PIVOT TALK BUSINESS
オルツ粉飾疑惑の教訓。経済犯罪への刑事罰を日本は厳しくすべきだ
(145)
9,324回視聴
2025年5月2日

4月に発覚したオルツの粉飾決算疑惑。第三者委員会の調査結果も踏まえて、この出来事をどう教訓にすべきか?経済犯罪への刑事罰を厳格化すべきなのはなぜか?新興市場に詳しい、レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長に聞いた。 <ゲスト> 藤野 英人|レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長 CIO 1...
オルツの粉飾疑惑は「日本資本市場の信頼性問題」—レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長が警鐘を鳴らす
資本市場の信頼性を揺るがすオルツの粉飾疑惑。監査法人や幹事証券会社など業界のプロたちがなぜ見抜けなかったのか。そして今後、日本の資本市場はどうなるのか。市場関係者の一人として藤野英人氏に話を聞いた。

「資本市場の信頼性が3〜5年後退する可能性も」
Q: オルツの粉飾決算疑惑について、現時点でどのように受け止めていますか?
株価は1,400円から110円程度まで下落し、市場に大きな影響を与えています。この疑惑はまだ調査中ですが、市場の反応や第三者委員会設立の事実、証券取引等監視委員会の調査状況から見て、「疑惑ではあるものの限りなく黒に近い案件」と見ています。
この事態は2009年のFOI粉飾事件を思い起こさせます。FOI事件では売上の97%が粉飾だったという衝撃的な内容でした。その結果、IPO市場が1年半から2年間ほぼ機能しなくなりました。業界全体が反省し、東京証券取引所や監査法人、主幹事の調査強化など様々な対策を講じて市場が正常化した経緯があります。
そのような対策を講じた中で、なぜこのような案件がすり抜けたのか。これは非常に残念です。仮に疑惑が事実となれば、上場基準の引き上げ議論にもつながり、資本市場、特に新興市場やIPOへの信頼性が損なわれることになります。新興市場における資金調達の減少や市場の下落、IPO市場の低迷といった影響が出る可能性があります。

粉飾疑惑の影響を懸念する藤野英人氏
「監査法人、大和証券、ジャフコ、SBI...なぜプロたちが見過ごしたのか」
Q: 関係者の責任や全体のシステムについて、どう考えればよいでしょうか?
第三者委員会による詳細な分析が必要です。なぜこのような案件が見過ごされたのか、関係者へのインタビューを通じて明らかにすべきです。粉飾を見つからないための工夫があったかもしれませんし、何らかの心理的な穴があったのかもしれません。
特に不思議なのは、関わった関係者がいずれも業界で信頼されている立派な人たちだったことです。主幹事証券会社は大和証券でした。私たちも2年前に大和証券を通じて上場しましたが、その審査は非常に厳格でした。さらにベンチャーキャピタルもジャフコやSBIインベストメントという業界1、2位の会社が参加しています。
ベンチャーキャピタリストは多くの経営者や起業家と会い、怪しい企業を見分ける目を持っています。さらに金融系VCは投資案件が少なく、慎重な傾向があります。そのような目利きがなぜこの会社を見過ごしたのか、非常に不思議なのです。
「スタートアップは『白い嘘つき』でもあるが、粉飾とは別物」
Q: このような事態が起こりうるケースとして、どういった原因が考えられますか?
通常、VCやメディア、証券会社などが怪しい人物や企業と関わることはありません。恐らく当初、オルツは清潔で粉飾をしていなかった可能性が高く、粉飾のエスカレーションは最近の数年間で起きたのかもしれません。
起業家は「白い嘘つき」の側面を持っています。まだ実現していないことを「こうしたい」と語り、夢を描いて資金調達するのが起業の本質です。宇宙ベンチャーや開発中の遺伝子治療薬など、まだ実現していない技術への投資は、そういう前提で成り立っています。
できていないことを夢として語ることと、できているかのように嘘をついたり粉飾することは全く別物です。プロトタイプを作って将来的に製品が完成すると信じて取り組んでいたことは考えられます。おそらく熱心に取り組む姿勢やそれなりに機能するプロトタイプを見て、関係者は納得していたのではないでしょうか。
この見極めは言うほど簡単ではありません。特に監査法人の役割は重要で、アカウントを正確に数え、実際に稼働しているかを確認する義務があります。今回の疑惑が事実なら、監査法人に問題の起点があるかもしれませんが、全ての責任を監査法人に押し付けるのも適切ではないでしょう。
「再発防止には監査法人の厳格化と罰則強化が必要」
Q: このような事態を防ぐためには、どのような対策が必要でしょうか?
中心的な議論は上場基準の引き上げになるでしょう。チェックポイントが増え、売上の実査や循環取引のチェックが重要視されるでしょう。一つの解決策として、アメリカのように証券取引所が認定した監査法人のみが上場審査を行えるようにする方法が考えられます。
ただし、上場基準の引き上げには別の問題もあります。現状でも日本の上場基準は厳しく、例えば2年間の予算と実績の差分チェックや、上場直前の2年間は新規事業を控えるといった制約があります。これをさらに厳しくすると、上場できる会社が少なくなり、成長のモメンタムが失われる恐れがあります。
むしろ注目すべきは、違反者への罰則です。日本では証券取引法違反や粉飾決算の罰則がアメリカに比べて緩すぎます。FOI事件の社長と専務は懲役3年でしたが、エンロン事件では24年、ワールドコム事件では25年の実刑判決が出ています。
資本市場の信頼を損なう行為は、社会に対する重大な犯罪です。NISA制度の普及で個人投資家が増える中、資本市場への信頼を高めるためにも、罰則を3〜5倍に引き上げることも検討すべきではないでしょうか。

「全関係者が真摯に反省し、議論する場が必要」
Q: 資本市場全体、スタートアップ業界の信頼を回復するために何が必要ですか?
業界全体が真摯に反省すべきです。なぜこのようなことが起きたのか、関係者が逃げ隠れせずに議論することが重要です。大和証券やジャフコ、SBIインベストメントなど、名前が出た当事者も「関係ない」という姿勢ではなく、しっかり向き合うことが必要です。
現在、日証協や東証、日本取引所グループなどでスタートアップの未来について議論が進められています。再発防止策や新興市場の魅力向上、市場の活性化、資金調達の方法、魅力あるスタートアップの育成など、政治家、官僚、VC、経営者が真摯に向き合う機会にすべきです。
私は時価総額100億円以上という上場基準引き上げにはあまり賛成していません。角を矯めて牛を殺すような萎縮効果が大きすぎるでしょう。時価総額より流動性が重要です。実際に市場で売買が活発に行われているかどうかが重要なので、技術的には時価総額基準よりも流動性基準を上げるべきだと考えています。
流動性を高めるには、流動株を増やすことや魅力的なIR活動、そして投資価値のある利益や配当を出すという本質的な取り組みが必要です。時価総額が大きくても全く流動性がない会社もあり、そうした会社の方が問題だと思います。
資本市場の信頼回復には、本質的な企業価値向上の努力を促す制度設計が必要です。そのような議論を深め、日本の資本市場とスタートアップエコシステムの発展につなげていくべきでしょう。