PIVOT TALK BUSINESS
日産は新リストラ案で再生できるか?
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2025年5月16日

2万人の人員削減、7工場の統合・削減など新たなリストラ案を発表した日産。このリストラ案は十分なのか?成長戦略は見えたのか?今後のホンダとの関係も含めて、ジャーナリストの井上久男氏に聞いた。 <ゲスト> 井上久男|ジャーナリスト NECを経て1992年朝日新聞社に中途入社。2024年独立。現在は主に...
日産再建計画の真実――厳しい現実とホンダとの連携の可能性
エスピノーサ新社長による大胆な経営再建計画が発表された日産自動車。工場数を17から10に削減し、世界で約2万人の人員削減を実施するという踏み込んだ内容に業界の注目が集まっている。この計画は日産の生き残りをかけた最後の賭けとなるのか。自動車業界に精通するジャーナリスト・井上久男氏に聞いた。

Q: 今回のリストラ計画をどう評価していますか?
内田前社長時代から大規模なリストラクチャリングの必要性は社内外で指摘されていましたが、なかなか踏み込めませんでした。エスピノーサ社長はそこに踏み込み、実行する姿勢を示しました。痛みを伴う計画ですが、これを実行しなければ日産は生き残れないという明確なメッセージを発しています。
しかし、計画の規模感は1999年のゴーン氏によるリバイバルプランに似ているものの、当時とは大きく状況が異なります。当時は計画通りに実行すれば日産は回復できるという期待感が社内外にありました。しかし現在は、トランプ関税の影響による最大4500億円のマイナス影響、自動車の知能化という技術革新、BYDなどの新興勢力の台頭など、外部環境が大きく変化しています。
このリストラ計画を実行したからといって、日産が確実に再生できるという保証はないでしょう。
Q: 今後の業績見通しはどうですか?
2024年度の当期純利益は6709億円の赤字となり、2025年度の業績予想については第1四半期は発表したものの、通期では発表していません。これはトランプ関税の影響が大きく、実際の関税率が政府間交渉によって決まるため見通しが立てにくいためです。
特に日産はメキシコの生産拠点規模が大きく、メキシコからアメリカに輸出している車に対する関税の影響が不透明です。また、売れる見込みの新車が少ないことも2025年度の業績に影響を与えるでしょう。
加えて、2025年度にはコロナ禍初期に発行した約7000億円の社債が償還期を迎えます。日産は借り換えで対応すると説明していますが、キャッシュフロー面でも厳しい状況になる可能性があります。2025年度を乗り切れるかが、この再建計画の成否を占う重要な局面となるでしょう。
Q: コスト削減の規模は十分ですか?
今回のコスト削減目標は、著名なアナリストが予想していた数字に近く、この程度の規模であれば日産のコスト構造改善には十分でしょう。変動費と固定費合わせて5000億円という目標は、従来の目標よりも大幅に上方修正されています。

問題はトップラインをどう伸ばすかという成長戦略がまだ見えていない点です。「お客様の心に響く車を作る」といった抽象的な方針は示されていますが、具体的な成長戦略は不明確です。欧州ではルノーの力を借り、インドではルノーに任せ、アメリカではアライアンスを活用するなど、様々な地域でパートナーシップを模索する方針が見えています。
特に北米では、生産能力が余っている日産工場をホンダが使用するという選択肢も浮上していますが、これによって実際に売上が伸びるかは未知数です。
Q: ルノーとの関係はどうなりますか?
資本関係については、15%ずつの持ち合いを10%に下げることが発表されており、将来的には完全に解消される可能性もあります。しかし業務提携という意味での協業は、お互いにメリットがある限り続くでしょう。
例えばインドなどでは、ルノー主導で日産が車を作ってもらうような形になる可能性があります。資本面では離れていくものの、実務面では協力関係を継続するというのが現実的な選択肢になりそうです。
Q: ホンダとの距離感はどうなりますか?
エスピノーサ社長は「経営を安定させることが先決だが、新しいパートナーを探すことも非常に重要」と述べています。これは意味深な発言です。かつて日産とホンダが経営統合交渉をしていた際、ホンダ側が日産に強く求めていたのは「確実なターンアラウンド」でした。
ビジネスベースでの付き合いから始めて実績を積み、その後改めて資本提携の交渉に入る流れになる可能性があります。今回のリストラ計画がうまく進めば、それはホンダが以前から求めていた水準に近づくことになるでしょう。

北米ではトランプ関税の影響もあり、両社がどのように協力できるか話し合いが進んでいる可能性があります。経営統合のような大胆な形ではなく、生産設備の共有など段階的に協力関係を深めていくアプローチが取られるでしょう。
Q: 工場閉鎖の対象はどこになりそうですか?
グローバル全体で7工場を閉鎖するという計画について、具体的な対象は明らかにされていませんが、いくつか推測できる部分があります。インドの工場はルノーに任せると説明されており、事実上の閉鎖と見られます。アルゼンチンの車両生産からも撤退すると発表されています。また、メキシコにあるダイムラーとの合弁工場も機能していないため、閉鎖候補になる可能性があります。
日本国内の工場も閉鎖対象に含まれるという言及がありました。横須賀市にある追浜工場が有力候補とされています。ゴーン氏逮捕後の西川体制時にも追浜工場の閉鎖が検討されたことがありますが、生産部門の反対で見送られた経緯があります。今回は再び俎上に上る可能性が高いでしょう。
一方、九州工場(神田工場)は港に隣接した輸出拠点という位置づけで、工場規模も大きいため、閉鎖対象になる可能性は低いと見られています。
Q: 日産の海外人材活用に問題はありますか?
日産では、役員でもない課長や部長クラスの海外現地法人からの出向者が税引き後5000万円程度(税込みで約1億円)の年収を得ているケースがあります。これはゴーン時代の負の遺産とも言える報酬体系で、福利厚生も非常に手厚くなっています。
一方で2万人の人員削減を計画する中、こうした高額報酬を得ている外国人社員に対する社内の不満は大きくなっています。さらに問題なのは、これらの人材の中には4〜5年の短期滞在を経て本国に帰ろうとしている人も少なくないことです。こうした「外国人派閥」の存在は組織運営上の大きな課題となっています。

エスピノーサ社長はこの問題を認識していると思われますが、外国人同士という関係から対応が難しい面もあるかもしれません。このような組織内の不均衡を解消しなければ、リストラによる組織全体の士気向上は難しいでしょう。
Q: 日産は単独で生き残れますか?
ある程度再建できたとしても、日産が単独で生き残ることは厳しいでしょう。自動車の知能化や電動化には1兆円規模の投資が必要であり、開発コストを抑えるためには一定の規模が求められます。
ホンダは日産にとって組みやすいパートナーですし、台湾企業のホンハイ(鴻海)もアップルやNVIDIAとの関係があり、新技術分野での土地勘があります。日産の経営再建がある程度進めば、日産・ホンダ・三菱連合にホンハイが加わるという動きも出てくる可能性があります。
2025年度は厳しい状況が続くと予想されますが、2026年度から2027年度にかけての再建状況を見て、その後の連携強化が模索されるでしょう。今回の計画が明確に示されたことで、あとは実行できるかどうかという段階に入りました。
スピードが重要です。大きく変化する環境の中では、一度打ち出した計画も見直して軌道修正していく柔軟さが必要です。実行と軌道修正を繰り返しながら、この不透明な時代を乗り切っていく必要があるでしょう。