PIVOT TALK BUSINESS
病院大倒産時代。医療崩壊に導く5つの罪
(649)
9,334回視聴
2025年6月26日

2030年から85歳以上が急増。街には認知症高齢者が溢れる「地獄絵」が生まれる。これから訪れるであろう「医療の真実」と、それを防ぐための処方箋について、京浜病院院長の熊谷賴佳院長に話を聞いた。 <ゲスト> 熊谷賴佳|京浜病院 院長 1952年生まれ。1977年慶應義塾大学医学部卒業。東京大学医学部...
2030-2040年に日本の医療崩壊はどう進むか?病院経営者が警鐘を鳴らす深刻な未来と処方箋
「規模の拡大をしなければ病院経営は無理だ」と話す熊谷院長。日本の医療システムは制度疲労を起こし、特に中小病院が危機的状況に陥っている。このままでは2030-2040年、日本の医療は本格的な崩壊を迎えるという。

Q. 日本の病院はなぜ次々と倒産しているのでしょうか?
現在、日本の病院数は減少傾向にあり、特に中小病院が次々と倒産しています。最大の問題は経営の効率の悪さです。
戦後、国には全国に公立病院を建設する資金がなかったため、民間が病院経営を担うよう促されました。その結果、中小規模の病院が多数設立されました。これは日本の中小企業と同様の構造です。大企業も増えましたが、中小企業が経済を支える形になったのと同じく、医療も小規模な民間病院が多数を占めるようになりました。
本来なら政府が公立化や規模の修練など、不利益にならない形で病院の統合・再編を誘導する方策を示すべきでした。例えば、合併しても個人経営者の借金が残らないような法的措置などが必要だったのです。現状では借金だけが残るため、小規模のまま経営を続けざるを得ず、金融機関もそのような不安定な病院には融資を渋ります。結果として、ますます自立が困難になり、経営状態は悪化の一途をたどっています。

Q. 病院経営が厳しい具体的な理由は何ですか?
病院経営が厳しい理由はいくつかあります。まず建物の老朽化、物価の上昇、人件費の高騰といった問題があります。さらに効率化を進めるためにはデジタル化が不可欠ですが、電子カルテやコンピューターへの投資に対して見返りがありません。
しかも病院側は自己資金で投資することを求められますが、日々の経営で精一杯の病院にはそのような余裕はありません。投資余力のない病院はこれからも改善の見込みがなく、結果的に倒産へと向かうしかないのです。
さらに医療の価格は国によって決められているため、収入を増やす手段はほとんどありません。一方でコストは人件費を含めて増加の一途をたどっており、この構造的な問題が病院を追い詰めています。
Q. なぜ日本の医療政策はデータに基づいていないのですか?
日本の医療政策の最大の問題点は、データに基づいた政策決定がなされていないことです。例えば、誰がどこの医療機関で何の薬を使い、どんな病名がつけられて、その結果が良かったのか悪かったのか、何日間治療したのかといった基本的なデータが集約されていません。
先進国ではこうしたデータが中央コンピューターに集約され、自動的に分析されています。最近ではAIも活用され、どの治療が有効で無駄なのか、どんな疾患が流行しているのかが即座に把握できます。しかし日本ではそうしたシステムが整っていません。
厚生労働省の医系技官は最大でも6年、早ければ1年程度の臨床経験しかなく、多くは霞が関の役所内から医療の世界を見ています。こうした限られた経験しか持たない人々が医療の診療報酬点数などを決めているため、現場の実情を反映した政策が立案されにくいのです。

Q. 医療DXは進んでいますか?マイナンバーカードの活用は?
日本の医療DXは著しく遅れています。マイナンバーカードの医療への活用も始まったばかりですが、使い勝手が悪く、病名などの情報が整理されていません。情報がただ羅列されるだけで、自分で整理する必要があり、紙のカルテと比べても特に優れているとは言えません。
この状況は、日本が医療DXに遅れて取り組み始めたからです。欧米や韓国などの国々は20〜30年前からデジタル化を進めてきました。日本は今ようやくスタートラインに立ったばかりで、まだ初心者レベルなのです。
Q. 民間企業の病院経営参入が難しいのはなぜですか?
日本の医療法人制度では、「非営利」であることが絶対条件となっています。この非営利原則のもとでは、拡大再生産や効率化、規模の拡大のための資金をどこから調達するのかという問題が生じます。
公立病院や国立病院は国や自治体からの補助金で建て替えなどができ、土地建物の返済もありません。一方、民間病院は土地建物の返済から銀行融資の返済まで行いながら、利益を出してはいけないという非営利の原則に縛られています。
建物が40〜50年経って古くなり、デジタル化やマイナンバー対応のためのコンピューター導入が必要になっても、そのための資金を「非営利」の中でどう捻出するのかという難題に直面します。経営者の個人資産にも限りがあり、銀行も経営が不安定な病院には融資を渋ります。

Q. 株式会社による病院経営は問題ないのでしょうか?
日本には実際に株式会社が運営する病院がいくつか存在します。例えばNTT東日本の病院、JRの病院、日本交響病院、豊田記念病院、住友病院、飯塚病院などがあります。これらは元々は職域病院として、自社の従業員のための病院でしたが、地域の要望に応えて一般患者も受け入れるようになりました。
こうした株式会社立の病院が「儲けすぎている」とか「悪徳だ」という批判を聞いたことはありません。むしろNTTの病院は赤字で、NTTグループにとっては「お荷物」と言われるほど良心的な運営がなされています。
医師は医学部教育で「経営」や「利益」を考えることは医師らしくないと教えられてきました。しかし病院も経営である以上、ビジネスとして成立させなければ拡大再生産はできません。効率化できなければ新しい設備や快適な病院環境を整えることも、優秀な人材を確保することもできないのです。
Q. 患者側の医療に対する考え方も変わるべきでしょうか?
患者自身が自分が受ける医療についてもっと考える必要があります。例えば、100歳まで生きても寝たきりで意識がなく、体中にチューブが入った状態で病院のベッドに釘付けになるような生き方と、100歳まで元気で健康に過ごし、ある日眠るように亡くなるのとでは、ほとんどの人は後者を望むでしょう。
しかし現在の医療制度は「病気になってから」の治療に重点を置いています。予防医学は保険適用外で軽視されがちです。本来は、患者(利用者)の立場からすれば予防にもっと力を入れるべきなのです。
また、医療費の安さだけを追求すれば、質も下がっていきます。弱者を守るための制度と、質の高い医療を受けたい人のニーズは分けて考えるべきです。自分の人生設計に合った医療や介護、保障を自分で選べるようなメニューや組み合わせを提供することが、これからの時代には必要です。

Q. 高齢者医療の未来はどうなりますか?
このまま何も変わらなければ、2030年から2040年頃には深刻な状況が訪れる可能性があります。認知症の高齢者が病院に入れず、救急車で運ばれても「高齢で認知症があるから」という理由で受け入れを拒否されるケースが増えるでしょう。
もし認知機能の低下で家族との関係が悪化し、一人暮らしを余儀なくされた場合、頼る先もなく、相談方法もわからないまま孤立します。現在でも孤独死が増えていますが、将来は「外での孤独死」が増える可能性があります。
認知症の症状がある高齢者が徘徊して家に帰れなくなり、公園や河原で亡くなるようなケースも考えられます。高齢者の1/4から1/5程度は認知症や合併症を抱え、自分の状況を伝えられず、生活や食事も自力でできない状態になります。家族がいなければ、食べ物も買えず、ライフラインも止められ、冬は寒さで、夏は脱水で命を落とすリスクが高まります。

Q. この危機的状況を回避するためには何が必要ですか?
今から行動を起こせば、まだ間に合うかもしれません。現在のテクノロジーを活用し、国民の健康と生活を守るための投資を積極的に行うべきです。
具体的な改革としては、予防医学への保険適用拡大、医療データの一元管理とAI活用による効率化、病院の規模拡大や統合の促進などが挙げられます。また、患者自身が自分の人生設計に合った医療を選べるよう、医療の多様化も必要です。
基礎的な医療は全国民に保障しつつ、それ以上のサービスは選択制にするオーストラリアのような二段階方式の導入も一案です。さらに、医療経営の観点から非営利原則の見直しや、経営のプロが病院運営に参画できる仕組みづくりも検討すべきでしょう。
介護ロボットなどのテクノロジーによる解決も期待されますが、低コストでの実現は2050年以降になる可能性が高いため、それまでの「つなぎ」となる施策が急務です。
