
日本が格下げされたら、ドル円はどう動くか?
日本の長期金利上昇の真相は?投資家が注目すべき要因とドル円の行方

Q. 日本の長期金利が最近上昇していますが、その背景は何ですか?
日本の長期金利、特に20年債や30年債などの超長期債の金利が最近上昇している。この背景には複数の要因がある。
まず5月20日に20年国債の入札が不調となり、需要減少から価格が下落し金利が上昇した。その後、政府が長期国債の発行額減額を検討しているという報道が出て一時的に金利は低下したが、翌28日の40年国債入札でも不調となり再び上昇した。
この状況は日本だけでなく、米国やイギリスなど他国でも長期金利が上昇する傾向がみられる。世界的な背景としては、トランプ前大統領の関税政策による先行き不透明感、各国での景気対策による国債発行増加懸念、インフレ率上昇懸念などが挙げられる。
Q. 日本特有の長期金利上昇要因はありますか?

日本固有の背景としては、いくつかの特徴的な要因がある。
1. 高水準の政府債務残高:インフレ率が高止まりする中で、金利も高止まりすると政府の利払い費が増加し、さらに債務が膨らむ懸念がある。
2. 参院選を控えて財政支出拡大に関する公約が増加:消費税減税などの議論があり、国債発行増加への警戒感がある。
3. 日銀による国債買入れ額の減少:昨年7月から四半期ごとに4000億円ずつ買入れ額を減らしており、需給バランスに影響している。
4. 銀行預金増加と資金運用商品の多様化:超長期債の主な投資家である生命保険会社などが、外貨建て保険などにシフトし、長期国債への需要が減少している。
5. 日本の金利水準とインフレ率のギャップ:日本の消費者物価指数の上昇率は主要国で最も高いにもかかわらず、30年国債金利は米英に比べて低い水準にある。
Q. 日本のインフレの背景には何がありますか?
日本のインフレには複数の要因がある。まず、日銀が国債を買い入れて市場に資金を供給したことで、世の中の貨幣量が増加している点が挙げられる。
もう一つの重要な要因は労働市場の問題だ。日本の就業者数は過去最高であるにもかかわらず、人手不足感が強い。これは一人当たりの労働時間が大幅に減少しているためだ。1990年と比較すると公式統計で20%、実質ではサービス残業を含めると30%程度労働時間が減少している。就業者数の増加を考慮しても、日本全体の労働時間は14〜20%程度減少していると推定される。
また、労働者の年齢構成もいびつになっており、55歳以上の労働者の割合が約30%なのに対し、20代の労働者は16%程度しかいない。このような状況下で、企業は若い人材を確保するために賃金を引き上げる必要があり、それが製品価格の上昇につながっている。
Q. 日本の財政問題の本質は何ですか?
日本の財政問題の本質は、国債発行を日銀が買うことに頼っている点にある。財政支出自体は必要に応じて行うべきだが、問題は資金調達の方法だ。
通常、政府が国債を発行して投資家から資金を調達し、その資金で支出を行う場合、民間全体が保有する資金量は変わらない。しかし日銀が国債を購入すると、市場に新たな資金が供給されるため、民間が保有する資金量が増加する。これはお金の価値を下げる(インフレを引き起こす)要因となる。
さらに、政府が困窮者に配った資金は最終的に富裕層に流れる傾向があり、所得格差を拡大させる可能性もある。例えば、支援金を受け取った人が消費に使うと、そのお金は企業オーナーなどの資産家に集まり、さらに高額な消費や投資に回るという循環が生じる。
Q. 米国の長期金利上昇の背景は何ですか?
米国の長期金利上昇には、いくつかの固有の背景がある。
まず高水準の財政赤字が続いており、経済が回復した2023〜24年でも赤字が大きく減少しなかった。また金利水準の高止まりにより利払い費が増加している。米国債務のデュレーション(平均償還期間)は約5年で、5年金利はコロナ前の1〜3%から現在は3〜5%に上昇している。
さらに、トランプ前大統領の再選期待による減税の高級化や、「The One Big Beautiful Bill」と呼ばれる法案が米下院を通過し、財政赤字拡大につながる懸念がある。関税引き上げによるインフレ懸念も長期金利を押し上げている。
また、米国債の約3割は外国人投資家が保有しており、米国からの資本流出懸念も金利上昇要因となっている。5月にはムーディーズが米国債の格下げを行っている。
Q. 長期金利の上昇は為替にどのような影響を与えますか?
長期金利の上昇自体は、直接的に為替レートに大きな影響を与えるわけではないが、最近のドル円相場の動向には注目すべき点がある。
現在、ドルが全般的に弱い状況にあり、これがドル円の下落(円高ドル安)要因となっている。トランプ前大統領の関税政策発表以降の主要通貨の対円レートを見ると、円は実はそれほど強くない。スイスフランやユーロなどの通貨は円よりも強く、年初と比較するとこれらの通貨に対しては円安となっている。
米国債の金利上昇が顕著なことから、米国からの資本流出が生じている可能性がある。しかし、この状況は長くは続かないと予想される。7月4日の米独立記念日までに関税問題は一定の落ち着きを見せ、減税や規制緩和などの前向きな話題に移行する可能性がある。IT産業の強さや株価の堅調さからも、資金は米国に戻ってくる可能性が高い。
Q. 日本が格下げされるリスクはありますか?その影響は?
日本の政府債務残高の大きさを考えると、格下げの可能性は否定できない。現在、日本国債の格付けはシングルA評価だが、これが格下げされてトリプルB評価になると、銀行格付けも引き下げられる可能性がある。
日本の銀行は海外向け貸出を増やしているが、これらの資金は主に市場から調達した外貨を使っている。格下げにより日本の銀行への資金供給にプレミアム(上乗せ金利)が要求されると、貸出金利も上昇せざるを得なくなる。
例えば現在5%で調達して5.2%で貸し出している場合、調達コストが7%に上昇すれば貸出金利も7.2%になる。借り手企業はそのような急激な金利上昇に耐えられず、借入金の返済を迫られるが、多くの場合、ドル建ての設備投資に資金を使っているため、返済のために円をドルに換える必要が生じる。これが円安要因となる。
これは1997〜98年に「ジャパンプレミアム」として実際に起きた現象だ。格下げの影響は国債市場だけでなく、円相場にも大きな影響を与える可能性がある。
Q. 今後の日本円の見通しはどうなりますか?

現在、投機筋は歴史的な水準の円ロング(買い持ち)ポジションを積み上げている。これが一気に解消されると、円安要因となる可能性がある。
また、日米間の通商交渉も活発化しており、その着地点の多くは円売り要因となりうる。例えば、石破茂氏が米国との間で約束した対米直接投資の増加(約30兆円規模)や、アラスカ天然ガスプロジェクトへの投資(6兆円以上)などが実現すれば、大規模な円売り要因となる。
日本製鉄によるUSスチール買収をめぐる動きも、最終的にはアラスカ天然ガスプロジェクトの実現に繋がる可能性がある。このプロジェクトは日本の投資で実施し、産出されるLNGを日本が購入するという構図で、投資も購入も円売り要因となる。
さらに、対米自動車貿易黒字の縮小圧力も円安要因となりうる。日本の対米貿易黒字約8.6兆円のうち7兆円は自動車関連であり、これが縮小すれば日本全体の貿易赤字が拡大し、円安につながる可能性がある。