PIVOT TALK BUSINESS
サムスンvs.トランプ関税。サムスンvs.中国
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2025年4月29日

韓国の雄として半導体とスマホで高シェアを誇るサムスン。ただ、近年は稼ぐ力が衰えている。サムスンに今、何が起きているのか?財務分析のプロである田中慎一氏に分析してもらった。 <ゲスト> 田中慎一|財務戦略アドバイザー・インテグリティ代表 1972年東京都生まれ。 慶應義塾大学経済学部卒業後、監査法人...
サムスン、「大企業病」と新たな挑戦—トランプ関税の影響は韓国企業を狙い撃ち?
韓国の巨大企業サムスンは、かつての猛烈な成長から「大企業病」の兆候を見せ始めている。現在のグローバルサプライチェーンを根本から変えようとするトランプ関税政策の中、サムスンはどのような変革を迫られているのか。財務分析のプロである田中慎一氏に聞いた。

サムスンも抱える「イノベーションのジレンマ」
Q: サムスンは現在、どのような課題に直面していますか?
サムスンもイノベーションのジレンマを抱えていて、新規事業が生まれていない状況だ。これはキャッチアップモデルの宿命とも言える。キャッチアップするまでは強いものの、その先の新たな価値創造には苦戦している。
半導体やパネルなどの分野で、かつては日本から韓国へ技術者が流出したが、今は韓国から中国へ同様の現象が起きている。サムスンは中国企業との技術流出をめぐる訴訟も起こしているが、被告席に立つのは元サムスンの技術者だったりする。

トランプ関税は韓国企業を狙い撃ちにしている?
Q: 最近のトランプ関税政策は、日本企業よりも韓国企業に影響が大きいのでしょうか?
トランプ関税は日本を狙い打ちにしていると言われることがあるが、実際には韓国への影響がより深刻と見ている。サムスンの地域別売上構成を見ると、アメリカ市場は過去10年ほどで約2倍に拡大し、現在では全体の約40%を占める最重要市場となっている。
一方で中国市場はそれほど伸びておらず、特に尹錫悦政権誕生後は日米関係を重視する姿勢から、中国での売上高が減少している傾向だ。
サムスンのサプライチェーン構造
Q: サムスンの生産・サプライチェーン構造はどうなっていますか?
サムスンの半導体製造拠点はほとんどが韓国に集中しており、アメリカにはテキサス州に小規模な拠点がある程度だ。一方、スマートフォンは半分以上をベトナムで生産している。
実はベトナムの輸出総額の約15%をサムスン製品が占めており、LGなど他の韓国企業も含めると、ベトナムの好調な輸出における韓国企業の貢献度は非常に高い。
ベトナムには優秀で比較的賃金の安い技術者が多く、韓国企業が戦略的に生産拠点を置いているのだ。これは日本の自動車メーカーがアメリカに現地工場を持つこととは異なるアプローチだ。
アメリカのサプライチェーン再構築は実現可能?
Q: アメリカが自国内での製造業復活を目指していますが、それは実現可能ですか?
現在のグローバルサプライチェーンは効率性と合理性を追求した結果であり、それを短期間で変えるのは非常に難しい。半導体やバッテリーなどの製造は単に設備や技術があるだけでは不十分で、大量生産を通じていかにコストを下げていくかが競争の肝だ。
日本もかつて追いつけなくなり市場シェアを失ったように、多くの専門家はアメリカ国内での半導体製造への回帰は現実的ではないと見ている。例えばスウェーデンで設立されたEV用バッテリー工場「ノースボルト」も、量産体制を確立できず1年で破綻している。
製造業には職人芸的なノウハウが必要で、単に工場を建設するだけでは解決しない課題がある。

サムスンはどう変わるのか
Q: かつてのサムスンの強みは何で、それは今も維持されていますか?
サムスンは「猛烈社員」と呼ばれる働き方で知られていた。出張先からの帰りの飛行機でレポートをまとめ、すぐに送信するような仕事ぶりがサムスンの強みだったとされてきた。
しかし近年、韓国でも日本の働き方改革に似た政策が導入され、特に文在寅政権時代に労働環境が大きく変化した。これにより昔ながらの「猛烈社員」文化が薄れてきていると言われている。
また、大企業病から逃れられず、失敗を恐れる文化が定着しつつあるとの指摘もある。それでも、サムスンは日本企業に比べて意思決定が速く、環境変化への適応力はまだ維持している。
サムスンの未来戦略と日本企業への示唆
Q: サムスンが新たに取り組んでいる事業や、日本企業が学ぶべき点はありますか?
興味深いのは、サムスンが半導体製造で培ったファウンドリー(受託製造)モデルを医薬品分野に応用している点だ。サムスンバイオロジックスという会社で医薬品の受託製造を行っており、世界で3〜4番目の規模に成長している。
これは故イ・ゴンヒ会長が「21世紀は医薬品の時代」と以前から予見していたビジョンの一つが形になりつつあるもので、今後のポテンシャルが期待される分野だ。
日本企業がサムスンから学ぶべき点は、環境適応力と意思決定の速さだろう。サムスンも課題を抱えているが、縦割り組織の弊害を解消するために複数事業を一人のCEOで統括するなど、組織改革に積極的に取り組んでいる。

歴史は繰り返す?製造業の主導権の移り変わり
Q: 製造業の主導権が国から国へ移る歴史的な流れがありますが、これは必然なのでしょうか?
歴史的に見ると、まずアメリカが主導し、次に物量重視の日本が台頭、日本は貿易摩擦を経て韓国に市場を奪われ、現在は韓国が中国に追い上げられている。この連鎖は必然的な流れに見える。
ただし、この課題を乗り越えてきたのはアメリカ企業だけだという点は注目に値する。アメリカはハードウェア製造からソフトウェアやIPで稼ぐモデルへと転換することで、製造業の空洞化という課題を乗り越えてきた。
一方、日本も韓国もソフトウェアやサービス分野では強みを発揮できていない。そして現在、中国はハードウェアもソフトウェアも両方で強さを見せており、将来的に全てを席巻する可能性もある。
製造業における大量生産と低コスト化の競争は続くが、その中でイノベーションを生み出し続けられるかどうかが、企業や国の命運を分けるポイントとなりそうだ。