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単願から併願へ。公立高校入試の改革
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2025年5月19日

公立高校入試制度の「単願制」を廃止して、「併願制」を導入する提案が注目を集めている。併願制を実現する「受入保留アルゴリズム」とは何か?そのメリットは何か?導入へのハードルは何か?東京大学マーケットデザインセンターの小島武仁所長と、慶應義塾大学の中室牧子教授に聞いた。
高校入試「併願可能」に変わる教育革命―受け入れ保留アルゴリズム(DA)が変える未来
「生徒からすると、受かった中から最も志望度が高いところに行けるという良い面もあるし、学校側から見るとちゃんと定員を埋められるという良い面もある」―こう語るのは慶應義塾大学教授の中室牧子氏。公立高校入試改革の鍵となる「受け入れ保留アルゴリズム」とは何か?

Q: 公立高校入試で「単願」しかできないのはなぜ問題なのでしょうか?
現在の公立高校入試では、ほぼ100%の生徒が1校しか出願できない「単願制」となっています。大学入試では複数受験して合格した中から自分が最も行きたい大学を選べますが、高校ではそれができない仕組みになっています。令和7年の現代において非常に不自然な状況と言えます。

この単願制では、志望校選びが一種の「賭け」となり、生徒は勉強に集中するよりも「どこなら受かるか」という読み合いに労力を使わざるを得ません。より学業に集中してもらうためにも、この制度を改革する必要があります。
Q: 「受け入れ保留アルゴリズム(DA)」とは何ですか?
受け入れ保留アルゴリズム(Deferred Acceptance、DA)は、併願制を導入する際の混乱を防ぐためのシステムです。単純に併願制にすると、人気校に合格が集中して一部の生徒が複数の合格を得る一方、他の生徒は1つも合格を得られないといった不公平が生じる可能性があります。

DAは併願制と単願制の良いところを組み合わせ、アルゴリズムによって最適なマッチングを実現します。生徒は志望校を順位付けして提出し、学校側も合格順位をつけます。アルゴリズムが自動的に、各生徒にとって可能な限り高い志望順位の学校に入学できるよう調整します。
Q: DAアルゴリズムはどのように機能するのですか?
このアルゴリズムは、実際の入試プロセスをシミュレートします。具体的には以下のステップで処理されます:
1. 各学校は合格順位に沿って定員まで合格通知を出す
2. 生徒は複数の合格通知を受け取った場合、最も志望度の高い学校のみを保留し、他は辞退する
3. 辞退された学校は空いた定員分、次の合格候補者に通知を出す
4. このプロセスを、新たな追加合格が出なくなるまで繰り返す
5. 最終的に各生徒は保留していた学校への入学が確定する

これらの処理はコンピューターで一瞬のうちに実行され、最終的に「どの生徒も志望順位が可能な限り高い学校に入学できる」という結果を得ることができます。
Q: 他の国や分野でのDAの導入事例はありますか?
DAはすでに多くの場所で実績があります。例えばアメリカのニューヨーク市では2003年から高校入試にDAを導入しています。それ以前は単純な併願制を採用していましたが、大混乱が生じていました。
DA導入前はニューヨーク市の約30%の生徒が志望校のどこにも合格できないという状況でしたが、導入後はわずか3%まで減少しました。この成功を受け、ボストン、シカゴなど多くの大都市でもDAが導入されています。
日本でも保育園の入所調整や研修医の病院配属などですでに同様のシステムが使用されています。多くの自治体では、保護者が希望順に保育園を複数申請し、DAに似たシステムで入所先を決定しています。
Q: 「志望順位は偏差値順になる」という懸念はありませんか?
これは誤解です。DAでは各生徒が「自分にとっての志望順位」を提出するだけで、必ずしも偏差値が高い順に志望校を書く必要はありません。
実際、各地で「トップ校の定員割れ」と「工業・商業高校の倍率上昇」が同時に起きているケースがあります。これは就職の良さなど、偏差値以外の要素が志望理由になっているからです。
DAでは、生徒は家からの距離、特色ある部活動、学校の特性など、自分の価値観に合わせて志望順位を決めることができます。人気と偏差値は必ずしも一致せず、生徒の多様な希望を反映した結果が得られます。
Q: 第一志望を出した生徒を優先することはできませんか?
理論的には第一志望者を優先する「受け入れ即決方式」も存在しますが、様々な問題があります。この方式では、人気校は第一志望の生徒だけで定員が埋まってしまうため、第二志望以下での合格が極めて難しくなります。
結果として、本当は別の学校が第一志望でも、「合格可能性の高い学校を第一志望にする」という戦略的な行動を取らざるを得なくなります。これでは単願制の問題点が再び現れてしまいます。
実際、ボストン市やシカゴ市では当初この方式を採用していましたが、問題が生じたため受け入れ保留方式(DA)に変更しています。DAでは志望順位を戦略的に操作する必要がなく、純粋に自分の希望順に学校を並べることができます。
Q: 学校側にとってのメリットは何ですか?
学校にとっても大きなメリットがあります。単願制や単純な併願制では、定員管理が非常に難しいという問題がありました。大学入試では入学金を徴収することで「入学意思の確認」をしていますが、これも定員管理のための苦肉の策です。

DAでは、アルゴリズムが自動的に定員を管理します。学校は定員以上の合格者を出す心配がなく、かつ定員割れの場合は自動的に追加合格が出されるため、定員の調整が極めて容易になります。実際にこのシステムを導入した学区では、学校側からも非常に好評だったという報告があります。
Q: なぜ今までDAの導入が進まなかったのですか?
最大の理由は高校入試のデジタル化が遅れていたことです。これまでの入試プロセスは紙ベースで手作業が多く、マークシートや記述答案を物理的に運び、手作業で採点するといった非効率な方法が続いていました。
しかし、近年デジタル庁と文部科学省の取り組みにより、各都道府県でデジタル採点やオンライン出願などのデジタル化が進んできました。その結果、DAのような高度なシステムを導入することが現実的になってきたのです。
また、高校授業料の実質無償化により、従来は公立高校しか選択肢になかった生徒が私立高校も視野に入れるようになるため、選択肢の拡大とともに「どこを受験するか」の読み合いがさらに複雑になる可能性があります。この問題を解決するためにも、DAの導入は重要性を増しています。
Q: 実現に向けてはどのような進展がありますか?
デジタル担当大臣の河野太郎氏がこの提案に強い関心を示し、支持しています。中室教授と小島教授が河野氏に説明を行った結果、河野氏はSNSで長文の支持表明を投稿し、多くの人々の関心を集めました。
技術的には数週間から数ヶ月で導入可能であり、2年程度あれば十分に準備できるとされています。すでに保育園入所や研修医配属で似たシステムを運用しているため、高校入試への応用も比較的スムーズに行えるでしょう。
単願制の問題点を認識している高校生や保護者からも、この改革を支持する声が上がっています。教育の質を高め、生徒が本来の学びに集中できる環境を整えるためにも、DAの導入は重要な一歩となりそうです。