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トランプが狙う「エネルギー覇権」。アラスカLNGの野望
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2025年4月26日

日米の関税交渉における主要なテーマの一つ、アラスカLNGプロジェクト。トランプ大統領が狙うエネルギー覇権とは?日本にとってアラスカLNGに投資する合理性はあるのか?日米関係に与える影響は何か?明治大学特任教授の杉田弘毅氏に聞いた。 <ゲスト> 杉田弘毅|ジャーナリスト/明治大学特任教授 1957年...
トランプ政権の「エネルギードミナンス」戦略とは?日本への影響を解説
トランプ政権が推進する「エネルギードミナンス(優位性)」戦略の中心となるアラスカLNGプロジェクトは、日米関係の新たな局面を示している。このプロジェクトをめぐる駆け引きは、単なるエネルギー取引の枠を超え、安全保障と経済が密接に絡み合う国際関係の縮図だ。440億ドル(約6兆円)という巨額投資が必要なこのプロジェクトは、日本にとってどのような意味を持つのか?

トランプ政権の「ドミナンス」戦略とは?
Q: トランプ政権が目指す「ドミナンス(優位性)」とは何ですか?
トランプ政権は主に4つの分野での優位性を確立しようとしています。まず軍事面での優位性。これは最新兵器の開発や同盟国との関係強化を通じた世界的な軍事的プレゼンスの維持です。次にIT・ハイテク分野での優位性。特にAI技術においてアメリカは強力な地位を築いています。
3つ目がエネルギー分野での優位性です。アメリカは世界最大の天然ガス・石油の生産国・輸出国になり、この地位を活用しようとしています。そして4つ目が通貨ドルの優位性。世界の基軸通貨としてのドルの地位を維持・強化することで、国際金融システムでの影響力を保持しようとしています。
Q: トランプ大統領はエネルギーに特別な関心を持っているのですか?
トランプ大統領は前政権時代から「エネルギードミナンス」という言葉を使い、「ドリル・ベイビー・ドリル(どんどん掘れ)」というスローガンで石油・天然ガスの開発を推進してきました。共和党全体として、環境問題より化石燃料の活用による経済効果を重視する傾向があります。
今回のトランプ政権では、就任初日にアラスカの化石燃料のポテンシャルを解放し、アメリカがエネルギー大国として復活するという大統領令を発表しました。さらに「国家エネルギードミナンス会議」という新組織を設立。これは国家安全保障会議や国家経済会議と並ぶ重要な組織として位置づけられています。
アメリカのエネルギー事情と日本への影響
Q: 現在のアメリカのエネルギー事情はどうなっていますか?
シェールオイル・シェールガス革命により、2017-18年頃からアメリカは世界最大の化石燃料生産国となりました。しかし、シェール石油の生産量はコロナ前がピークで、その後完全には回復していません。理由は資源量自体の減少傾向にあるためです。
このため、アメリカ全体としては石油から天然ガスへの移行を進めようとしています。アラスカ州では既に石油パイプラインは整備されていますが、今回は新たに天然ガスのパイプラインを建設する計画です。特にアラスカ州にとってはこのプロジェクトは重要で、州の財政の約85%が化石燃料関連収入に依存しています。
Q: アラスカのガスプロジェクトの課題は何ですか?
このプロジェクトには約440億ドル(約6兆円)という巨額の投資が必要です。しかも、パイプライン建設から完成まで最低5年はかかると見られています。その間に世界の天然ガス市場は大きく変化する可能性があります。
メキシコ湾(トランプ大統領は「アメリカ湾」と呼びたがっている)では既に多くのLNG基地が稼働中で、さらに新設も進んでいます。また、ロシアやカタールも天然ガスの輸出量を2倍に増やす計画を発表しています。このような状況下で、2030年頃には天然ガス価格が現在の半分程度まで下落する可能性もあり、投資の採算性が大きな課題となっています。
さらに政権交代のリスクもあります。バイデン政権は天然ガスの輸出増加が環境問題や国内のガス価格上昇を招く可能性を懸念していました。トランプ政権後に民主党政権が誕生した場合、このプロジェクトの方針が変わる可能性も否定できません。

日本の立場と外交カード
Q: 日本にとってこのプロジェクトはどのような意味を持ちますか?
日本にとっては、エネルギー供給源の多様化という意味では合理性があります。現在、日本は中東に大きく依存しているエネルギー調達先を分散させることができます。また、日米同盟を強化するという政治的意義もあります。
一方で、ビジネスとしての採算性に疑問がある中で、台湾のように安全保障上の理由から「安全保障の保険料」として参加するのか、純粋に経済的合理性を重視するのかという選択を迫られています。実際、アラスカ州知事が日本、韓国、台湾、タイを訪問した際、台湾は協力に前向きな姿勢を示しましたが、日本と韓国はより慎重な対応をしました。
Q: 日本はどのように交渉すべきでしょうか?
日本は実はカードを持っています。現在、日本はロシアのサハリン2から天然ガス輸入の約9%を調達しています。同じく約9%をアメリカから輸入しています。アメリカ側、特にトランプ政権に近いビル・ハガティ元駐日大使(現上院議員)は、日本がサハリン2からの輸入をすべてアラスカに切り替えることを期待しています。
ここで興味深いのは、ロシアのプーチン大統領もサハリン2の生産量を倍増して日本への輸出を増やしたいと考えていることです。つまり日本はアメリカとロシアを天秤にかけて交渉できる立場にあります。
加えて、パイプライン建設には鉄鋼やアルミニウムが大量に必要ですが、これらはトランプ政権が関税を課している品目です。もしアメリカがこのプロジェクトを真剣に進めたいなら、関税の除外などの譲歩を引き出せる可能性もあります。

日本の今後の選択
Q: このプロジェクトへの対応は日本の外交戦略上、どのような意味を持ちますか?
これは単なるエネルギー取引ではなく、日本がアメリカへの依存度をさらに高めるのか、あるいは多様な関係を模索するのかという外交戦略上の大きな分岐点です。歴史的に見ると、一国への過度の依存は結果的に従属関係を生む危険性があります。
日本は安全保障面ではアメリカに大きく依存していますが、エネルギーも含めた経済面でアメリカへの依存を強めることは、日本の選択肢を狭める可能性があります。完全な「プランB」はないとしても、「プランA+」として欧州、インド、オーストラリア、東南アジアなどとの関係を強化し、ネットワークを広げていくことが重要です。
とはいえ、日本としてはトランプ政権との関係を良好に保つ必要もあります。90日間の関税猶予措置の期限が迫る中、日米関係の新たな枠組みづくりは避けられません。このプロジェクトへの参加は、その中での交渉カードの一つとしても位置づけられるでしょう。
Q: 最終的な決断はどのように行われるのでしょうか?
このプロジェクトは政府と民間企業の連携が必要です。サハリン2では三井物産と三菱商事が参画していますが、同様にこのプロジェクトも大手商社を中心とした民間企業の参加が想定されます。ただし、民間企業だけではリスクが大きすぎるため、日米両政府による保証や支援が不可欠です。
なお、このプロジェクトは実は2014年頃から検討されていたもので、これまでにアメリカ国内企業や中国企業なども参入を検討しましたが、採算性の問題から撤退しています。日本としては「過去の経緯から見て現在のスキームでは採算が取れない」と主張し、より有利な条件を引き出す交渉を行うことになるでしょう。
アメリカ側が本気でこのプロジェクトを進めたいなら、政府保証やアラスカ州政府の支援、欧米メジャー企業の参加など、より広いスキームを提案する必要があります。日本は単に受け身の立場ではなく、交渉力を持った主体として対応することが求められています。