PIVOT TALK BUSINESS
生成AIがもたらす、建築・不動産の大変化
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2025年6月30日

生成AIの誕生により、シミュレーションの精度と速度が大きく進化。建築と住宅購入のあり方が大きく変わっている。今起きている変化と、今後の住宅選びのヒントを、建築家で起業家の谷尻誠氏に聞いた。
AIが建築・不動産業界にもたらす革命的変化とは?谷尻誠が語る効率化とクリエイティビティの両立
建築家として活躍しながら10社ほどの会社経営も手がける谷尻誠氏。AIの導入により建築・デザインプロセスがどう変わるのか、そして建築家の未来はどうなるのかを語った。

Q. AIによって建築・デザイン業界は具体的に何が変わるのでしょうか?
効率化が圧倒的に図られると思います。建築業界では、プロジェクト初期段階では何もない状態で、どんな建物が立つのか、いくらかかるのかが分からない状況からスタートします。AIを活用することで短時間でビジュアライズできるようになり、理解が深まった状態で次のステップに進むことができます。
AIによって、従来のシミュレーションよりも精度の高い、バリエーション豊かな提案が可能になります。以前は初めてのプランを出すまで2ヶ月ほどかかっていましたが、人的作業とAIを組み合わせることで、よりクリティカルにビジュアライズできるようになりました。
これにより、判断が早くできるようになり、将来的にどうなるか分からなかったものがより明確になります。深い理解を得た状態でプロジェクトを進めたり、契約したりすることがやりやすくなっています。
Q. AIを活用した具体的な事例を教えてください
例えば、レストランを開業する場合、その場所に本当にレストランができるかどうかは、設備的な面から専門的に調査する必要があります。しかし、どのような空間ができるかをかなり早いスピードで検証し、「この空間はここに作れる可能性があります」ということをすぐに提示できるようになりました。
このような提案は1日もかからずに作成可能です。また、我々がこれまで手がけた作品のデータベースを使いながらプロンプトを構築してAIに指示することで、谷尻風のデザインに寄せることもできますし、様々な建築家のスタイルに合わせることも可能です。

さらに、手書きの簡単なイラストから本格的な空間イメージを生成したり、ある程度作り込んだ図面をAIに通して仕上げてもらったりすることもできます。季節によって景観がどう変わるかなど、様々なシチュエーションをすぐに作成できるのも大きな利点です。
Q. それによって不動産業界にはどのような変化がありますか?
不動産取引において、従来は土地の写真だけで売買が行われることが多く、そこにどんな建物が建つかを検証しないまま購入する方も多くいました。AIを活用することで、その土地に建てられる建物をビジュアル化し、土地と建物を一緒に顧客に見せながら不動産を提案できるようになります。
私たちは「見えてる」という法人を立ち上げ、不動産会社から依頼を受けて法的チェックを行い、その土地にどんな建物が建てられるかをビジュアル化して返すサービスを提供しています。これにより不動産の流動性をスムーズにし、信頼度を高める手助けをしています。

従来のパースと比較して、AIを活用したフォトリアルなパースは、あたかも実際に建物が建っているかのようなリアリティがあります。これにより、顧客は自分の土地や物件に対するイメージをより明確に持つことができます。
リノベーションや賃貸物件にも活用でき、家具のレイアウトまで含めた住み方のイメージを提供することもできます。将来的には、そこに置かれる家具のメーカーも指定してレイアウトし、そのまま顧客が発注できるようなところまで発展させたいと考えています。
Q. AIの導入でどれくらい効率化されましたか?
かなり効率化されました。感覚的には3分の1程度の時間で済むようになっています。従来はプランを作り、パースのアングルを決め、外注してパースを作り、戻ってきたものを調整するというやり取りにかなりの時間がかかっていましたが、AIによって提案するまでの時間が大幅に短縮されました。
個人的な生産性も大きく向上し、アシスタントがいなくても多くのことができるようになりました。議事録作成などもAIが担ってくれるので、1人で3役くらいこなせるようになっています。
ただし、AIをただ使えばいいというわけではありません。自分で考えることができない人がAIを使うと、結局コントロールもできず、いろいろな方向に進んでしまい、かえって時間がかかってしまうケースもあります。AIを上手に活用するには、自分の考えをしっかり持つことが重要です。
Q. 建築家の将来像はどう変わるでしょうか?
建築家の数としては、今ほど必要なくなる未来もあるかもしれません。ただ、建物のクオリティを担保するには、現場で作るのも人間ですし、細かいディテールや収まりを決める繊細な作業が必要です。その技術がしっかり構築されている限り、機械が作り始める状態にならない限りは、建築家は必要とされると思います。

若い建築家には「とにかくやってみろ」とアドバイスしています。AIより自分でデザインしたいという気持ちはあると思いますが、検証する作業においてAIは活用する価値があります。形を与える作業は私たち人間がやらなければなりませんが、AIによって自分の考えたものをビジュアライズする力が早く付くので、それをリアルに落とす技術を身につけていくことが大切です。
また、AIによって効率化された時間を有効活用することも重要です。仕事だけでなく、遊びや体験から得た感動や楽しさを設計に落とし込むことで、より良い建築を作ることができます。時間がシュリンクしたからといって仕事量を増やすのではなく、のんびりする時間や遊ぶ時間を大切にして、そこからアイデアを生み出してほしいと思います。
Q. 建築家の収入面についてはどうでしょうか?
建築家は「貧乏暇なし」と言われることが多いですね。例えば5000万円の家を設計する場合、設計料は10〜15%程度ですが、実質的に設計事務所に残るのは10%くらいです。それで500万円もらっても、2年かかると月々20万円程度。スタッフの給料や家賃、熱源費を払うとほとんど残りません。
大きなタワーマンションやオフィスビルを手がければ儲かると思いますが、クリエイティブなものができるかというと、似たようなものが多くなってしまいます。
建築家は物づくりが好きな人が多いですが、物を作るだけではその物の値段しか稼げません。事業の前段階から後段階まで全て一緒に考えていければ、事業としての費用がどうあるべきか、どこにお金をかけるべきかまでコミットでき、設計だけでなくフレームの外側まで設計できる状態になります。
今後は、建築家も建物だけでなく、正しく楽しく働いてビジネスもできるやり方自体を設計していくことが求められていくでしょう。