PIVOT TALK BUSINESS
スーパー米農家が語る、コメ高騰の真相と解決策
(285)
1.4万回視聴
2025年6月3日

世間を騒がすコメ高騰。ただ、現場で働くコメ農家の声が届いてこない。今、現場で何が起きているのか?コメ政策をどう変えればいいのか?日本のコメは世界で勝てるのか?スーパー米農家の経営者に現場のリアルと打開策を聞いた。 <ゲスト> 江城嘉一|YUIME 取締役 沖縄県出身。2012年にYUIME前身のエ...
「米は安すぎた」「農地開放からの解放を」 米作りのプロが語る米高騰の真相と日本農業の未来
近年、米の価格高騰が話題になっている。しかし、これは本当に「高騰」と呼べるものなのか?米農家の視点からすると、むしろ「ようやく適正価格に戻りつつある」というのが実情かもしれない。今回、PIVOT TALKに登場した3名の米農家に、米価格上昇の真相と日本の農業政策の課題、そして未来への展望について話を聞いた。

Q. 米の高騰と言われていますが、実際のところどうなのでしょうか?
そもそもメディアが「高い、高い」とうるさすぎます。今の価格は20数年前に戻った水準に過ぎません。一方で生産原価はずっと上がり続けています。近年は地を這うような価格で、米農家は赤字でした。
インフレでモノの値段は上がっているのに、なぜ米だけ下がり続けていたのか。それが20数年前の相場に戻っただけなのに、急激に上がったことで「高くなった」と言われています。メディアがどんどん取り上げるので、消費者も心理的に「高い、どうしよう」となっています。
以前はご飯1杯60〜70円だったものが、120円ぐらいになったとして、それが本当に他の食材と比べて高いのかという視点が必要です。
Q. 米の価格が上がった原因は何ですか?
シンプルに言えば、供給が落ちて需要が上がったということです。米は市場がないと言われますが、そんなことはなく、市場原理で価格が決まっています。
供給面では、まず異常気象が大きな原因です。国連の世界気候変動パネルは「10万年に1度の異常気象が起きている」と指摘しています。これは世界的な現象で、アジアの米価格も日本より先に倍近く上がっていました。インドでは輸出規制を行うほどでした。

日本では高温による稲の生育不良に加え、「稲穂虫」という害虫の大発生が問題になっています。この虫は米の実がならなくなるもので、以前は絶滅寸前でしたが、温暖化で冬も暖かくなり、虫が越冬して大量発生しました。埼玉県では前年比43倍の個体数になっています。
また、作況指数にも問題があります。農水省は毎年、全国のサンプル調査で収穫量を予測していますが、現場感覚では100%取れていません。特に大規模農家ではコンバインでの収穫時に発生するロスなどが統計に反映されていないのです。このブレは数十万トン規模で供給不足をもたらしていると考えられます。
さらに、「縁故米」の増加も見逃せません。農家が親戚や知人に直接送る米が増えているのです。鳥取県だけでも前年比2000トン増加しており、全国では20万トン規模で流通から消えていると推測されます。
Q. 需要面ではどんな変化がありましたか?
コロナからウクライナ紛争にかけて、パンや小麦製品が値上がりしました。しかし米だけは上がらなかったのです。なぜなら米は国内需給100%だからです。そこに消費者が気づき、「米は安い」と思って需要が急増しました。

また、コロナ後のインバウンド回復も大きな要因です。円安の影響で外国人観光客が増加し、米の消費も増えています。これだけでも5万トン程度の需要増加につながっているでしょう。
さらに、「南海トラフ」への備えとして、家庭での備蓄が増えているという側面もあります。
需要が20万トン程度増加し、供給が20万トン程度減少したという計算になり、民間在庫が40万トン不足する状況になっています。これは市場原理から見れば、非常に自然な価格上昇なのです。
Q. 政府による備蓄米の放出は価格を下げるでしょうか?
間違いなく下がりません。なぜなら、流通業者はすでに高値で米を買っているからです。彼らが安く売るインセンティブがないのです。
むしろ問題は「米がない」ということです。価格が高くても今は棚にまだ少しはありますが、このままでは米が一切なくなる可能性があります。そうなれば状況はさらに悪化するでしょう。
備蓄米を放出するのは、少なくとも「米がある状態」を作るという点では必要な対応です。ただし、政府による価格介入という側面もあり、市場原理を重視する観点からは疑問があります。
Q. 日本の米政策をどう変えるべきでしょうか?
まず「農地開放からの解放」が必要です。戦後の農地改革で農地が細分化され、農家も細分化されました。当時はそれで良かったのですが、高齢化により急速に衰退しています。
現在、日本には230万ヘクタールの水田があり、所有者は400万人に上ります。大規模農家が効率的に農業をしようとしても、農地が「飛び地」になっているため生産性が上がりません。また、農地の集約には全員の同意が必要で、非常に難しい状況です。
解決策としては、地域ごとに「ゾーニング」をし、効率を重視するエリアと兼業農家を守るエリアを分けることが考えられます。また、農地バンクの強化や自治体による農地の集約促進も重要です。

さらに、農地の相続制度も問題です。農地法では原則として農業者でないと農地を所有できないにもかかわらず、相続では農業をやっていない子供が自動的に農地を相続できてしまいます。これにより共同所有の農地が増え、借りる手続きも煩雑になっています。本来は農地の相続が発生したら、認定農業者に集約されるような制度が必要です。
Q. 日本の農業政策の方向性として何が重要ですか?
価格政策から所得政策への転換が不可欠です。現在の政策は「減反」をして生産調整をし、価格を上げようというものですが、これに3500億円も使っています。
それよりも、消費者は市場原理で安い米を買えるようにしつつ、生産者には所得保証をする政策に変えるべきです。これは先進国では一般的な方向性で、価格政策を続けているのは韓国と日本くらいです。
また、これまで米価が暴落した時は「需要に応じた生産をしてください」と言われ、農家は頑張ってきました。しかし価格が上がると「なぜ高いのか」と批判されます。これは農家が人口の1%しかいないマイノリティだからです。
こうした状況を変えるためにも所得政策への転換が必要ですが、急激な変化ではなく「ソフトランディング」が重要です。日本の農業は2025年問題も抱えており、熟練農業者の知識をAIなどに継承していく取り組みも必要です。
農業は確かに課題が多いですが、日本には世界に誇る水路インフラがあり、生産性を上げる余地も大きいのです。適切な政策転換と現場の努力で、日本の農業には明るい未来があるはずです。