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マイケル・ジャクソンに学ぶファイナンス思考【田中靖浩】
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2025年5月26日

EXIT・りんたろー。と国山ハセンが株・保険・住宅など資産運用にまつわるスキルセットを学ぶ。後編は「会計の世界史」著者・田中靖浩氏がイギリスの鉄道マニアの間で起きた投資ブームやファイナンス思考への変革について解説 <ゲスト> 田中靖浩(作家/公認会計士) 著書『会計の世界史』▷bit.ly/4jW...
会計の歴史を知れば、投資の未来が見える

「会計」という言葉を聞くと、多くの人は複雑で難解な数字の羅列を想像するかもしれない。しかし会計の歴史を紐解くと、そこには世界史を動かしてきた重要な発明と、社会や経済の大きな変革が見えてくる。
「最後の晩餐」の影に簿記の父

会計の起源は中世イタリアにある。当時のイタリアでは、船による貿易が盛んになり、商人たちが取引を記録する必要性から会計が発達した。特に重要なのがメディチ銀行で、彼らは複式簿記を活用して富を築いていった。
複式簿記とは、取引を借方と貸方の両面から記録する方法で、これによって商人たちは自分の財産状況を正確に把握できるようになった。この複式簿記の知識を広めたのが「簿記の父」と呼ばれるルカ・パチョーリだ。
パチョーリは「数学大全」という本の一部に簿記の内容を記載し、それが広まっていった。興味深いことに、パチョーリはレオナルド・ダ・ヴィンチと交流があり、ダ・ヴィンチは彼から数学を学んでいた。ダ・ヴィンチの有名な「最後の晩餐」の遠近法表現も、この数学的知識が影響している。
中世イタリアでは会計だけでなく、音楽の楽譜や地図なども同時期に発展した。これらは全て「漠然としたものを数値化して紙に記録する」という共通点を持つ。まさに「量的革命」とも言える変化が起きていたのである。
イギリスの投資マニア「レールウェイ・マニア」

時代は下り、産業革命期のイギリスでは鉄道の発展とともに会計も大きく変わった。鉄道会社は膨大な初期投資が必要だったため、これまでの単純な収支計算では対応できなくなった。
そこで生まれたのが「原価償却」という考え方だ。鉄道の線路や機関車などへの大きな投資を一度に費用計上するのではなく、使用期間に分散して計上する方法である。これにより表面上の利益を確保し、株主からの投資を継続して集めることができた。
この複雑化した会計を扱うために、「会計士」という専門職が誕生した。また、鉄道株に投資する人々は「レイルウェイマニア(鉄道狂)」と呼ばれ、喫茶店や酒場に集まって投資の相談をしていた。現代の投資コミュニティの原型とも言える存在だ。
鉄道の発展は会計だけでなく、標準時間の確立にも貢献した。各地で微妙に異なる時間を使っていては列車の運行に支障をきたすため、グリニッジ標準時が定められたのである。
スタンフォードやマッキンゼー...アメリカで起きた会計革命

イギリスの投資家たちは、自国での成功体験をもとにアメリカの鉄道事業にも投資を始めた。彼らは若い会計士たちをアメリカに派遣し、鉄道会社の決算書を持ち帰らせて投資判断の材料とした。
アメリカでは東西を結ぶ大陸横断鉄道が建設され、国土全体に鉄道網が広がっていった。この鉄道の発展により、アメリカ各地に移民が移り住み、様々な産業が生まれていった。
しかし、アメリカには当時、熟練した技術者が不足していた。そこでアメリカが編み出したのが「分業」という方法だった。一人の職人に頼るのではなく、作業を細分化して、誰でも簡単にできるようにしたのである。これによって大量生産が可能になり、フォードのT型自動車に代表される製造業が発展した。
製造業の発展とともに、会計の考え方も変化した。シカゴ大学では「管理会計」という新しい講座が始まり、経営者は過去の記録だけでなく、未来の計画である「予算」を立てることの重要性を学ぶようになった。この講座を始めたのがジェームズ・マッキンゼーで、後に彼は自分の名を冠したコンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」を設立した。
マイケル・ジャクソンに学ぶ「ファイナンス思考」

会計とファイナンスの違いを端的に表す事例として、ビートルズの楽曲権利を巡る話がある。ポール・マッカートニーは自分たちの楽曲の権利を買い戻そうとしたが、90億円という金額を高いと考えた小野洋子(ジョン・レノンの妻)の反対で実現しなかった。
その後、マイケル・ジャクソンが130億円でその権利を購入した。小野洋子が「いくら払うか」という会計的視点で判断したのに対し、マイケル・ジャクソンは「将来いくら稼げるか」というファイナンス的視点で判断したのである。結果的に、マイケル・ジャクソンの投資判断は正しく、十分なリターンを得ることができた。
未来の世界史はどうなる?

会計の歴史を振り返ると、商業・産業の発展とともに会計も進化してきたことがわかる。そして各国・地域の特性によって、経済の発展の仕方も異なっている。
宗教的背景から見ると、プロテスタントの国(イギリス、アメリカなど)は勤勉で大量生産・低価格路線を好む傾向がある。一方、カトリックの国(イタリア、フランスなど)は少量生産で高品質・高価格の商品を作る傾向がある。前者からはマクドナルドやコカ・コーラが生まれ、後者からはフェラーリやエルメスのような高級ブランドが生まれている。
日本は前者の影響を強く受け、ユニクロやニトリのような大量生産・低価格モデルで成功している企業がある。しかし、少子高齢化時代においては、カトリック的な「少量でも高品質で高価格」のビジネスモデルも参考になるだろう。
興味深いことに、現代では再び「個人」の価値が見直されている。大企業も従業員を大切にし始め、一周回って新たな形で個人の価値が認められる時代になりつつある。これからの時代は、大量生産と高品質生産の両方ができる「ハイブリッド」な企業が強くなるのではないだろうか。