ECONOMICS101
最新経済指標で読み解く世界経済
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2025年5月8日

トランプ関税による影響が各種指標に現れ始めた。そんな中、FRBは7日に開いたFOMCで政策金利の据え置きを決めた。 利下げが遅れて景気が悪化するか、利下げが早すぎて物価抑制に失敗するか。最新の経済指標からこれからの経済を展望した。
トランプ関税で変わる世界経済、ドル安の影響は?エコノミストが解説
トランプ政権の関税政策が世界経済に激震を与えている。米国債が売られドル安が進行する中、エコノミストの永濱利廣氏と三井住友DSアセットマネジメントのチーフマクロストラテジスト・吉川雅幸氏が最新経済データから米国と世界経済の行方を分析した。

Q: 米国経済の状況はどうなっている?
現在の米国経済を理解するには、「ソフトデータ」と「ハードデータ」を区別して見る必要がある。「ソフトデータ」とは企業の景況感調査などの心理的な指標で、「ハードデータ」は実際の小売売上高や雇用統計など実態を示す指標だ。
現状、企業の心理を表すソフトデータは悪化しているが、経済活動の実態を表すハードデータはまだ悪化していない。例えば3月の小売売上高(変動の大きい自動車とガスを除く)は前月比0.4%増で、これを年率換算すると4.8%増となる強い数字だ。雇用統計も17万7000人の増加で、失業率が上がらないレベルの堅調な数値となっている。
米国で失業率が低下するか上昇するかの境目は、月間雇用増加数が12〜13万人程度。それより多ければ失業率は低下し、少なければ上昇する傾向がある。現状の17〜18万人の雇用増は失業率が低下する可能性すらある水準だ。
Q: ソフトデータとハードデータの乖離はいつ解消される?
ソフトデータが悪化してからハードデータに波及するまでは、平均的に3〜4ヶ月のタイムラグがある。指標によって差があり、早いものは2ヶ月程度、遅いものは5〜6ヶ月かかることもある。トランプ政権の関税政策の影響を考えると、5月頃から何らかの影響が出始め、秋頃に最も悪い状況になる可能性がある。
雇用統計自体は誤差が大きいデータだが、毎週発表される「新規失業保険申請件数」は信頼性が高い先行指標となる。現在は20万件台半ばで推移しているが、これが30万件や35万件に増えると、何か起きているとマーケットが感じ始める。
前回のトランプ政権時の2018年を振り返ると、春頃から追加関税の応酬が始まり、中間選挙のあった10〜12月期に経済状況が最悪になった。今回も同様のパターンが予想され、秋頃に状況が深刻化した時点でトランプ大統領も関税政策を緩和する方向に向かう可能性がある。

Q: 貿易統計の異常な数値は何を意味する?
近年のハードデータで唯一大きく変化しているのが貿易統計だ。3月の米国の貿易赤字は過去最大の1兆4005億ドルに達した。これは関税上昇前の「駆け込み輸入」現象が起きているためだ。
日本の消費税引き上げ前に耐久消費財の売上が一時的に増加するのと同様に、米国では関税上昇前に自動車やIT関連部品などが大量に輸入されている。これはGDPの1%以上という大きな影響を与えている(日本で言えば約6兆円、本州と四国を結ぶ橋が1本建設できる規模)。
この駆け込み輸入は4〜5月に反動が出ると予想されるが、その影響は米国経済よりも、日本やヨーロッパなど対米輸出国の製造業に大きく現れる可能性が高い。日本の鉱工業生産指数では、2月に一時的に改善したものの、3月には大きく悪化しており、すでに反動の兆候が見られる。
Q: 金融市場の異常な動きはなぜ起きている?
最も注目すべき異常な動きは、関税引き上げにもかかわらずドル安が進行していることだ。通常、関税を上げると輸入が減って輸出が増え、貿易収支が改善してドル高になるはずだが、現実は逆の動きが起きている。

この背景には複数の要因がある。まず、株価下落時に投資家がポジション解消のためにドル建て資産(株式・債券)を売却する動きがあった。さらに、より構造的な変化として、これまで「米国エクセプショナリズム」でアメリカに過度に集中していた投資資金が、リスク分散のために他の通貨圏に移動し始めている可能性がある。
具体的には、2023年に1兆2300億ドル、2024年には1兆4000億ドル以上がアメリカに流入していたが、この資金の一部が徐々に分散されている。ヨーロッパでは、ドイツを中心に財政政策が拡張的な方向に転換しており、これがユーロ高の材料となっている。
Q: 世界経済は景気後退に向かうのか?
トランプ関税による世界経済への影響は、成長率にどれだけのマイナス影響を与えるかがポイントとなる。大きく分けると、成長率への影響が0.5%程度か、1%程度かで状況は大きく異なる。
0.5%のマイナス影響であれば、株価は8%程度下落するものの、失業者が大幅に増加するような深刻な状況には至らない可能性が高い。一方、1%のマイナス影響となると企業利益は確実にマイナスになり、雇用情勢にも影響が出てくる。
現時点では、トランプ大統領が国債市場の混乱を見て一部関税の引き上げを延期するなど、一定の調整が入る可能性が高いため、0.5%程度のマイナス影響にとどまると予想される。
米国経済については、トランプ政権が掲げる関税には①交渉力の強化、②税収確保、③貿易赤字縮小という3つの目的がある。特に税収確保は、将来的な減税財源として使われる可能性が高く、秋から冬にかけて追加減税が現実味を帯びてくれば、FRB(連邦準備制度理事会)の利下げと相まって、米国経済の先行きに対する見方が改善する可能性がある。

Q: 日本経済への影響はどうか?
日本経済には2つの影響が予想される。一つは製造業の生産減少による景気後退圧力。もう一つは世界的な資源価格下落によるインフレ鈍化という良い面だ。
製造業、特に自動車産業は4月から米国の25%関税が適用され、部品も5月から関税がかかるため、大きな打撃を受ける可能性がある。一方で、世界経済減速懸念による資源価格下落に加え、円高進行で輸入物価が下がるため、日本のインフレ率は低下する見通しだ。
賃金については、今年の春闘ですでに高い賃上げが決まっているため、短期的には実質賃金の改善が期待できる。ただし、企業業績悪化の影響はボーナスに現れる可能性があり、来年の春闘では賃上げ率が鈍化するリスクもある。
日米通商交渉については、日本側は自動車関税の引き下げを求めているのに対し、米国側は10%の相互主義関税の上乗せ部分のみ緩和する姿勢を示している。交渉は日本にとって厳しいものになる可能性が高いが、時間の経過とともに米国側の経済指標が悪化すれば、日本の交渉ポジションが改善する余地もある。
最終的には、日本からの対米黒字(8兆2000億円のうち7兆円が自動車関連)を数年かけて減らす計画を示す必要があるだろう。具体的には日本企業の米国での現地生産拡大計画や、エネルギー・農産物の対米輸入拡大などがカードとなり得る。