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トランプ関税は重商主義への回帰【篠田尚子×山田真哉】
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2025年5月10日

トランプ関税の真の狙いは重商主義回帰にあり?オタク会計士こと山田真哉氏の分析にファンドアナリストの篠田尚子氏が斬り込む <ゲスト> 山田真哉|公認会計士・税理士 東進ハイスクール勤務を経て、公認会計士に転身。著書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』は160万部突破のベストセラーに。講演では、貯蓄、投...
トランプ関税は「重商主義」の復活? 歴史から見る経済思想の50年周期
「重商主義に戻ったって話だと思っているんですよ。うん、重商主義は各国の貿易黒字を優先すると、その間のロジックは正直どうでもいいって話になってくると。そして歴史に残るような転換点なのかなという感じはありますね」
公認会計士で税理士の山田真哉氏がトランプ関税について語った言葉だ。最近話題のトランプ関税は単なる突発的な政策ではなく、歴史的な経済思想の流れの中で見ると理解しやすい。オタク会計士として知られる山田氏の分析をファンドアナリストの篠田尚子氏が聞き出す対談から、トランプ関税の本質と私たちの生活への影響を紐解いていく。

トランプ関税は本当に「正しい」のか?
Q: トランプ関税は「実は正しい」とする見方があるようですが、どういう意味ですか?
トランプ関税が「正しい」というのは、トランプ支持者たちの意図を理解する必要がある。彼らは感情的なアメリカ第一主義だけでなく、一定の経済的論理に基づいて行動している。アメリカの保守層、特に改革保守と言われる人々の理論からすると、そこまでおかしい話ではない。
トランプ政権は「アメリカファースト」「反グローバリズム」「力による交渉(ディール)」を掲げてきた。今回の関税引き上げは、保護貿易政策の一環として、貿易赤字削減や安全保障に関わる産業保護を目的としている。具体的には全ての国に対して10%の関税を課し、特に「悪い国」「ずるい国」と見なす相手に対してはさらに高い関税率を設定するというもの。
関税率の計算方法は複雑な計算式に基づくものではなく、単純に貿易赤字をなくすための割り算で算出されている。これは歴史的に見ると「重商主義」的な考え方への回帰だと理解できる。

重商主義から新自由主義まで:経済思想の歴史的変遷
Q: 「重商主義」とは何ですか?そして経済思想はどのように変遷してきたのでしょうか?
重商主義は1600年代から1700年代にかけて広まった経済思想で、国の富は輸出を増やし輸入を減らして貿易黒字を達成することで増大するという考え方。この時代、イギリス、フランス、スペイン、ポルトガル、後にドイツなどの国々が植民地獲得競争を繰り広げた。

1800年代になると、アダム・スミスの「レッセフェール(自由放任)」の思想に基づく自由主義が登場。各国・各地域が得意な産物を生産し自由に貿易することで、物価が下がり、争いも減少するという考え方だった。
しかし自由主義が行き過ぎた結果、1920年代に世界恐慌が発生。これに対応するためにケインズ主義(修正資本主義)が台頭し、国家がある程度経済を管理し、需要を創出して失業を減らす政策が取られるようになった。
1970年代には「国家による管理は非効率」という批判から、新自由主義(ネオリベラリズム)が登場。規制緩和、国営企業の民営化、自由貿易の促進などが進められた。
そして2015年頃から、新自由主義への反動として「経済ナショナリズム」が強まってきている。トランプの政策はこの流れに位置づけられ、歴史的に見れば約50年周期で経済思想が変化してきたことがわかる。
新自由主義への反発として経済ナショナリズムを掲げるトランプ元大統領
トランプ関税は単なる交渉術か本格的な政策転換か
Q: トランプ第1期政権と比べて、今回の関税政策にはどのような違いがありますか?
トランプ第1期政権では中国だけを対象にした関税政策を実施したが、今回はより包括的なアプローチに変わっている。第1期政権では一種の「ソフトランディング」を目指していたが、中国が迂回輸出によって関税を回避するなどの問題が発生し、期待した効果が得られなかった。
新自由主義の考え方では、自由貿易を促進することで各国の中間層が豊かになり、それによって民主主義が広がると想定されていた。しかし中国などの例を見ると、経済的な開放が必ずしも政治的な民主化につながらなかった。この「失敗」の教訓を生かし、今回はより広範囲で強力な関税政策を打ち出している。
10%という基本関税と「悪い国」に対する高関税の組み合わせは、第1期政権の経験から導き出された戦略だと理解できる。

消費税と経済ナショナリズム:日本への影響
Q: トランプ関税のような経済ナショナリズムは日本の税制にどう影響する可能性がありますか?
日本の消費税は新自由主義的な税制の代表例だ。この制度は輸出を有利にする仕組みになっている。国内での販売には消費税が課されるが、海外に輸出する場合は消費税がかからず、さらにそれまで支払った消費税も還付される仕組みだ。
消費税導入から30年以上経過し、日本経済の長期低迷もあって、消費税に対する批判が高まっている。食品の消費税0%案などは、新自由主義への反発として出てきた提案だが、実は複雑な面がある。
食品の消費税を0%にする案は、インボイス制度を維持し輸出の有利さを保ったまま国民の負担感を軽減する方策であり、純粋な反新自由主義ではなく、新自由主義の枠内での部分的修正と見ることもできる。
日本は経済思想の変化において約10年ほど世界に遅れる傾向があり、小泉政権時代の2000年代に本格的な新自由主義政策が導入された。このタイムラグを考えると、世界的な経済ナショナリズムの流れが日本に本格的に影響するのはこれからだろう。
税制と社会の変化:既得権益と世代間格差
Q: 日本の税制で時代に取り残されている部分はどこですか?
日本の税制には時代に合わなくなっている部分が多い。例えば「103万円の壁」のような年収の制限は、新自由主義的な考え方では労働市場を歪めるため好ましくないとされるが、完全には撤廃されていない。
サラリーマンの妻が被扶養者となる「第3号被保険者」制度も、1985年に導入された当時は「高齢女性の貧困防止」という観点から支持されたが、現在では自営業者の妻との不公平が指摘されている。
退職金課税の優遇措置も、多くの企業が退職金制度を持っていた時代の名残だが、現在は必ずしもすべての企業が退職金を支給しているわけではない。
こうした税制の問題は、既得権益層が多いと民主主義社会では変更が難しい。現在の日本の税制は修正資本主義の名残を残しつつ、部分的に新自由主義的改革が進んだ中途半端な状態にある。
今後20年程度で日本も経済ナショナリズムの流れに乗り、「国にとって重要な人材や産業は保護し、そうでないものは切り捨てる」という明確な選別が税制にも表れてくる可能性がある。

時代遅れになった税制の見直しが進む可能性がある
私たちの生活への影響:どう備えるべきか
Q: これらの経済思想の変化は私たちの生活にどう影響しますか?
経済ナショナリズムの台頭によって、国境を越えた取引に対する制限が増え、輸入品の価格上昇が予想される。ただし、各国政府も民衆の反発を恐れて、スマートフォンなど生活必需品については例外措置を設ける可能性が高い。
日本では消費税がどうなるかが一般市民にとって最も身近な問題となる。消費税は輸出優遇の仕組みを持つ新自由主義的な税制だが、経済ナショナリズムの流れの中で見直しの議論が高まる可能性がある。
ただし単純な消費税率引き下げではなく、食品の消費税0%化のような部分的な修正が現実的な選択肢となるだろう。これにより食料品の価格が下がる一方で、外食などには引き続き高い税率が適用される可能性がある。
社会保障制度についても、「第3号被保険者」のような既得権益は批判を受けつつも、完全な撤廃は難しい。経済ナショナリズムの流れの中で、国内産業保護と並行して、「国にとって重要」と判断される層への優遇措置が強化される一方、そうでない層は切り捨てられるリスクがある。
今後は「税金が身近になる時代」が来るだろう。これまであまり意識されてこなかった税制が、経済ナショナリズムの台頭によって一般市民の関心事となり、政治的な議論の焦点になることが予想される。