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キーエンス流の「性弱説経営」。性善説では稼げない
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2025年5月13日

経営は性善説でも性悪説でもなく、“性弱説”で行うべきだ-―キーエンス出身のコンサルタント、高杉康成氏はそう唱える。キーエンス流の「性弱説経営」とは何か?どうすれば実践できるのか?高杉氏に聞いた。 <ゲスト> 高杉康成|コンセプト・シナジー代表 神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA)。中小企業診断...
キーエンス流「性弱説経営」とは何か?人間は「弱い」を前提に仕組みを作る
「人間は誰しも弱い存在だ」という前提に立って経営を行うことで、驚異的な成長を続けるキーエンス。その経営の根幹にある「性弱説」の考え方と、それを実践するための具体的な仕組みについて、キーエンス出身のコンサルタント・高杉康成氏に聞いた。

「性弱説」とは?キーエンスを表す言葉
キーエンス流の「性弱説経営」とは何か?
「性弱説」とは「人は弱いものだ」という前提に立って物事を考える考え方です。難しいことや大変なことは人はやりたがらない、マニュアル通り動かないかもしれない、指導しても抜けや漏れがあるかもしれない、計画を立ててもその通りに進まないかもしれない—といった「人間の弱さ」を前提に経営の仕組みを作ります。
この考え方は、キーエンスという会社を最も表す言葉でした。私は10年間キーエンスで働き、その後20年以上コンサルタントとして様々な企業を見てきましたが、キーエンスのような「性弱説」を徹底している企業はほとんど見たことがありません。

「性弱説」と対比して「性善説」という考え方があるのはなぜか?
「性弱説」の対局にあるのは本来「性悪説」なのですが、あえて「性善説」を対比させたのは、世の中の企業は圧倒的に「性善説」で経営している例が多いからです。「性善説」では、「社員は言われたことをきちんとやってくれるだろう」という前提で仕事を任せます。
しかし実際には、製造現場での偽装問題など、現場は「納期と品質の両方を満たせない」という状況で、無理をして不正が起きることがあります。これは「性善説」の限界を示しています。
「性弱説」と「性悪説」の違いは何か?
「性悪説」は「人間は根本的に悪い」という前提ですが、「性弱説」はもう少し現実的な見方です。悪気があってサボるわけではなく、人間は本質的に流されやすい、弱い存在だという認識です。
つまり、人間は根源的に悪い人でもなければ、皆が完璧に仕事をこなせる善人でもない。多くの人は根源的に「弱い」存在で、特に厳しい仕事になると、その弱さが出てしまうという現実を認めるのが「性弱説」の視点です。
性弱説経営の特徴:キーエンスの仕組み
キーエンスではどのようにして「性弱説」を経営に落とし込んでいるのか?
キーエンスでは「性弱説」を大前提として組織文化に落とし込んでいます。これは単に人を信じないということではなく、人間の弱さを前提にした上で、それでも成果を出せる仕組みを作るということです。
例えば、「この仕組みを作ったからみんな動いてくれるだろう」という甘い考えはなく、「この仕組みだと本当に動くのか?動かすためには何をしなければいけないか?」を必ず考えます。「性弱説」という考え方が、キーエンスの高い成果を生み出す力の根底にあるのです。

「報連相」や「同行営業」も性弱説の視点から考えられているのか?
一般的な「報連相」や「同行営業」も、キーエンスでは「性弱説」の視点で行われています。例えば、部下に新しい顧客訪問を任せる際、「性善説」なら「優秀だから大丈夫だろう」と任せきりにしますが、「性弱説」では「彼は優秀だが、新商品の特徴をしっかり伝えられないかもしれない」と考え、事前に準備を確認します。
そこで、キーエンスでは有名なロープレ(ロールプレイング)があります。これは部下が顧客に対して商品の特徴をきちんと説明できるかどうかを事前にチェックするためのものです。表面的には厳しく見えるかもしれませんが、この準備によって営業担当者は顧客先で成功し、「顧客に役立った」という実感を得られます。
「性弱説」だと管理が厳しくなりすぎないか?
一見すると「性弱説」に基づく管理は窮屈で嫌がられそうに思えますが、キーエンスではそうなっていません。なぜなら、厳しい管理によって本人の売上が上がり、給料が増えるという成果に直結しているからです。
例えば、事前の準備を入念に行うことで顧客訪問がうまくいき、成約率が高まります。これによって営業担当者は「顧客に役立てている」という満足感を得られ、単なるマイクロマネジメントではなく、自分の成長と成果に繋がる支援だと感じられるのです。
「性弱説」に基づく顧客ニーズの収集方法
顧客のニーズ収集も「性弱説」の視点で行われているのか?
顧客ニーズの収集も「性弱説」で考えています。つまり、「顧客の言うことも鵜呑みにせず、本当のニーズは何かを掘り下げる」という姿勢です。顧客自身も自分の真のニーズを言語化できていないことが多いからです。
顧客ニーズを「聞く」のではなく「炙り出す」とはどういう意味か?
顧客ニーズは単に聞くのではなく「炙り出す」必要があります。例えば、顧客が「ワンボックスの車が欲しい」と言った時、「なぜ欲しいのか」と掘り下げていくと「実は家族で年に数回キャンプに行くためだ」という真のニーズが見えてくることがあります。
顧客情報には、「いつ買うか」という営業情報、「何人で使うか」という使用情報、そして「なぜ必要か」という根本的な洗剤ニーズがあります。普通の企業は最初の二つしか聞かないことが多いですが、キーエンスでは特に「なぜ」という洗剤ニーズを徹底的に掘り下げます。
顧客が「明るい照明が欲しい」と言ったとき、実は「見やすさ」を求めていることもあります。この「明るさ」と「見やすさ」の違いを見極めることで、真のニーズに応える商品開発ができるのです。

なぜキーエンスの商品は高い利益率を維持できるのか?
キーエンスの商品が高い利益率を維持できるのは、顧客の洗剤ニーズを深く掘り下げ、世の中にない独自の価値を持つ商品を開発しているからです。既存の製品よりも性能が良いだけでは、価格は高くても2倍程度が限界です。
しかし、潜在的なニーズを掘り起こし、市場に相場感がないような独自の価値を提供できれば、8割という高い利益率も可能になります。これがキーエンスの商品開発の核心です。
性弱説経営の応用可能性
「性弱説」に基づく経営手法はどのような分野に応用できるか?
キーエンス流の商品企画手法は、すべての業界に適用できるわけではありません。特に「趣味思考」の商品、例えば食べ物のように「好き嫌い」で選ばれるものには適用が難しいです。「リンゴが好き」という嗜好を分解して深掘りすることは困難だからです。
一方、BtoB商品や、機能や効果が論理的に説明できる製品には応用しやすいです。ビジネス向けコンテンツや、実用的な製品などが該当します。

なぜ日本の組織は「性善説」に傾きがちなのか?
日本の組織が「性善説」に傾くのには社会的背景があります。かつての日本企業は技術力が高く、「優れた製品なら売れるだろう」という前提でも成功していました。しかし、グローバル競争が激化し、技術的な優位性だけでは勝てなくなった今、「性善説」では限界があります。
また、「性善説」は管理者にとって楽な面もあります。部下を信頼して任せた方が好かれますし、上司自身も過去に適切な指導を受けていないため、どう指導すれば良いか分からないケースも多いのです。
世界的に成功している企業は「性弱説」的な視点を持っているのか?
外資系企業が「性弱説」という言葉を使っているわけではありませんが、結果を出すために何が必要かを徹底的に考える点では似ています。成果へのコミットメントが強く、そのために必要な準備や管理をしっかり行います。
重要なのは「成果思考」と「性弱説」をセットで考えることです。単なる厳しい管理ではなく、成果を出すための合理的な仕組みとして「性弱説」を位置づけることで、効果的な経営が可能になります。