日本再興ラストチャンス
外食産業の賃上げは進むか?
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2025年4月20日

<外食産業の構造的な課題> ・価格競争に巻き込まれやすい ・個人店が多く、生産性の向上が難しい 政府が最低賃金1500円を目指す中、外食産業として構造改革が急がれる。どのような変革ができるのか? 有識者と共に、具体的なアクションを議論した。
飲食業界の課題と未来への道筋:人手不足時代に求められる価格転嫁と価値向上
日本の外食産業は24兆円という巨大市場を形成しながらも、長らく価格競争の中で苦しんできた。人口減少と人手不足が深刻化する中、この産業はどう変わっていくべきか。飲食業界のリーダーたちが語る現状と展望を、Q&A形式でまとめた。

Q: 飲食業界における最大の構造的問題は何ですか?
飲食業界の最大の構造的問題は裾野の広さと参入障壁の低さです。日本には約80万軒の飲食店があり、その約9割が中小零細・個人経営です。誰でも比較的容易に始められるため、激しい価格競争に陥りやすく、デフレ経済の中で最も問題が表面化した産業と言えます。
多くの店舗が小規模のため、規模の経済を活かしにくい状況です。外食産業はアート(独自性)とサイエンス(効率性)の融合ビジネスであり、業態によって規模の経済が働きやすいかどうかが分かれます。このような構造的特性から、産業全体としては高い収益性を上げる構造が築きにくくなっています。

Q: 安くて品質の高い日本の外食は消費者にとって良いことではないですか?
消費者視点では確かに日本の外食は安くて品質が高いという特徴があります。しかし、過度な低価格競争は様々な歪みを生み出します。価格競争が激しくなると、人件費の圧縮などを余儀なくされ、「人手不足倒産」のように、お客さんが並んでいるのに店を閉めざるを得ないような状況も生まれています。
外食産業は一番顕著に人手不足の影響が現れやすい産業です。結果として、本来持つべき価値提供ができなくなり、働く人のストレスが増大するという負のスパイラルに陥ることがあります。

Q: 人手不足時代の対応策として何が考えられますか?
人手不足への対応策として、主にDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用と事業構造の最適化が重要です。
ロイヤルホールディングスでは、意図的に店舗の規模を圧縮する取り組みを行っています。例えば、月に1日休業日を設けたり、営業時間を短縮したりすることで、店舗に余裕を持たせ、本来の価値を提供できる環境を整えています。結果として、1店舗あたりのアルバイト在籍数は過去最高水準となっています。
DXの面では、デジタル技術を活用して生産性を向上させる取り組みが進んでいます。モバイルオーダーやロボット活用など、特に標準化されたサービスを提供するファストフード業態などでは、無人化に近い形まで進む可能性があります。ただし最小限の人員は残るでしょう。
将来的には、①人によるおもてなしを重視した高付加価値店と、②徹底的にデジタル技術を駆使した効率型の店の二極化が進むと予想されます。
Q: 飲食業界のDX推進における障壁は何ですか?
DX推進の大きな障壁の一つがキャッシュレス対応です。現金取引が主流だと、レジ締めなどの作業に多くの時間がかかります。キャッシュレス決済が進めば大幅な効率化が可能ですが、日本ではまだ現金文化が強く残っています。
ワンダーテーブルでは2021年にオープンしたピータールーガというステーキハウスをオープン当初からキャッシュレス専用店として運営しています。月商2億円規模の店舗では、現金対応だと現金を数えるだけでも店長が帰れないほどの負担になるため、勇気を持って完全キャッシュレス化に踏み切りました。高単価店舗では現在8割程度がキャッシュレス決済に移行しています。
キャッシュレス普及のネックとなるのが決済手数料です。規模の大きい企業は手数料が優遇される一方、小規模店舗は3〜4%程度の高い手数料を負担しなければならず、特に中小企業にとっては大きな負担となっています。
Q: 賃金上昇と最低賃金1500円への引き上げについてどう考えますか?
最低賃金の引き上げは必要な流れです。ロイヤルホールディングスでは過去3年間で正社員のベースアップを20%程度実施し、アルバイト賃金も上昇しています。ワンダーテーブルでも同様に賃金を引き上げており、すでに一部店舗では1500円に近い時給を支払っています。

両社とも、賃金上昇と価格転嫁を同時に行うことが重要だと指摘しています。値上げをしないまま給料だけ上げると利益が減少してしまい、すべてのステークホルダーに対応できなくなります。勇気を持って価格転嫁を行い、その上で給料を上げるという姿勢が必要です。
研究面でも、最低賃金の引き上げは必ずしも雇用減少につながらないことが明らかになっています。ノーベル経済学賞を受賞したデビッド・カードの研究では、最低賃金を上げた州と上げなかった州の境界地域を比較した結果、最低賃金引き上げ後も雇用は減らず、企業は価格転嫁で対応していたことが分かっています。
Q: 人材の市場価値を高める取り組みはありますか?
人材の市場価値向上は業界の重要課題です。両社ともスキルの可視化や資格制度の創設などを通じて、飲食業界で働く人のキャリアパスを明確にする取り組みを進めています。
最近は転職サイトや求人広告でも飲食業界の求人が増え、特に有名ブランドでシェフとして働いた経験は市場価値が上がりつつあります。日本でも、実績を積んで次の職場で年収アップを実現するという、アメリカ型のキャリア構造に徐々に近づいています。
企業側も人的資本投資を重視するようになり、その重要性は高まっています。ただし、流動的な労働市場で人的資本投資をどう両立させるかは難しい課題として残っています。
Q: 外国人材の活用状況と課題は何ですか?
外国人材の活用は今後ますます重要になっています。ロイヤルホールディングスでは、2027年までに正社員の20%を外国人とする計画を持っており、多様性を会社に取り入れることを目指しています。
ワンダーテーブルではすでに国内事業でも25%が外国人社員となっています。海外ブランドを展開しインバウンド客を多く集客していることから、国内にいながらグローバルな感覚で働ける環境を整えています。
外国人材の活用で課題となるのは、文化や宗教の違いへの配慮です。例えば、母国の家族が病気になった際の休暇制度など、日本の制度だけでは対応できないケースもあります。また採用面では一般募集だけでは集まりにくく、ネットワークを活用したり、口コミで広がるような環境づくりが必要です。
Q: 日本食の海外展開の現状と可能性は?
日本食は世界的に高い評価を受けており、外国人観光客が日本で最も印象に残ったものとして食事を挙げることが多いです。日本食の競争力は高く、インバウンド市場でも重要な魅力となっています。
現在、日本国外には約20万軒の日本食レストランがあると言われていますが、そのうち日本企業が運営しているのは1割にも満たない状況です。現地の人々が運営する「なんちゃって日本食」が多く、本物の日本食文化を広げる余地は大きいです。
ワンダーテーブルは台湾だけでも50店舗以上を展開し、120億円の事業規模に成長しています。長期的なパートナーシップと「長く愛される店と人づくり」という価値観の共有が成功の鍵となっています。日本で厳しい競争を勝ち抜いた飲食企業には高い競争力があり、本物の日本食文化を世界に広げていく使命があります。