
フジvs大株主
フジメディアHDの攻防戦 - スピンオフとプロキシーファイトの真相
フジテレビを傘下に持つフジ・メディアホールディングスを巡り、ダルトン・インベストメンツなどの株主が不動産事業のスピンオフなどを求める株主提案を行い、6月の株主総会に向けて注目が集まっている。この背景には何があるのか?『決算分析の地図』の著者で、ファインディールズ代表の村上茂久氏に解説してもらった。

Q. フジ・メディアHDの株主構成はどうなっていますか?
現在の株主構成を見ると、日本マスタートラスト信託銀行が9.3%、東宝が7.93%、野村彩氏が5%、文化放送が3%、NTTドコモが2.9%、関西テレビが2.6%となっています。
興味深いのは、メディアでよく取り上げられているダルトン・インベストメンツの名前が直接出てこないことです。これは、機関投資家がカストディ銀行(カストディアン)と呼ばれる信託銀行を媒介にして投資しているからです。例えば、日本マスタートラスト信託銀行やカストディ銀行の「裏側」に実際の投資家がいます。
半期報告書を見ると、その中に「日本アクティブバリューファンド」や「ダルトンインベストメント」という名前が出てきて、合計で6.19%の保有があることが分かります。つまり、カストディ銀行は多くの投資家の株式を管理している「器」のようなものです。
これは事務作業やオペレーションコストを削減するためで、特に機関投資家はこういった方法を取る傾向があります。ただし、大量保有報告書などでは実際の保有者名が明らかになります。
Q. ダルトンの株主提案とフジメディアの対応策の違いは何ですか?
ダルトンの株主提案は主に4つです。

1. 経営の独立性:社外取締役12名の提案(北尾吉孝氏なども含む)
2. 不動産事業のスピンオフ:分離させて独立させる
3. 政策保有株(持ち合い株)の売却:約3000億円規模の保有株の見直し
4. 放送メディア品質の改善:コンテンツ強化
一方、フジメディアホールディングスも5月16日に対応策を発表しました。主な内容は:
1. 人的資本経営:人権ファーストなど
2. 攻めの事業改革:コンテンツカンパニーへの進化、不採算部門の切り離し(ただし不動産は継続)
3. 中長期的な価値創造:政策保有株を3年以内に2000億円削減、ROE8%以上を目指す
4. ガバナンス重視:サクセッションプラン(後継者計画)の策定など
ダルトン側は「全体的に大きな進歩で、80%は私たちの言っていることを達成してくれている」としながらも、不動産事業のスピンオフとガバナンスについての違いを強調しています。
Q. 不動産事業のスピンオフとは具体的にどういうことですか?
スピンオフとは、企業の一部門を独立させる手法です。フジメディアの場合、不動産関連の子会社(サンケイビル、グランビスタホテル&リゾートなど)を集約した中間持ち株会社を作り、その株式を株主に分配する形になります。
重要なのは、スピンオフしても現金はフジメディアに入らないという点です。フジメディアの株主が、フジメディアの株とは別に、新たに不動産事業の株も持つことになります。株主は不動産会社の株を売却したり、IPOさせたりして利益を得ることができます。
これはコングロマリット・ディスカウント(複合企業の株価が割安になる現象)の解消を狙ったものです。投資家の視点では「フジメディアに不動産事業をやってもらう必要はなく、別々の会社として投資したい」という考えがあります。投資家は強みのある事業に集中してほしいと考えているのです。
一方、フジメディア側としては「不動産を売却して得た資金の一部を株主還元し、残りをメディア事業に投資してより強くしたい」と考えている可能性もあります。
Q. 政策保有株(持ち合い株)の問題点は何ですか?
フジメディアは投資有価証券として約5000億円(株式2000億円、社債630億円、債券400億円、その他350億円)を保有しています。特に非上場株式だけでも1354億円と多額です。
政策保有株は企業間の安定的な関係構築のために持ち合うものですが、問題点もあります。株主同士が相互に株を持ち合うことで、お互いの株主総会で議決権を行使する際に「口出ししない」関係になりがちです。これにより外部からのガバナンスが効きにくくなります。
戦後の日本経済は株式持ち合いやメインバンク制を前提に発展してきましたが、現在はこれが非効率を生む原因とも言われています。例えば生々しい不祥事などが起きた際も、持ち合い株主から声が上がりにくい構造があります。
村上世彰氏(村上ファンド)は著書「生涯投資家」で、経営者に対して「手元キャッシュや利益を生み出していない資産をどう活用するか」と問うべきだと主張しています。そして、①事業投資に使う、②株主還元する、③どちらもしないなら上場をやめる、という選択肢を示しています。
Q. プロキシーファイト(委任状争奪戦)とは何ですか?
今回の株主総会では、ダルトン側の取締役候補12名と、フジメディア側の候補者のどちらを選ぶかが争点となります。これは「投票」で決まりますが、その前に各株主に「私たちに投票してください」と働きかける活動が行われます。これが「委任状争奪戦(プロキシーファイト)」です。
特に機関投資家(年金基金や運用会社など)の投票行動が重要になります。機関投資家の背景には「インベストメントチェーン」と呼ばれる構造があり、最終的な受益者(個人)のお金がアセットオーナー(年金など)、アセットマネージャー(運用会社)を経て、カストディ銀行を通じて企業に投資されています。
機関投資家は「スチュワードシップコード」という原則に基づき、投資先企業の持続的成長のために対話や議決権行使を行う責任があります。この判断を助けるのが「議決権行使助言会社」(ISS、グラスルイスなど)で、どちらの提案が望ましいかについてレポートを出します。このレポートは機関投資家の投票行動に大きな影響を与えることがあります。
Q. この株主総会の結果はどのような意味を持ちますか?
この株主総会の結果は、日本企業のガバナンスや資本効率の考え方に大きな影響を与える可能性があります。特に「スチュワードシップコード」の考え方が一般にも広がるきっかけになるでしょう。

フジメディアはコンテンツ事業と不動産事業の二本柱で成長してきましたが、それが最適な形かどうかが問われています。不動産事業に頼らずに、本業のコンテンツ事業で利益を出せるか、また政策保有株の縮小でより効率的な経営ができるのかが焦点です。
日本のコンテンツは世界的に高い評価を受けており、フジメディアもドラゴンボールやドクタースランプアラレちゃんなど多くの名作を世に送り出してきました。その強みを活かして、不動産に頼らずにコンテンツ一本で勝負できるかどうかが問われています。
今後、日本の複合企業(コングロマリット)は同様の課題に向き合う必要があり、今回の事例がその大きなきっかけになるでしょう。
