは世間で言われていた「これから食える仕事」に多くの人が殺到した結果です。
ハーバードやスタンフォードを出ても就職できない人が出てきているという現状もあります。ビジネス書やビジネスニュースも若いうちに読みすぎると悪影響かもしれません。特に表面的な知識だけをピックアップする読み方ではなく、原理に踏み込んで自分で考えることが重要です。
実は「食えない」と思われている哲学や歴史といった人文科学の分野からも、ピーター・ティール(PayPal創業者)やジョージ・ソロス(投資家)など実業界で成功している人が多く出ています。自分の頭で考え、原理原則を身につけることが大切なのです。
Q. 20代の若者にとって、どのような経験や挑戦が重要なのでしょうか?
20代はとりあえず一度挫折してみることが大切です。今の若い人は挫折が足りないと感じます。人生の春(20代)と秋(50代以降)では失敗のコストが全く違います。若いうちは失敗してもすぐに忘れられますし、学習が生かせる期間が長いためリターンが大きい。一方でコストは小さいのです。
人生は運も大きく左右します。人生を通じての「当たり」の数はそんなに変わらないものですが、「外れ」のコストが若ければ若いほど小さくなります。だからサイコロを振るのは人生の早い方がいいということです。
例えば外資系コンサルティング会社のように、厳しい評価が明確にある環境で20代で「あなたには向いていない」と言われてやめることになっても、その後起業して上場した人もいますし、大体みんなその後幸せに生きています。むしろそのままコンサルタントを続けるよりもライフクオリティが上がっている場合が多いのです。

Q. 結婚について若い世代はどう考えるべきでしょうか?特に最近は結婚したくない人が増えていますが。
結婚そのものよりもパートナー選びが重要です。人生をマネジメントと考えたとき、「オプションバリュー」という考え方が大切になります。例えば、高給取りの人に見栄っ張りのパートナーがくっついて、ローンだらけの生活を強いられると、給料を下げられない状態になり、転職や新規事業など失敗する可能性のある選択肢(オプション)が人生から消えてしまいます。
重要なのは、収入が半分になったり、2-3年収入がなくなってもOKという状態のバランスシートを作っておくことです。結婚の大きなメリットとして、ファミリーポートフォリオを広げられるという点があります。例えば夫婦の一方が超安定的な仕事をしていれば、もう一方はリスクの高い挑戦ができるというポートフォリオを組むことができます。
また、離婚についてもネガティブに捉えず、ジョイントベンチャーの解消と考えた方がいいでしょう。現在の社会は合従連衡(パートナーシップ)を始めるコストも、解消するコストも高すぎます。これらのコストを下げれば、より合従連衡が起こりやすくなり、社会にとっても良いことではないでしょうか。

Q. 人生後半(50代以降)の孤独や社会的つながりについて、若いうちから考えておくべきことはありますか?
人生の春と夏(20-40代)は会社の中にネットワークができるので、そんなに寂しくなりません。問題は人生の秋(50代以降)に入って、会社というネットワークから外れていくタイミングで、会社の外側に社会関係資本が全然できていないと、一気にゼロリセットされてしまうことです。
ウェルビーイング(幸福)を実現するためには、人的資本、社会関係資本、金融資本のバランスが重要です。特に社会関係資本(人間関係)は幸福感に大きく影響します。漫画『僕らは生きているっ』では、企業で働いていた主人公の父親が定年退職すると、毎年300枚来ていた年賀状が3枚になったというエピソードがあります。「人生の300分の297は会社に置いてきた」という言葉は、日本人のキャリアと孤独の問題を象徴しています。
仕事の外側の人間関係、例えば友人、地元コミュニティ、学校関係のネットワークなどを持っていればいいのですが、そうでない場合は家族関係が重要な社会関係資本の基礎になります。結婚しない・子どもを持たないという選択はそれ自体否定されるものではありませんが、人生戦略としてウェルビーイングを長期で実現することを考えると、社会関係資本をどう築くかは重要なポイントです。

Q. 人生の目的や意義をどのように見つければいいのでしょうか?
人生は「目的論」で捉えるのと「プロセス論」で捉えるのと2つの考え方があります。総理大臣になるとか大企業の経営者になるといった到達点で設定する考え方もありますが、一方でプロセスの質が高ければいいという考え方もあります。
キャリアの元々の意味は「轍(わだち)」、つまり車輪が道路に残す跡のことです。轍は先にはなく、振り返った時に初めて浮かび上がってくるものです。その時その時で有意義なことをずっとやってきて楽しかったと思えるなら、目的が何かを考えなくてもいい人生を送れます。
20代で色々試してみると、何をしている時に自分が一番ワクワクするか、楽しいかが見えてきます。そこに身を寄せていければ、「何のために生きているのか」と問わなくなります。そういった問いをする人は、今やっていることがつまらないから問うのです。面白い仕事をして夢中になっている時には問いません。
心理学者チクセントミハイの「フロー理論」では、創造的な成果を出し続けている人たちの共通点として、つまらないと思ったらすぐ逃げ、面白そうだと思ったら積極的に突っ込んでいくという特徴があります。政治、科学、文学、芸術など分野は様々ですが、「フローの人生」を送っている人たちは、観念的に生きる意味を考えるのではなく、目の前の仕事や相手を楽しんでいるのです。

Q. これからの若い世代(20-30代)はどのような可能性を持っていますか?
下克上の時代だと思います。様々なテクノロジーが出てきて環境変化が起こると、経験や知識、スキルが不利になります。新しいテクノロジーが出てきた時に、それに最初にアクセスした人が下克上でひっくり返すのです。これからの若い人たちは、かつての若い人たちよりもはるかに世に出ていきやすい環境になるでしょう。
